中央銀行によるコールレートの誘導目標のメモ:間接的なコントロールと直接的なコントロール

短期金融市場の話が続いていますが、私が債券市場に関わった時期にはすでに短期金利に動きが基本的にはない世界であったため、かつての経緯をもう少し知りたいと思っています。そこで、藤巻さんの「藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義」の該当部分を読み見返してみました。藤巻さんは証券会社ではなくて、外資系の「銀行」にいたので、短期金融市場や銀行からみた日銀当座預金のやり取りについても結構細かく書いてあります。

藤巻本では為替から入って、2章で「短期金融マーケット」に議論が進むという独特な流れです。そして、短期金融マーケットでも、まずは「日銀とは」というところから日銀の役割を議論したうえで、金融政策に議論が進みます。藤巻本では、金融政策として、下記のような分類が図で記載されています(p.126)。

①公定歩合
 ・アナウンスメント効果
 ・金融機関のコスト

②債券手形オペレーション
 ・レポ
 ・現先
③支払い準備金操作
 

そのうえで、下記のようなコメントをしています。

金融政策は第一に公定歩合、これはアナウンスメント効果だけ。それから現在、金融政策の中心になっている債券手形オペがあります。それともう一つ、あまり使いませんけれども、支払準備金操作というものがあります(p.128)。

藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義

「債券手形オペ」という表現が独特ですが、下記のように説明しています。

金融政策発動の手段の第2は債券手形オペレーション。これが今の金融政策発動手段の中心になっています。債券手形オペにはいろんなものがあります。手形オペ、国債の現先オペ、TB現先オペ、CPオペ、国債の買い切りオペ等です。
(中略)買いオペというのはどいういうものかというと、日銀の資金供給のことです。要するに債券やTB(短期国債)やCP(短期社債)を買って、お金を渡す。金融をゆるめたいとき、資金を供与したいときには買いオペをします。売りオペというのは債券や手形など、日銀が持っているものを売って、お金を回収することです。要するに市中にある資金を回収するときに売りオペをします(p128)。

藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義

ここで「債券手形オペ」というのは今でいう、債券オペが輪番オペ(買切オペ)を指す一方、手形オペがレポオペを指していると思います。

QQE以降、オペというとまずは輪番であり、共通担保オペや現先オペはたまに意識される印象ですが、かつては、おそらく共通担保オペや現先オペの役割が相対的に大きかったのでは、と思っています。もっとも、藤巻本ではそのあたりの記載は(私が読む限り)ありませんでした。この点については、もう少し調べててみて別途記載します。

前述のとおり、藤巻本では、日銀のオペとして、「公定歩合」と「レポ・オペや輪番オペ」に分類しており、後者がメインだとしていますが、白川さんの書籍(現代の金融政策: 理論と実際)では前者を「間接的なコントロール」、後者を「直接的なコントロール」と表現しています。

歴史的に振り返ってみると、オーバーナイト金利のコントロール方法としては以下の2種類の方法があった(Goodfriend, 1991)。
第一の方法は直接コントロールである。この場合は、中央銀行はオーバーナイト金利について狭い範囲の目標を設定し、その範囲から上下いずれの方向でも乖離しそうな場合に資金供給(吸収)のオペレーションを行う。現在、日本銀行を含め、多くの先進国中央銀行が採用している方法である。第二の方法は間接コントロールである。間接コントロールの最も典型的な方法は、金融機関に対する貸出金利(公定歩合)をオーバーナイト金利よりも低い水準に設定し、中央銀行が貸出量をコントールすることを通じて、オーバーナイト金利をコントロールする方法である(p146)。

現代の金融政策: 理論と実際

そのうえで、その歴史について下記のように記載しています。

中央銀行の金融政策の歴史を振り返ると、間接コントロールの時期が長く、直接コントロールが始まったのは比較的最近である。例えば、日本銀行が正式にコールレートの誘導目標の水準を公表したのは1998年の日本銀行法改正後である。それ以前は、公定歩合の水準を公表していた。米国でもFOMC終了後に直ちにフェデラルファンド・レートの誘導目標が公表されるようになったのは1994年2月からであり、それ以前は、市場におけるフェデラルファンド・レートの動きからFOMCの意図を判断する時期が長く続いていた(p.147)。

現代の金融政策: 理論と実際

要は、日銀法の改正により独立性が高まったため、それまで用いていた公定歩合により短期市場のコントロールをやめて、無担保コール翌日物(TONA)を金融調整で直接誘導するようにしたということですが、白川さんの書籍では下記の通り説明しています。

近年中央銀行に法的な独立性が与えられたことによって、金融政策の自由度確保と金融政策の意図の伝達とのバランスは、明確に変化した。すなわち、金融政策決定の権限を有することになったことを反映し、その面から間接コントロールを選択する必要はなくなった。また、独立した中央銀行としてのアカウンタビリティーを考えると、コールレートの誘導目標を公表することが求められる。さらに、金融政策の意図が正確に伝えられないと、金融政策の効果も低下する現在、多くの中央銀行が直接コントロールに移行したことは、中央銀行をめぐる近年乎環境変化を反映したものといえる(p.148-149)

現代の金融政策: 理論と実際

白川本では、8章でオペレーションの詳細に入っていくのですが、これについてはどういう書きぶりになっているかを別の機会に整理しようとおもいます。今回も私の備忘録みたいなもので、全体的にまとまりがないですが、必要に応じて加筆・修正します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?