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実務編:エスクローってなに?

日本とハワイの不動産取引の違いで、大きな違いの一つに「エスクロー制度の有無」があります。

日本にはエスクロー会社がないのですが(と思いますが)、「エスクロー」という言葉は聞かれたことがあると思います。

エスクローとは、一般的に大雑把に定義すると、売買取引において買い手と売り手の間に中立的な第三者的な立場でエスクローエージェントを介在させることで、代金と商品の安全な交換を保証するサービスです。

アメリカでの不動産取引においては、ほとんどの場合、このエスクロー制度が利用されます。

ハワイの不動産取引でも、ほとんどがエスクロー会社のサービスが利用されます。

名義変更のみの場合などは弁護士事務所で名義変更手続きをしてもらえますので、エスクロー会社を介することなく登記が行えます。ですが、金銭が絡む場合は基本的にエスクロー会社を通すことになります。

ハワイにあるエスクロー会社は7社あります。2021年4月の時点で、日本人のエスクローオフィサーやスタッフを抱え、日本語対応が可能なエスクロー会社は、ファーストアメリカンタイトル社、タイトルギャランティー社です。

エスクロー会社はどの時点からお世話になるのでしょう?

ハワイの不動産売買は、まず買主と売主が売買契約に合意し、売買契約書に両者がサインを行ったところで「契約成立」となります。これも日本のシステムとは違い、基本的に「買い付け申し込み書」自体が「契約書」となります。

この契約の時点で、買主と売主両者が、利用するエスクロー会社とエスクローオフィサー(エスクロー担当責任者)に関する合意が取れています。

通常買主がエスクロー会社とエスクローオフィサーを指定したオファー(実質の契約書)を売主に提出します。

売り手市場のときは、オファーを売主に受領してもらうため、買主側としては、できるだけ売主が希望するエスクロー会社およびエスクローオフィサーを指定することが多いです。

契約が成立したら、買主側および売主側の不動産業者(エージェント)がエスクローに対して「エスクロー口座を開くための指示書」を作成し、成立した契約書および契約書に付随する付属書類を、担当のエスクローオフィサーに送ります。

このエスクローへの指示書と成約している契約書一式のコピーを受け取ったら、担当エスクローオフィサーがエスクロー口座を開設し、ここからエスクロー会社の任務がスタートします。

このエスクローはたくさんのことを行わなければならないのですが、簡単にいうと、購入契約に記載された要件や条項を整理し、必要に応じて追跡実行し、資金の保全や支払い、登記準備、タイトル保険の発行準備など、売買取引および登記手続きをスムーズに完了させるためのさまざまな任務を行います。

基本的に売買取引と登記手続きが完了したら、エスクローの仕事は終わりです。

ここで、エスクローの立場を知らない方が結構いらっしゃいますので注意です。

エスクローオフィサーは、当事者からの指示がないと動けない、ということを覚えておきましょう。

エスクローは、指示がない限り、何もできないのです。

エスクロー制度があるから安全です、とよく聞きますが、絶対安心なのでしょうか?

そうとも限りません。

エスクローを利用するので、問題など起こらないだろうと簡単に考えるのは危険です。

一番気をつけなければならないのは、買主が契約をキャンセルし、手付金を返してもらわなければならなくなったときです。

売買契約書は、買主の立場としては色々なタイミングでペナルティなしで契約をキャンセルすることができるようになっています。

例えば契約成立日(買主と売主の契約書への記載サインが揃った日)から15日以内に室内点検(その他近隣調査なども含む)を行えることになっている場合、この15日間以内に書面で売主側にキャンセルの旨を伝えることで、契約上は、エスクローに預けている手付金は全額買主に返金されることになっています(エスクロー会社の手数料が発生する場合はその手数料を引いた金額)。

この場合、ただ単に書面でキャンセルの意思を通達すれば、それだけでエスクロー会社に預けている手付金が返ってくるわけではないのです。

エスクロー会社が動くときには必ず「指示」が必要で、手付金をエスクロー口座からリリースするには、買主と売主両方の合意と、両方からの指示が必要なのです。

ですので、もしキャンセル期間のギリギリにキャンセル通知を出したとして、例えば日にちが空欄だったとか、一日遅れの日にちが記載してあったなどという場合、売主によっては手付金を返却することを拒否し、「エスクロー口座から手付金を買主に返却せよ」という指示書にサインをすることを拒むケースもあります。

売主が手付金返却のエスクロー指示書にサインをしない場合は、エスクローは買主に手付金を返却することができません。

返す、返さない、で揉めている間に時間が経つと、エスクローは一定期間以上は資金を保全しておくことができないため、裁判所に資金を渡さなければならないことになります。

一旦裁判所に資金が移ってしまうと、両者弁護士をたてて戦わなければならないこととなるので、両者ともども非常にコストがかかってきます。

キャンセルができる期間中であれば、手付金は全額戻ってきますよ、と説明を受けることが多いのですが、100%ではありません。

物件購入を決めて、オファーを提出する前に、自分のエージェントに、売主側のエージェントのこと、売主の背景を探りましょう。

探っておくといいこと

1. 自分のエージェントは、売主側エージェントをどのぐらい知っているか。
2. 売主側のエージェントは信頼できるエージェントか。
3. 売主は誰なのか。
4. 売主はどうしてその物件を売ろうとしているのか。

自分の使っているエージェントと相談して、できればオファーを提出する前にタイトルレポートを入手し、内容をじっくりチェックするのがおすすめです。

また、エージェントに買いたいと思っている物件の名義を調べてもらい、その名前をインターネットで検索してみることをお勧めします。全部はわからなくても、意外な発見があることもあります。

オファーを出す前に、必ずその物件と売主の下調べをしておきましょう。

そして、少しでも心配な要素があり、それでもその物件がほしい場合、手付金は戻ってこなくても諦められるぐらいの金額にしておきましょう。

エスクロー制度と、それにまつわるポイントのお勉強でした。

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