日銀の金融政策決定会合(MPM)の基礎③:政府との関係

日銀の金融政策決定会合には政府関係者が参加しています。財務省の副大臣と内閣府の副大臣が1名ずつ、政府代表者として参加しています(日銀法では必要に応じて参加となっていますが、実態としては恒常的に参加しています)。

典型的には、政府関係者は決定会合に出て意見を表明しています。その内容は、決定会合当日には外部からはわかりませんが、決定会合から1週間ほどして公表される「主な意見」でわかることになります(「主な意見」については別の機会で書きます)。

一時中断の申し出
政府関係者は、決定会合を一時中断する権利を有しています。実際、この一時中断は2024年3月の決定会合でもなされており、金融政策の決定に関して比較的大きな意思決定があった際には、しばしばとられています。

中断がなされたことは決定会合があった当日には外部からはわかりませんが、1か月以上を置いて公表される「議事要旨」の中で確認することができます。例えば、2024年3月の決定会合では、下記のような記載がなされています。

Ⅴ.政府からの出席者の発言 以上の議論を踏まえ、政府からの出席者から、会議の一時中断の申し出があった。議長はこれを承諾した(11時39分中断、12時00分再開)。
財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。
・提案は、引き続き、日本銀行が2%の「物価安定の目標」の持続 的・安定的な達成を目指すためのものと受け止めている。
(以下は省略)

g240319.pdf (boj.or.jp)

上記をみると、一時中断の時間は20分程度であることがわかります。政府関係者は、基本的に議案をその日に知ることになるので、決定会合を一時中断することで、議案について発言する準備などをおこなっていると想像されます。

議決延長請求権および議決提案権
決定会合に政府関係者が参加できることや一時中断の申し立てに加え、政府の権限として重要なものとして議決延長請求権議決提案権が指摘できます。

議決延長請求権は、その時に議題にあがっている決定会合の議案を、次回以降の決定会合に延長するよう請求することができます。もっとも、この延長請求権についても、決定会合において投票権を持つ9名による投票により、この延長請求が通るかどうかが決まります。投票の結果、それが否決されることになれば、議題となっている議案は通るという流れになります。

実際、かつてこの議決延長請求権は2000年8月11日の決定会合で行使されますが、投票によって否決されています。また、下記に以前記載したとおり、木内さんの書籍に、議決延長請求権は「抜かずの宝刀」という位置づけをしており、かつて1回しか行使されていません。
日銀決定会合における退席時間と中断時間に関するメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com)

また、議決提案権というのは、政府によって決定会合において議案を出すことができることですが、木内さんの書籍に記載されているとおり、これは未だに行使された経験がありません。なお、木内さんの書籍では、この権限があることについて「金融政策決定の独立性の観点からは大いに問題であろう」(p.333)と記載しています。

今回は以上になりますが、今回は3月の決定会合で「一時中断」があったことから上記のようなメモを記載しました。決定会合の基礎についてのメモは定期的に記載しますが、下記を参照ください。
日銀の金融政策決定会合(MPM)の基礎①|服部孝洋(東京大学) (note.com)
日銀の金融政策決定会合(MPM)の基礎②:議事録から読むMPMの流れ|服部孝洋(東京大学) (note.com)


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