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歯塚傷子
2017年8月20日 19:05
その少女をAと呼ぶことにする。国家が人口の再生産にのみ固執した結果として、今や個人は名を持たなくなった。少女Aの曽祖父母の代まで、人々は固有の名前を持っていたというが、Aはそのことを知らずに生まれ、育った。Aは高校の制服のカッターシャツと臙脂色のリボンに、ブラウンを基調にした膝上7cm丈のチェックのスカートと紺色のハイソックス、こげ茶のローファーに身を包み、肩に合皮の通学鞄をかけて新宿の街をゆ