日本ではなぜMMFが普及していないのか

現在、米国では中小銀行を中心に資金流出が起こっており、その一部はMMFに流れているとされているようです(例えば、この記事などを参照)。歴史的には、筆者が記載した米国MMF入門で説明したとおり、米国では1970年のインフレの時代に金利が上がる中で、預金からMMFへの資金シフトが起こるという形で、MMFのプレゼンスが上がりました。米国では投資信託などの投資商品が普及しているとされていますが、その一因として、MMFの普及が指摘されることがあります。個人が投資信託を始める際に、証券口座を開設することが一つのハードルになるわけですが、預金というイメージでMMFの口座が開設されれば、個人がもう少しリスクが高い商品を選ぶ、という展開になりえるからです。

我が国に目を向けると、我が国では長年、預金が個人金融資産の中心であり、いわゆる「貯蓄から投資へ」という議論がされるものの、現時点でにおいても、「貯蓄から投資へ」は進んでないとされています。上記の文脈でいえば、個人に投資を進めるうえでは、MMFを普及させるということが一案に思われます。もちろん、我が国においても、証券会社を中心に、かつてはMMFを普及させるための努力がなされてきました(細かい話ですが、我が国ではMMFは、マネー・マーケット・ファンドではなく、マネー・マネジメント・ファンドと若干名前が違うのですが、それは銀行による反対が原因とされています。この点は米国MMF入門において注記で記載しました)。

もっとも、我が国のMMFは、2000年代早々に、MMFが元本割れをするという不幸な出来事があり、MMFは預金とは異なり元本割れが起こりえるということが認識されました(一部のMMFにエンロン社の債券を含んだものがあったわけです)。さらに、我が国では1990年以降、米国の70年代のようなインフレは起こらず、名目金利は低下傾向にあり、MMFにニーズが生まれる環境がうまれませんでした。最終的には、私が米国MMF入門で記載したとおり、 2016年に日銀がマイナス金利政策を導入したことで、MMFの元本割れの危険性が生まれ、安定した収益の確保をめざすという運用目的の達成が困難になったことから、2017年までに各運用会社がMMFを償還することを決定しました。これにより現在、筆者の理解する限り、日本のMMFは存在していません。

このように、我が国では、そもそも米国のようにインフレが起こり、預金とMMFの競争が起こるという環境が1990年代以降、起こらなかったため、MMFが普及するような環境が生まれなかったとみることもできます。しばしば、日本では「貯蓄から投資へ」が進まないことが謎とされていますが、この背景には、日本ではインフレが起こらず、低金利環境が続いたことも一因としてあるかもしれません。

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