生命保険会社と国債運用についてのメモ

私の「日本国債入門」では6章で生命保険会社について記載しましたが、補足的なメモを記載しておきます。

私の印象だと、経済学者は銀行の分析は大好きなのですが、生命保険会社の分析となるとそれほどでもありません。日銀についてもそれは同じで(日銀に生命保険会社が口座をもってないというのあるのでしょうが)、金融システムレポートでは生命保険会社はカバーされていませんし、生命保険会社の分析となると数が圧倒的に減る印象です。

服部本では、生命保険会社におけるALMの考え方や、デュレーションギャップ、さらに、最近の規制要因について記載しました(10ページ程度ですが、そこでは国債の運用において話題になる点に焦点をあてて記載しました)。銀行のデュレーションギャップや金利リスク状況は金融システムレポートなどを見れば概ね明らかになるのですが、生命保険会社の場合、そうでもありません。私は日銀の論文と第一生命の開示資料、さらに、直近については金融庁のフィールドテストの結果を示すことでデュレーションギャップが縮小していっていることを示しましたが、この見せ方にも賛否両論がある気がします(これ以外に良い方法がないとは思うのですが、実体からは乖離している可能性は十分あります)。

服部本における6章の記載は、生命保険会社の人を含めて、数名に見てもらって修正を加えていったのですが、円債市場でよく話題になる話、例えば、生保の標準利率の話とか、責任準備金対応債券など、記載をさけたものもあります。ESRの分子とEVの違いについては、BOXなどにもしたかったのですが、人によって説明が分かれるという印象も受けたため、注記にしました(いろいろ考えて6章における注16の形に落ち着いたのですが、違和感があったらご指摘ください。生保の人たちは、学生や若手に聞かれたときに、どうこたえるのでしょうか)。

これまで、「ファイナンス」などでも、生命保険会社についてはしばしば記載をしてきました。例えば、下記ではシステム上重要な保険についても触れました。また、「スワップション入門」でも生保の例を取り上げました。
システム上重要な銀行入門-「大きすぎて潰せない(TBTF)」問題について-|服部孝洋(東京大学) (note.com)

もっとも、私自身が生保に詳しいわけではないことから、この辺りを正確に記載するには、慎重に記載したうえで、生保に詳しい人に見てもらわないと誤ったことを書きかねないとおもっています。まずはすぐに修正が可能なnoteなどで書くのが安全で、ある程度自信がでたら「ファイナンス」などで記載するなどが良いと思っています。下記についても、損保の人にヒアリングして記載しました(何回か修正を加えていますが、現状は割とフラットな書きぶりになっているとおもいます)。
損害保険会社の国債運用についてのメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com)

その一方で、保険会社に関する分析が少ない点は私自身が感じているところでもあるので、中長期的にはこの点を課題にしながら取り組んでいこうと思っています。現状では政府からみても、生命保険会社のデュレーションギャップがどれくらいであるかが把握しにくい状況になっており、日銀や金融庁などが頑張って硬いデータを公表すればベターなのに、とは思っています。開示ベースであると、資産サイドに関しては、10年超の国債のデュレーションを正確に把握するのは困難ですし、負債サイドのデュレーションになるとかなり強い仮定を置かなければ計算が不可能だとおもいます。

いずれにせよ、生保についてはもう少し書けたかもしれないと思っており、もし「日本国債入門」の改訂版を出せることがあれば、6章における生命保険会社について、さらに、GPIFを含めた年金の書きぶり、運用会社についてもっと充実させたいと思っています。

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