連作小説【シロイハナ】4

日曜日の病院は人が少ない。ロビーが閑散としていて、院内コンビニ店員もどこか暇そうに佇んでいる。コンビニの色から父の着ていたいちじく柄のシャツが頭に浮かぶ。何か買っていこうか。ふと、思った。欲しいものを聞いてからにしよう。そんな風に思い直す。

昼食後の時間帯にも関わらず、どこか院内は雰囲気が暗い。最小限の電気しか付いていないからだろうか。エレベーターホールもどことなくひっそりと佇んでいる。ホールに近づきゆっくりと上向きのやじるしを押す。

思ったよりも早くエレベーターの扉が開く。そんなに使う人がいないからか、と妙に納得する。中に入り込み階のボタンを押す。念のため、スマホにメモしておいた部屋番号を今一度見返す。扉を締め、周りが沈黙に包まれる。こんなにも静かなものかと、両足ををもぞもぞさせながら落ち着く場所を探す。上を見上げぼんやりと数字が増えていく様を眺める。

母は部屋の一番奥にいた。寝転んではいるものの、静かに休んでくれている印象だ。腕にチューブが繋がれている。差す時は痛かったのだろうか。窓が近いな。外が見えるのはいいことだ。夜は寒くないだろうか。そんなことを想像してしまう。「やぁ。」こんな声掛だったと思う。何を話そうかと言葉が出てこない。「元気?」これも違う。「良くなった?」これもどこか違う。なんと話しかければよかったのだろうか。やっぱり言葉が出てこない。いま思えば「ご飯食べれた?」くらい言えればよかったと思う。昼食後の時間帯だ。しばらくして祖母が部屋へと帰ってきた。

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