理系の学生からみた金融業界

今回の金融論で驚いたのは、履修者の半分以上、理系(工学部や理学部など)の学生であったことです。工学部や理学部にいてなぜ私の講義に行きついたのかわからないですが、私の実感では昔も今も、理系の学生にとって金融機関は魅力的な受け皿です。

たしかに博士課程に進んで、学者になるという人生は魅力的ですが、特に理系はそのポストが少なく、職を得られないというリスクもあります。そのような中、メーカーに行くのに比べて相対的に高い給与が得られ、数理的な力も使うことができる余地が多いという意味で、金融機関は理系の学生が今でも選択され続けているとおもいます。私が入社した時のリサーチ同期(10名弱)でいえば、私ともう一人以外は、理系出身者でした(そのうち3名はphD)。

理系で金融機関に行くと、数理的な能力をダイレクトに生かすクオンツあるいはアクチュアリーなどと呼ばれる仕事に就くように思われるかもしれませんが、実際にはそれ以外の分野でも幅広く活躍しています。私の印象では、証券会社の債券ビジネスは特に理系が多く、トレーダーやストラクチャリング(=仕組債の組成業務)、アナリストやストラテジストなどは大部分が理系でした。逆に、投資銀行部門は、会計・法律・税の世界なので、理系は相対的に少ないという印象があります(データがあるわけではないので、印象論にすぎませんが)。

その一方、私自身は、特に証券会社がこの十年間イノベーションを起こせてきたのかということには疑問に思っていて、今後も優秀な学生を魅了できるのかとも思っています。もちろん、例えば日本国債の発行量は増え、その入札や販売などは粛々とやるべき業務であり、今後もその重要性は失われないと思います。もっとも、私が入社した2008年を思い返すと、そのころから私が業界をさるまで、金融危機により規制は大きく変わったものの、取り扱う商品にさほど違いはなく、その多くは、80年から90年代に生み出された商品だという印象があります。

この意見には賛否両論あるとおもいますが、私の周りでは、この業界はイノベーションを起こせていないと感じ、違う業界に行く人も少なくなかった印象もあります。私が学生であったときに比べると、今の理系はIT産業など競争力のある理系の学生にとっては魅力的な受け皿が増えてきているかもしれません。この辺りは学生にも話をきいてみようとおもいます。

ちなみに、金融業界に関心がある理系の学生には、ダーマンが記載した「物理学者、ウォール街を往く」がおすすめです。私は修士2年の時にこの本を読んだのですが、ダーマンの書籍は、前半は理系の学者としての挫折、後半は金融機関におけるクオンツとしての人生というストーリーであり、前半も後半も読みごたえがあります(これを読むとクオンツになりたくなるかもしれませんが、私の知人は、ダーマンの書籍はクオンツの美しい部分を描いているが、実際には、コードのチェックなどの地味な部分が大部分だとこぼしていました)。Amazonにおける本の紹介は次の通りです。

今日では、ウォール街の投資銀行やヘッジファンドの収益の大きな部分が、計量的投資手法やデリバティブ取引からもたらされている。これらの変動の激しい金融商品をモデル化し、リスク・マネジメントを支えているのが、学問の世界から転進したPh.D.の存在である。企業の命運や市場の安定性さえもが、しばしば数学モデルに依存するようになっている。それを担っているのが「クオンツ」すなわち計量ファイナンスの実務家であり、彼らがウォール街という舞台の鍵を握っているのである。本書は、理論物理学の世界から金融実務の世界に転じ、ゴールドマン・サックスの計量戦略グループを率いるマネージング・ディレクターを務めた、クオンツの中のクオンツであるエマニュエル・ダーマンが描き出した、もう一つのウォール街の物語である。

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