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2種類の目標設定 - 一人トレーニング論2

「一人トレーニング論」シリーズ、直接のきっかけは学校一斉休校に伴う部活動休止だけど、今お読みなのは大人アマチュアが多数だろう。チームなど所属していても、日常は個人ベースなのが大人のトレーニング。だからこのテーマは「速くなる方法」と言ってるようなものか。(大きなテーマを選んでしまった。。)もっといえば、突如浮上した在宅勤務も「一人でパフォーマンスを出す」点で共通要素あるのか。(大きすぎる。。)

初回、「考えろ、感覚を磨け、モチベーションはその結果だ」と書いた。その理由はシンプルに答えることはできないので、先に「目標設定」についての僕の経験論を説明しておこう。

なぜ目標設定が大事なのか? 集団で練習していれば、自分より少し強い選手とか、その集団を目標にできる。コーチがいればコーチの指示が目標になる。しかし一人で練習するなら、目標は自分で用意しなければならないから。

はい以上です、いかがでしたか? お読みいただきありがとうござい・・・

(もっと読みたいマニアのみなさんへ、もう少しだけ説明します)

目標設定の2種類

ちょうどいいタイミングで、Twitterからチーム目標設定の2パターンが流れてきた。東大アメフト部&開成高校野球部出身という合理主義ぽい雰囲気のチーム経験ある方。

まとめると、

「フォーキャスティング思考」=現状を起点に積み上げて成長する
「バックキャスティング思考」=将来あるべき姿から逆算して、現状とのギャップを埋めてゆく

僕が37歳からのトライアスロンで実行してきたのは、完全なバックキャスティング型アプローチだ。

現状からの改善=Forecast

両者はスタート地点から違う。今の自分を基準に、未来に向かい(Forecast)、少しづつ成長しようとする。そのために努力を積み上げる。それがフォアキャスティング。

普通の日本人はフォアキャスティング的な傾向が強いかもしれない。上記ツイートの続きで、たとえばフォーキャスティングなサッカー部はこう:

シュート○○本、ダッシュ○○本、フォーメーション練習○○本、というように練習の「量」を軸に計画する傾向

「改善や効率化」に向いており、着実な成長も得られるだろう。

長距離種目だと、月間練習量を軸に、練習での設定ペースを少しづつ上げてゆくだろう。超普通だ。

理想からの逆算=Backcast

バックキャスティング思考では「将来なりたい自分」からスタートする。そのためには将来のビジョンを高い解像度で想像できることが最初に必要だ。次に、「もしも将来の自分が振り返って(Backcast)今の自分を見たら?と考えて、両者のギャップがなにかを明確にする。そしてギャップを埋める方法を考え、実行する。

たとえばバックキャスティングなサッカー部では

「シュート成功率の高いフォーム」「フリーになれるチーム連動」のように、まずは理想系を理解し、現状の自分との差異を細かくビデオ等で分析した上でその足りない部分を埋めるための練習を行う。差異を埋めるための方法について情報収集し、練習に反映する

つまり、最初の情報分析が非常に重要この精度が、目標設定=つまりはスタート地点を決めるから。

日々の練習では、「目標とのギャップを可視化して進捗管理する」。ゆえに「活動が目標達成に叶っていなければ修正をする必要があり、成果を誤魔化すことが難しい」となる。

21世紀にビジネス界で流行りはじめた、コーチング・問題解決・クリティカルシンキングなど西洋型の自己啓発手法はみなバックキャスティング発想。本屋の自己啓発本とか企業研修とか最近のビジネス系Youtuberとかもこっちの発想が中心だ。それくらいだから、「問いを立て、目標設定する力」から必要だ。

さらに、目下進行中の在宅勤務でも、これら能力により、成果(と今後の評価・処遇)は大きく変わるのではないだろうか?

長距離種目だと、最終目標レベルの動作はどのようなものか?必要な筋力とは?つまり、「どのような一歩(or 一かき、一回転)が必要なのか?」から発想する。その1歩を、「どのようにすれば、目標レース時間だけ維持できるか?」と発想する。僕のとったのもその方法だ。

トライアスロンはじめるまで

では、僕はどのようにバックキャスティングしてきたのか? ちょっと脱線して、話は13年前に遡る。

第一回東京マラソンは2007年2月開催。西暦がキリストさんの誕生を堺に始まっているように、日本の現代スポーツ歴はこの時にカウント開始されたといっても過言ではない。参加型スポーツの誕生である。たとえば、都心を自分の身体で移動するという新しい遊び方を日本人に伝来した。

ちょうどリーマンショック直前の世界的バブルもあって、夏にはガソリンも1l182円まで高騰。自転車がエコだと流行りはじめた。意識高いビジネスエリートの象徴であった勝間和代さんも自転車通勤を始め、ブログに書いていた。都心の自転車通勤とは最先端ファッションだったのだ。少なくとも当時の僕にとっては。

そこで僕は、銀座のスタバで勝間さんの自転車ブログを読みながら、有楽町ビックカメラの自転車売場(既にない)で買ったクロスバイクで、片道10kmの自転車通勤を始めたのだった。(当時ブログ ↓ 最近のココログ改悪で変なレイアウトに…)

3年近く自転車を楽しんでいるうちに、どんどん速くなってゆく身体がレーシングカーみたいでおもしろくなってきて、自転車レースに出てみた(2010.04修善寺チャレンジロード25km)。最下位近くでなんとか完走しながら、レースにしかない興奮を知った。基本的なトレーニング理論はこの頃に独学している。

いきおいでトライアスロンというものにも出てみようと、蒲郡トライアスロンに申し込んだのは2010年5月下旬。大会6週前から、水泳とランニングの練習を始めた。

初トライアスロンまでの6週間

トライアスロン向けの情報は、この6週間で集中学習した。当時藤沢から片道50kmの国会図書館まで自転車で何度か通い、過去の専門誌『トライアスロン・ジャパン』の一気読みもした。今なら絶対やらない。若さ(※当時37歳)ゆえの勢いというものだ。マジで今なら絶対やらない。

ブログ検索して、いろいろなトライアスリートさんのレースレポートを読んで、トライアスロンというもののイメージを作ってゆく。参加経験がないからイメージしきれず、大会の公式サイトで大会要項、コース図、記録なども見る。トライアスロンでは男女5歳ごとのカテゴリ別表彰が多くの大会で行われているようで、表彰台の基準タイムも過去3−5年分くらい見ればなんとなく見えてくる。合計タイムではイメージできないから(未経験だから当然ね)、分割して、ペースで計算する。

スイム 50m50秒 1.5㎞25分
バイク 時速35㎞ 40㎞1時間8分35秒
ラン 1㎞4分 10㎞40分
トランジット 90秒×2回
トータル 2時間16分35秒

これなら運次第で表彰台にひっかかるかな。でも実現性があるのは唯一バイクだけ。まあスイムもランも20年ならこのペースはできてた記憶もあり、戻せばいいかな。こんな経験を持っているのは武器だ。

とはいえ、昔のランニングはネット地図でだいたい1kmと想定した練習コースを用意、20年ぶりくらいにちゃんと走ってみると5分ちょっとかかった。慣れない振動でモモも痒くなった。翌日から筋肉痛。

この状態で、表彰台に立てるとは普通思わないのではないだろうか? それは冒頭の「フォーキャスティング思考」だ。現状を起点に、改善を積み上げてゆく考え方。

そんな状態で、どうすれば「表彰台」を実現できるのか?と考えるのがバックキャスティング思考。僕がとった方法は、質を保ち、量を減らすことだ。

バックキャスティング型の練習

そのうちに、江ノ島の片瀬海岸1.8kmを1km4分ペースで走れるようになった。おお!できた!もう1本!と増やしてゆく。

結果的に、「インターバル練習」(もしくはレペティション)というド定番な練習メニューになる。ただし僕は「インターバル練習をする意図」ではない。「目標ペースを、維持可能な範囲だけ、実行した」のだ。

つまり、基準を明確にした。「目標レースペース」を守ることを最優先した。それより速いのは構わないが、遅くなれば、すこしだけ休んで再挑戦。それでもクリアできなければその日の練習は終了。翌日に再チャレンジして、できなければ即中止。実にシンプルなルールだ。

一日のラン走行距離は4-8㎞ほど。レースのラン距離は10㎞だが、それを超える練習は最後までしなかった。

その設定ペースが守れている時の、全身の動き、その感覚に集中していた。どの動作に改善の余地があるのか? どのような修正策がありうるか? 試行を繰り返していた。

「距離・時間」という基準は捨てた。だから、その間の練習距離はわからない。ポイント練習にあたるタイムはメモしておいたけど、全体の練習量は管理すらしない。

つまり、スピードを距離より優先させた。

結果

僕はささやかながらも、爆発した。その間どれだけ大変だったのかは、著書『覚醒せよ、わが身体。トライアスリートのエスノグラフィー』p88-90あたりご参照。

公式記録:

2時間20分31秒、総合33位(448名中)、カテゴリ11位(120名中)
スイム26分24秒( 競技別36位)
バイク1時間13分4秒( 競技別68位・通過45位)
ラン41分3秒( 競技別29位)

意外と速いぞ、と嬉しくなって、さらに深みに堕ちてゆく過程は、同書p92以降をご参照。

このレース結果には、それまで3年間、自転車で積み上げてきた「持久力のベース」の存在は大きい。この点では「量の効果」がある。「量か質か」という二択な議論は中学生2年で終えておくべきで、そんなもの両方必要に決まってる。ただ、トライアスロンの残り2種目では、バックキャスティングな、スピードを絶対基準とした練習のおかげで、この結果を残せたと思う。

では、なぜバックキャスティング=理想起点の練習が、一人トレーニングで特に重要なのか? 次回以降くわしく説明してみたい。

参考文献

ツイート紹介の方が在籍した野球部はバックキャスティング的。『「弱くても勝てます」: 開成高校野球部のセオリー』 (新潮文庫2014 高橋 秀実) 

どうすれば◯◯できるか?という僕の思考は、『すごい会議-短期間で会社が劇的に変わる!』(2005 大橋禅太郎)の影響を受けています。

第一回もどうぞ ↓


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