FMI原則についてのメモ

私の記載した「OTCデリバティブ規制入門」や「証拠金規制入門」では、金融危機以降のOTCデリバティブ規制の詳細について比較的丁寧に説明しました。ただ、これらの論文ではFMI原則と呼ばれる重要な概念に触れていません。そのため、FMI原則についての簡単なメモを記載しておきます。最近勉強した内容も多く、不正確な記述もありえることから、本稿についても必要に応じてアップデイトします。

FMI原則とは、金融市場インフラで遵守すべき原則であり、「システミックに重要な資金決済システムと証券振替委機関(CSD)、証券決済システム(SSS)、CCP,取引情報蓄積騎機関(TR)」(羽渕 2018, p.46)が対象です。いわばCCPなどが順守すべき大原則というイメージで、この大原則に立脚して、CCPなどへの規制がなされています。

そもそFMI原則は金融危機以前から存在していましたが、金融危機を経てOTCデリバティブの問題が明らかになったことから、その改革が始まり、2012年に公表されることになりました。具体的には24の原則からなりますが、筆者が「OTCデリバティブ規制入門」などで説明したような証拠金や破綻時の処理などの原則が示されています。ここでは具体的に記載しませんが、関心がある方は羽渕(2018)の2章などを参照してください。

FMI原則とは、CCPなど金融市場インフラの原則になりますが、具体的には、CPMI(決済・市場インフラ委員会)とIOSCO(証券監督者国際機構)の二つの委員会で議論がなされ、国際合意された規制が、各国でインプリメンテーションされています。日本については、監督指針などの形で国内にインプリメンテーションされています。なお、CCPを縛る法律は金融商品取引法です。

CPMI-IOSCOや、バーゼル委員会などの関係は混乱しがちですが(筆者がかつてそう勘違いしたからかもしれませんが)、その関係を考えるうえで、下記の図が大変参考になります(秀島(2021)のP36ではもう少し包括的な記載がなされているので、必要に応じて参照してください)。これをみると、CPMIとIOSCOはBCBSなどと横並びの組織になっています。バーゼル規制の対象となる銀行(国際統一基準行)についてはここでのBCBSで議論がなされるというイメージで、銀行に関する規制とはラインが違うというイメージを持てるとおもいます。

国際的な金融規制を見直す動き (rieti.go.jp)

バーゼル規制との比較でいえば、FMI原則とは、バーゼル規制のコアプリンシプルに近い立ち位置です。バーゼル規制におけるコアプリンシプルとは、バーゼル委員会(BCBS)がなくてはならないと考える諸原則であり、バーゼル規制のいわば原則になります。秀島(2021)には、29のコアとなる原則が紹介されています。

FMI原則についてはCPMI-IOSCOの二つの委員会で議論されています。このように二つの委員会で対応される運営はしばしば目にします。例えば証拠金規制はBCBS-IOSCOになっていますが、これは証拠金規制の対象になるのが証券会社だけでなく、もちろん銀行も対象になることからBSBCとIOSCOで対応していると解釈されます。

筆者が記載した「バーゼル規制入門」では、各種規制が順守されているかについては、RCAPで定期的にチェックされているという説明をしました。FMI原則が守られているかについても、CMPIが定期的に見回りをしており、また、IMFのFinancial Sector Assessment Program (FSAP)でもチェックの対象とされています。我が国についても、日銀が、「決済システムレポート」を出しており、決済やインフラについて調査・分析が定期的になされています。

なお、FMI原則そのものについては、羽渕(2018)が日本語での定番のテキストになっていて、本稿でも参考にしています。同書ではOTCデリバティブ規制に加え、FMI原則の詳細や、CCPの再建や破綻処理について記載されています。現在の店頭デリバティブ規制や証拠金規制の概要については筆者が記載したものを読めばおおよそ概要は理解できると感じていますが、私が書いた文章では、規制の概要に加え、経済学で議論されている内容や、SIMMなど証拠金の計算に焦点を当てています。その一方、FMI原則については一切触れていないため、関心がある人は羽渕(2018)を読むとその概要をつかむことができると思います。

CCPが破綻した際のウォーターフォールについては筆者の「OTCデリバティブ規制入門」でも記載したのですが、今後、機会があればもう少し丁寧に記載したいと思っています。

参考文献

羽渕貴秀(2018)「OTCデリバティブ規制改革とFMI原則―清算集中義務・マージン規制からCCPの再建・破綻処理まで」金融財政事情研究会
秀島弘高(2021)「バーゼル委員会の舞台裏」金融財政事情研究会

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