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「将棋界の一番長い日」が始まった!

将棋の名人位挑戦権をかけて、昨年6月からの戦いが進んできた第77期A級順位戦の最終9回戦は、今日3月1日午前9時から対局が始まった。A級順位戦の最終戦は一斉対局で行われる。名人への挑戦者決定とともに、降級者2名も決定する明暗がはっきり分かれるこの日は、その対局時間の長さや密度の濃さから「将棋界の一番長い日」と呼ばれ、近年はネット中継の普及もあって、より注目されるようになっている。「将棋界の一番長い日」というフレーズは、1997年3月の第55期A級順位戦最終局をNHK BS2(現在のBSプレミアム)で中継した時の番組タイトルで(「将棋界で」と書いている記事もあるが、「将棋界の」が正しい)、BSでの中継は2012年まで続いた。現在はニコ生やAbema TVでライブ中継されている。

3度目となる静岡・浮月楼決戦

今年のA級順位戦最終局は、「第77期名人戦第0局」と銘打ち、静岡市の浮月楼で一斉対局で行われている。2015年に没後400年を迎えた徳川家康公は、将棋をこよなく愛した武将としても知られており、将棋名人制度創設に深く関わった徳川家康公を顕彰するため、2014年の第72期A級順位戦最終局を開催したのが最初で、昨年も同所で開催。浮月楼での一斉対局は今年で3回目となる。
今年のA級順位戦は次の10人の棋士が出場している。順位と今期の成績は次の通り。

1位  羽生 善治九段  6勝2敗
2位  稲葉  陽八段  3勝5敗
3位  広瀬 章人竜王  6勝2敗
4位  佐藤 康光九段  4勝4敗
5位  久保 利明九段  4勝4敗
6位  豊島 将之二冠  7勝1敗
7位  深浦 康市九段  2勝6敗
8位  三浦 弘行九段  3勝5敗
9位  糸谷 哲郎八段  5勝3敗
10位  阿久津主税八段  0勝8敗

注:1位の羽生九段は開始当時は竜王。12月に3位の広瀬八段が竜王を奪取。5位の久保九段は先月王将を失冠。6位の豊島八段は昨年7月に棋聖、9月に王位を獲得し二冠となっている。

挑戦権獲得の可能性があるのは1敗で首位に立つ6位の豊島二冠、2敗で追う1位の羽生九段と3位の広瀬竜王に絞られている。一方、降級者はすでに8連敗を喫している阿久津八段は決定。残る1人が6敗の7位深浦九段か5敗で8位の三浦九段かというところだ。では、それぞれの対戦とその見どころを紹介していこう。

勝てば望みがつながる? 広瀬vs羽生

☗先手 豊島将之二冠  vs  後手 久保利明九段
現在7勝1敗で、挑戦権獲得の最有力候補となっているのが6位の豊島二冠(28歳)。今期の順位は昨年の成績で決まっている。勝てばすんなり挑戦権獲得、負けてもプレーオフ進出となる。先手後手は事前に抽選により全局が決まっていて、この対戦も、開始前に豊島二冠が先手とわかっている状態。後手の久保九段(43歳)は王将戦で渡辺明棋王にストレート負けを喫して失冠したばかりだが、4勝4敗と残留が決まっている状況で気楽には指せるかもしれない。対戦成績は、29回対戦して豊島14勝、久保15勝。直近の対局は昨年4月の棋聖戦で、豊島が勝利をおさめている。

☗先手 広瀬章人竜王  vs  後手 羽生善治九段
豊島二冠を追う6勝2敗の両者が最終局で激突。本局で勝ったほうがプレーオフ進出に望みをつなぐことになる。先手の広瀬竜王(32歳)は、昨年12月にフルセットの死闘の末に羽生九段から竜王を奪取しただけに、精神的に優位かと思いきや、こと順位戦に関しては羽生九段に2戦2敗と相性が悪い。後手の羽生九段(48歳)としては、通算タイトル100期獲得を阻止され27年ぶりに無冠にされた相手だけに、ここはリベンジして望みをつなぎたいところ。通算対戦成績でも広瀬12勝、羽生18勝と羽生がリードしているが、今日も名勝負が繰り広げられそうな予感がする。

☗先手 糸谷哲郎八段  vs  後手 深浦康市九段
先手の糸谷八段(30歳)は、現在5勝3敗で残留を決めている。今期A級に初参加、初戦で羽生に勝って勢いがついたが、豊島と広瀬に負けたぶん及ばなかった。後手の深浦九段(47歳)は現在2勝6敗で後がない。負ければ7敗目となり降級が決まる。勝って、順位が下で現在5敗の三浦九段が敗れた場合のみ残留となる。過去の対戦成績は糸谷6勝、深浦1勝。順位戦では初手合い。深浦は苦手な相手を破って7期続けてきたA級棋士の座を守れるかどうか注目が集まる。

☗先手 三浦弘行九段  vs  後手 稲葉 陽八段
先手の三浦九段(45歳)は現在3勝5敗で、勝てば残留となるが、敗れて深浦九段が勝った場合、3勝6敗で両者が並ぶ。その場合はプレーオフはなく順位が下の者が降級となるため、三浦が降級になる。後手の稲葉八段(30歳)も3勝5敗だが、深浦より順位が上のため、残留が決まっている。両者の対戦成績は三浦7勝、稲葉3勝と三浦が優勢。しかし順位戦に限れば稲葉が2勝1敗と勝ち越している。三浦は自力残留のためにも負けられない。

☗先手 阿久津主税八段  vs  後手 佐藤康光九段
先手の阿久津八段(36歳)は今期8連敗と不調で、最終局を待たずに降級が決まってしまった。通算の勝率は.610なのに、本年度は.370(10勝17敗)とここしばらく冴えない状況が続いている。なんとか最後に一矢を報いたいところだ。後手の佐藤九段(49歳)は4勝4敗で残留は決まっているが、敗れると来期の順位が下がってしまうためにここはしっかり勝っておきたい。過去の対戦成績は阿久津5勝、佐藤6勝。順位戦では第73期順位戦A級3回戦で対戦して、佐藤が勝っている。

最後まで目が離せぬ「将棋界の一番長い日」

今日は午前9時に一斉に対局が開始された。おのおの得意な戦型があり、初手に特徴が出やすいが、先手の棋士が続々と初手で2六歩を指し、長く考えていた糸谷八段までも2六歩を指すと、Abema TVの解説陣がどよめいた。一斉対局でここまで初手が揃うのは珍しい。
現在、豊島vs久保は中飛車、広瀬vs羽生は相掛かり、糸谷vs深浦は角換わり相早繰り銀、三浦vs稲葉は相掛かり、阿久津vs佐藤は角換わりダイレクト向かい飛車で戦われている。持ち時間は各6時間。昼食休憩は12時から13時で、夕食休憩は18時から19時。5局全体の正立会人を青野照市九段、副立会人を畠山成幸八段が務めている。
7勝1敗で暫定トップの豊島二冠は、勝てば挑戦権獲得。豊島二冠が敗れた場合は、豊島二冠と広瀬竜王vs羽生九段戦の勝者によるプレーオフが3月6日(水)に行われることになる。昨年は6人プレーオフが決まった最終局だが、今年はどうなるか、深夜まで目が離せない長い一日をニコ生やAbema TV、あるいは将棋連盟ライブで棋譜を追って堪能したい。

地元網走に帰ってきて5年半経ちました。元競馬専門紙編集部員。サッカーや野球、冬はカーリングなどスポーツ観戦が好き。もちろん、競馬も話題にしています。時事ネタや網走周辺の話題なども取り上げます。よろしければ、サポートもお願いいたします。