後藤本「投資の教科書」の感想
後藤さんが出した「投資の教科書」という書籍がすごく売れています。私も似たタイミングで金融の書籍をリリースしたということもあり、手に取ってみました。
実際に金融の本を書いた経験を有すると、書籍を手に取る際、どういう作りになっているかという見方がより強くなります。私は大学の金融論の講義を担当しているため、学生の関心という観点でも読む側面もあります。また、本書を読んで気づきましたが、私と後藤さんはほぼ同じ世代であり、松本大さんの影響を受けたという点も自分と重ね合わせました。
章立てとしては、下記の通りです。
目次
第1章 投資が欠かせない時代に入った
第2章 株・会社・決算……そもそもから考え直してみよう
第3章 株価はなにで動くのか
第4章 中央銀行は金融市場の心臓
第5章 投資をはじめよう
この本の最大の特徴は、金融の中でも株式投資に焦点を当てているということです。私が「日本国債入門」というタイトルの書籍を出しましたが、この書籍は、まさに「株式投資入門」です。第2章と第3章は、株式が題材ですし、第5章では株式を軸に、分散投資、長期投資に焦点を当てている印象です。一方、債券についてはほとんど触れていない印象を受けました。
この書籍の別の興味深い点は、4章で金融政策について大きく触れられているところだと思いました(後藤さん自身がその特徴として指摘しています)。近年の一つの特徴は、円安が進むことで、日銀の動向が多くの人にとって着目されるということになったのだと思います。これについて紙面をさいてフォローしている点が特徴だと思いました。
最終的に具体的なアドバイスがある点も大きな特徴だと思いました。本書では、特に、外株のインデックス・ファンドをお勧めしています。低コストのファンドを勧めている一方、手数料が高いファンドが必ずしもリターンが高くなるとは限らない点も指摘している点は誠実だとおもいました。実際に個人が直面するであろう営業担当者は、こういう情報を開示するインセンティブを有していないことが多いので、多く売れる本がこの点を強調することに意義があるとおもいます。
第3章では「株価は何で動くのか」という点を取り上げています。経済学者であれば株式が将来キャッシュフローの割引現在価値で決まるとか、あるいは、個別株のリターンを決めるCAPMなどに議論がいくところ、具体例を増やし、個人投資家が関心がある指標の説明に紙面を割いている点も特徴です。
私が内容を追加するなら
完全に余計な気がしますが、読了後に、もし仮に私が追加するなら、と感じたことを記載します。まず、私であれば債券についても最低限の記載をすると感じました。私が読む限り、債券の話はほとんど出てこず、株式投資の良さを前面に出した書籍だという印象です。債券はプロ向けの商品という側面もありますが、個人でも債券型投資信託を買うこともできますので(かつてはこういう商品が主流でした)、債券の基礎や、債券型ファンドを考える上で必要になる為替リスクや為替ヘッジの概念(為替ヘッジをすべきかどうかなど)をもう少し取り上げると思います。
とはいえ、今売れている商品はほとんど株式型のファンドのようですし、株式のリターンの高さを前提に、まずは初学者はシンプルに長期投資を始めることが第一歩である、という点を本書は重視していると理解しました。実際、本書の最後に、残高の大きいファンドを紹介していますが、株式型の投資信託が今は主流ということから株式に絞ったのだと思いました。
また、後藤本では「迷ったらS&P500」という推奨をしています。この点については、私であれば、迷ったらS&P500ではなくて、そもそも投資をするな、といってしまう気がしますが、学ぶためにも、まずはやってみようという思想の本だと感じました。この文脈でいえば、私なら「迷っているなら少額でスタートしよう」という点をより一層強調すると思いました(後藤本でも、「投資信託を少額、積み立てで始めるのがいい」などという形で少額投資を推奨しています)。
かつて不動産の投資を考えていた時に、不動産投資をしていた上司から投資はトライ&エラーだから、もしやりたければとにかく少額でスタートしろ、とアドバイスされ、今でもよいアドバイスだったと感じます(これまで不動産投資の経験がない人が、さして資産もないのにいきなり数千万のワンルームを買って、痛い目にあったりするのです)。少額であれば仮によく考えなくて投資して痛い目にあったとしても、良い勉強になったと整理できる可能性が高まるとおもいます。