白川元総裁が当座預金付利制度を導入した理由のメモ

現在、当座預金付利制度(付利制度)があり、当座預金に0.1%の付利金利が付されています。付利制度は歴史的には、白川元総裁時代(2008年)に導入されています。

これは他でも書いた気がしますが、白川さんが付利制度を入れた理由は2つあります。下記は、「中央銀行」という書籍のp250から252に基づいています。

一つは、短期金融市場の流動性が低下することへの配慮です。同書によると、2001/3から2006/3におけるQEの期間、短期金利は0.001%などと極端に低い金利となったことから、金融機関の取引が縮小し、短期金融市場の流動性が枯渇しました。そのため、付利制度を導入して当座預金に金利を払うことで、短期金利が極端に低くなりすぎることを避け、短期金融市場の流動性を維持しようとしました。

この本では、なぜ流動性が生まれるかということについての具体的なメカニズムまでは記載がありませんが、内田副総裁が講演で「マイナス金利の導入前には、日本銀行の当座預金取引先の超過準備に0.1%の金利を付利し、取引先でない金融機関との裁定取引が行われる」ことで短期金融市場の流動性が維持されると指摘しており、このメカニズムを想定していると思います。

この制度の導入時は、私が右も左も分からない社会人1年目だったので、具体的な体験はほぼないという感じではあるのですが、2012年から2013年に付利金利の撤廃の是非が議論されたときに、シニアな市場参加者に「なぜ付利制度は入ったのですか」と聞くと、日銀が短期金融市場に配慮したから、という説明を受けることが多かったです。

この白川本では、もう一つの理由として、量的緩和策の出口戦略についても記載があります。これは当時は対外的に公表しなかったようですが、満期の長い国債を膨大に購入した場合、量の圧縮をしながら、短期金利を機動的に上げなければならないことが起こりえるため、短期金利の引き上げのために、付利制度を導入したとしています。

白川さんは下記のように書いています。

当座預金残高が大きく増加したりオペレーションの満期が長期化した場合には、量の圧縮に相当の期間を要することになり、金利引き上げを機動的に行うことが難しくなる可能性がある。もちろん「出口」が近くなった段階で、当座預金付利制度を創設するという選択肢も考えられるが、議論を始めた段階で、当座預金付利制度を創設するという選択肢も考えられるが、議論を始めた段階で様々な段階で、当座預金付利制度を創設するという選択肢も考えられるが、議論を始めた段階でさまざまな憶測を呼び金融市場は混乱するおそれが大きい。そのような事態を想定すると、短期金利を先行的に引き上げるという選択肢を持っておくことが必要であり、それを可能にするのが当座預金付利制度であった。

白川方明「中央銀行」p.252-253

この書籍では、付利制度について、米国では、2011年の導入が予定されていたところ、2008年に導入を早めたと記載しています。付利制度とは、要は、金融機関に中央銀行が金利を払うという政策なので、金持ち優遇という形で批判されかねません。そのような中、金融危機のなかで矢継ぎ早に導入される政策の中で、米国では、付利金利の導入もしてしまったということです。

白川さんも、このニュースを聞いて、「このタイミングを逃さずに日本も同制度を即刻導入する必要があると判断した」(p.251)と指摘しています。

実際、この書籍で指摘しているとおり、FRBは付利制度を入れているため、米国では、2015年以降利上げに踏み切れたわけですが、日本では、この制度により、今年から短期金利の利上げの議論ができるというわけです。これを見て、白川さんは先を見通す力がすごいと感じましたが、どうでしょうか。

今、色々と短期金融市場について調べており、今回は、自分のメモとして記載しておきます。必要に応じて、加筆・修正します。


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