MPM議事録から読む資金運用部ショック:ゼロ金利導入時における植田委員の発言

昨日に続き、運用部ショック時におけるMPMの議事録のメモです。最近は寝る前に酒を飲みながらMPMの議事録を読むのが趣味の一つになってきたので、面白いと思った部分はメモとして紹介していこうとおもいます。
日銀決定会合の議事録から読む資金運用部ショックのメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com)

前回は1998年末から1999年1月にかけてのMPMにおける金利上昇に関して取り上げました。1999年2月のMPMは、いわゆるゼロ金利政策の導入ということで非常に重要なMPMです。議事録は151ページもあります。

今回も資金運用部ショックについて取り上げたいのですが、今回焦点を当てたいのが、今の日銀総裁である植田委員の発言です。今読むと、非常にクレバーなコメントをしていて、歴史的な金利急騰の中で、非常に整理された理解がなされているとおもいました。イールドカーブの変動をどのように考えるかであったり、今後、日本で金利上昇があった際にも参考になると思うので、それに焦点を当てて説明します。

下記の式は12月に出される私のJGB本の10章に記載したものですが、名目金利は下記のように解釈されます。私は、これに加えて、需給要因が影響を与えるという流れで説明していますが、この流れを頭に入れていると議論がより理解しやすいとおもいます。

名目長期債利回り=予測短期金利の平均+ターム・プレミアム

まず、金利の変動要因について下記のようにコメントがあります(p.40から)。

https://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/record_1999/gjrk990212a.pdf

そのうえで、需給要因についての議論が続きます。

このMPMでは財政と金融政策についても議論が盛り上がっているのですが、財政と長期金利について三木委員から植田委員で下記のようなやり取りがあります(p.54)。

https://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/record_1999/gjrk990212a.pdf

そのうえで、金融政策運営の方針の決定に進み、各委員の意見が順番になされます。ここから白熱した議論が展開されるので、これは実際の議事録をみてもらいたいのですが、長期金利に関する植田委員の考え方が明確に述べられているので、ちょっと長いですが、その部分だけ紹介します。

まず、再び金利の見方の整理がなされます。

「単純にに需要と供給で金利が動くということであればトートロジーである」という部分は面白かったですが、たしかに、昨日、なぜ株価があがったんですか、と聞かれた際、「需要があがったからです」と答えても何も情報がないのと同じです。

植田委員は3つの対応を議論しますが、最初は現状維持のベネフィットとコストです。

2番目は、長期債の購入について言及しますが、ややネガティブなトーンです。

最後に短期金利を下げる政策であり、これを「正統的な点に最大のメリットがある」としつつ、様々な留意点を議論しています。

ちなみに、運用部ショックに対する植田総裁の見方は、2005年に出された「ゼロ金利との闘い」という本にも記載があります。その部分も紹介しておきます。

1998年11月以降、長期金利は上昇に転じた。11月半ばに政府の緊急経済対策が取りまとめられたこと、国内外の金融システムの若干の落ち着きなどが契機であった。さらに、12月下旬に1999(平成11)年度の国債発行計画や資金運用部による国債買い入れ停止等が伝えられると、長期金利は12月末にかけて2.3%弱ヘ、1999年2月上旬には2.5%前後へと急上昇した。金融不安が若干は沈静化したといっても、依然脆弱な金融機関が債券価格の急落時にリスクをとって買いを入れるという行動になかなか出られなかったことも強く影響したと考えられる(p.63)。

なお、MPMそのものは、ゼロ金利政策の導入ということから、この後にもかなり議論が続くのですが、ここまでかなり書いてしまったので、ここでいったん切ります。個人的には長期金利そのものの考え方に加え、金利急騰時にどのように議論すべきかについて大変良いケーススタディなのではないかとおもいます。

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