日銀当座預金と積み期間に関するメモ

以前、現先オペについて説明しましたが、その際に積み期間という概念がでてきました。そもそも、民間銀行は、日銀の当座預金において一定の準備金を積んでおくことが求められています。ある月の積立期間は、その月の16日から翌月の15日までの間とされています。例えば、2019年8月の場合は、8月1日から8月31日までに求められる準備預金は、下記の図のように、8月16日から9月15日の平均的な残高が求められます(この事例は「東京マネーマーケット」のp.35の事例を参照しています)。このような積み立ての期間を積み期間などといいます。

歴史的には、銀行が当座預金を積む業務は緊張感がある業務とされてきました。藤巻さんの「実践・金融マーケット集中講義」では、毎月15日に積むべき準備金を積んでなく、日銀が怒ったというエピソードが挙げられています。また、当座預金として求められている金額以上に積み上げていても、これも日銀から怒られる。なぜなら日銀としてはどんどん貸してほしいからです。

藤巻さんの本には昔がどれくらい当座預金のコントロールがハラハラする業務であったか記載してあります。

1日に何百億、何千億というお金が動いて、その上で3時ぴったりに日銀においてある当座預金残高を3000万円にしなくてはいけないというのは大変な技なのですね。ピンポイントで3000万円にしなくてはいけない。これがいつも100億円くらい置く必要があったら、ある日は98億円にしておいたり、ある日は101億円にしておいたりして平均で100億円にもっていく。それなら、当座預金を赤にすることもなく気楽でしょうけど、その日3時時点での残高を、ピンポイントで3000万円にするのは非常に大変なことなのです。ちょっと手元が狂うとすぐに赤になってしまう。

教科書的には、日銀の当座預金を変動させる要因として「銀行券要因」と「財政等要因」が挙げられています。前者は家計や企業が銀行券の引き出し(預け入れ)上に応じるため、銀行が自行の日銀当座預金において銀行券を引き出す(預け入れる)ことに伴う要因であり、後者は日本政府の国庫が動くこと等に伴う変動です。これは多くの書籍に書いてあるため、詳細を知りたい人は、例えば「東京マネーマーケット」の1章などを見てください。

藤巻さんの本では、量的緩和によって当座預金を必要以上に置くことが可能になったとも説明しています。同書では、下記のように記載しています。

要するに昔は不要なものは積ませない。赤残になるというのは、もちろんいけないのですが、積み過ぎもいけなかったのです。日銀から指導されていたのです。ところが、当座預金を必要以上に置いておいても文句を言われなくなったのが量的緩和なのです。

「東京マネーマーケット」では、QQEが実施されてからはそれまでの積み立てに伴う繊細な業務は必要なくなり、「準備預金をきめ細かく積み立っていく資金ディーラーたちの『職人芸』は急速にうしなわれていった」(p.39)としています。

これに伴い、現先オペの発動は、長い間、実施されてきませんでしたが、下記のメモに記載したとおり、積み期間に伴うテクニカルな要因で、GCレポが上昇するようなことがおきています。これは私の理解では日銀によるいわゆる三層構造の導入によるものですが、その点について次回、議論します。ちなみに、藤巻さんが記載した「実践・金融マーケット集中講義」は私が若い時に何度も読み返した本であり(私の周りでも読んでいた人が多かった気がします)、お勧めできる書籍です。
現先オペに関するメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com)


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