ゴールデン街からの帰宅について考える

ゴールデン街は沼である。

一度はまり込むとなかなか出て行くことが出来ない。あの風景に親しみを覚えたら——、店々から湧き出してくる笑い声に心を惹かれるようになったら——、終電に乗ろうという意志さえハイボールの中に溶けきってしまったら——。

帰りたい、帰れない、このままゴールデン街


ゴールデン街にはまりこんだ人は、金曜日の夜に現れ、朝まで飲み続け、昼間は歌舞伎町にある思い出の抜け道というところで寝るそうだ(未確認情報)。そして身体を休めた後、土曜日も朝まで飲み続け、日曜日の遅くまで飲んで帰るという。まさに廃人である。


きっと楽しかろうと思う。酒飲みの憧れである。でも、それじゃいかんのだ。これまでは気ままなフリーランスだったので、どれだけ深酒しても翌日ぶっつぶして一日中眠っていれば何とか収支を合わせることは出来た。それもそれでどうかと思うのだが、これから始めるタクシードライバーの仕事は、職業倫理上、というよりも、道路交通法上、万全の体調で臨まないといけない。

そのため、睡眠不足は厳禁だし、ましてや酒気が抜けきっていないことなど言語道断なのである。

従って、これからゴールデン街で飲む場合は帰宅時間と睡眠時間、アルコールの分解時間をよくよく考えた上で、計画的に行動する必要がある。そんな難しいことを言うならばゴールデン街で飲まなければいいじゃないかと言われてしまいそうだが、それは選択肢にない。

この年にしてようやく見つけた心のオアシスなのである。

この記事では、まずどうして帰れなくなるのかを振り返った後に、今後確実に家に帰るための方法を検討していく。ゴールデン街の妖精ことSさんは、あまりにもディープにゴールデン街にはまりこみ、会社にもいけなくなってしまったことで、会社からゴールデン街に行きづらい出向先か何かに変えられたという噂を聞いた。

ぼくには彼の気持ちがよくわかるのだ。

帰りたい、帰れない、このままゴールデン街


帰れなくなる最大の原因は、家に帰ったところでゴールデン街より楽しいことはないことである。正確にいうと家まで帰り着けばいいことはある。家族の顔を見て、声を聞いてほっとしながら、シャワーを浴びて柔らかいもこもこのパジャマを着込む。そして寝床に入って、スマートフォンでゴールデン街のみんなのツイートを眺める……。

寝る前にスマートフォンを見る悪習については別途考えるとして、帰宅してしまえば問題ないのだ。しかし、帰宅するのがめんどくさい。酔った頭で、新宿三丁目まで歩くのが辛い。ゴールデン街は眠らない街、周りはまだまだ楽しそうなのだ。

駅まで歩いて行ったところで、電車にのっていくのが辛い。酔って眠くなってくるのだが、寝てしまうとはるか彼方まで連れて行かれることがある。本を読もうにも酔っ払っていてめんどくさい。何もすることがないのだ。

そんな思いをするくらいならゴールデン街で飲んでいたほうがずっと幸せだとは思うのは、それほど不自然なことではないだろう。ただ、これからは翌日が地獄になってしまうのである。というよりも、酒気が残っていたり、寝不足や疲労がある時には、旅客車の乗務が出来ないのである。

酒気については検査機に息を吹き付けることが義務づけられているし、疲労や寝不足については申告する義務がある。そして、事業者(タクシー会社)は、申告を受けた場合には勤務させるわけにはいかないのだ。そういう意味で言うと好きなだけ休める職場ともいえなくはないのだが、完全に歩合制なので休むと収入が激減するのである。

そして、ぼくの場合は、乗務だけではなく執筆も続けていきたいので、時間と体調を管理することが非常に大切なのだ。

だからぼくは決意した。

必ず家に帰る!!

そして寝る!!!


ゴールデン街から生還し、身体を清め、楽しい思い出に浸りながら眠りにつき、ヘパリーゼを飲み、ストレッチをしてから眠りにつく。そして翌朝、みんなのツイートをみて黄金の夜が終わったことを知りながら一日の仕事にとりかかるのだ。

もし翌日が休日などで帰らなくてもいい場合も、事前に休憩場所を設定しておき、一定時間は横になるなどして休めるようにしよう。


さて、話をゴールデン街から帰れない理由に戻そう。

ゴールデン街には約280店舗があると言われていて、一店あたりの料金もそれほど高くないことから非常にはしご酒がしやすいのである。ドリンク中心であることと、バーテンダー、マスター、店番、一日ママ、あるいはお客さんと色々名話をすることが出来るので、永遠に飽きない。

この前も朝方のシャドウで、やたらと洒落た格好をした色男に延々とディスられた。

「何この服!センスないでしょ!!破れてるし!!なんだこれ!!!」

ぼくはそうそう怒らないので「おまえこそお洒落すぎるだろ、ゴールデン街なめてんの?」とか反論しつつ飲んでいた。あいつまたどっかで会わないかな、すごく楽しかった。文字に起こすと喧嘩しているみたいなんだけど、色男は親しみを込めて楽しそうにディスってくるので、こっちも楽しかったのですよ。

Kenzo's  Barではオーストラリアから来た二人のギャル相手に小粋な英語を飛ばして笑わせていた……ような気がする。しかし何を喋ったかは全然覚えていない。ノリである。

あ、そうだ吉田商店でもオーストラリアからの2人がきていて、こっちは両方ひげ面の男である。音楽の話で盛り上がって、バーテンダーのY様が気を利かせて話題に出た音楽をかけてくれて……。

「オーストラリアのバンドって何があったっけ?あんまり知らないんだけど」

「AC/DCは知らない?」

「え?あれはアメリカのバンドだろ?だって、アメリカ映画に使われてたじゃん。えーっと……」

「Iron man!」

とジャックが決め顔で言うと、おういえー!と謎のハイタッチ。そうだよね。Iron manの音楽はAC/DCだよね。オーストラリアで最も有名なバンドなのだそうだ。

もうちょい英会話力を伸ばすと、ゴールデン街のもう一つの楽しさが浮かび上がってきそうだ。

また話が逸れた。ゴールデン街は本当に沼なのである。楽しいことを思い出すと次から次へと溢れてくるので止まらなくなるのだ。

要するに面白いお店がいっぱいあって、面白い人達が集まっているから帰れなくなるのだ。

そして、5店舗くらい回ると自然とハイボール10〜15杯は飲んでいるわけで、段々と酔っ払ってくる。段々と厳しい領域に入ってくる。ろれつは回らず、顔はだらしなくなる。話した内容があまり記憶に残らないようになっていく。

ここまで行くと潮時で、この辺りで退散するべきなのだ。しかしながら、こういう状態になってしまうと、あまりの楽しさに帰宅が不可能になる。

そうなるとゴールデン街を放浪するゾンビのような状態になって、あちらこちらで迷惑をかけることになってしまう。迷惑と言っても吐き散らすとか喧嘩するということではなく、座っているけどお酒をあまり飲まないとか、隣のお客さんに意味不明な絡みをしてしまうとか、声が大きいとか、階段がどこにあるかわからないとか、同じ話を何度もするとか、そういう類のものである。

うん、邪魔だからさっさと帰って寝ろ。


中国の古き思想家、老子もこう言っている。

足るを知れば辱められず、

止まるを知ればあやうからず。


止まるのだ。止まるのだ。止まるのだ。

Stop me!!

フレディマーキュリーの逆を行く男になれ!!


というわけで帰宅大作戦。

やはりいけないのは何時なのかわからなくなることだ。終電は0時ジャストなのだが、お店から電車に乗るまでは概ね15分くらいかかると見ていい。ということは45分には会計を終わらせないといけない。

しかし、ぼくのようなポンコツは45分頃「もう一杯だけ!」とか言い出すのである。これでは絶対に帰れない。

また0時が終電とは言え、乗換の都合で少し遠い駅についてしまい、自宅まで徒歩で30分かかるのだ。となると、自宅につくのが1時を回ってしまう。これだと翌日の仕事に差し支えてしまう。

ということは23時30分には会計を終える必要がある。さらに言うと最後の一杯は23時10分頃までにしないといけない。これが家に帰るためのリミットであろう。

お酒を飲めば飲むほど、帰宅するためのハードルがあがってしまうのは前述したので、お酒を飲むのを止めることが大切なのだ。

自分なりのラストオーダーシステムを作るか。そして明言しておけばいい。お酒が切れれば自然と帰ることが出来るだろう。

翌日の朝から仕事がある場合のラストオーダー
21時半 → 23時までには帰宅出来る

翌日休みの場合のラストオーダー
22時半 → 0時までに帰宅出来る

翌日休みで宿泊施設が確定している場合のラストオーダー
1時半 → 2時過ぎには眠れる

以上のようなマイルールを作ったので、今後は実施していきたい。ただ、時間がわからなくなるとラストオーダーどころではない。ゴールデン街にいるとあまりスマホをみないので、腕時計や懐中時計などを用意するべきだろう。

帰巣本能と言えば鳩なので、鳩時計を持っていたら面白いかなと思ったけど流石に置き時計しかない。置き時計を持っていって机にドスンと置くのも他のお客さんへのプレッシャーになってしまうので、よろしくない。

鳩の腕時計はないかなと思って探してみたところ、可愛いのは見つかった。レディースだけど、ぼくは腕が細いのでレディースじゃないと似合わないのだ。ごっついG−Shockとかつけていると時計が腕を振っているみたいになるのだ。

これ、いいんだけど、仕事でつけてるとちょっと可愛すぎてきついかな?ここに予算をかけてもしょうがないから、安めのスマートウォッチでラストオーダーの時間にアラームが鳴るようにするといいかもしれない。

うん、そうすれば帰れそうだ。愛するゴールデン街と仲良く付き合っていくために、全力で帰宅しよう。

さて、21時半ラストオーダーの場合は何店舗回れるのかという問題が出てくる。

ただ、これでも結構いけるものなのだ。極端な話、平日休みの日など朝6時から飲み始めることも出来る。その場合、シャドウ&珍呑、たうち飯、あ澤などから初めて、他のお店が開くまで飲み続け……。21時半まで飲んでも15時間半なのである。

最大滞在時間を6時間としよう……。朝6時から飲んだら昼には帰れ!!それ以上飲んでいると沼にはまってしまう。

21時半ラストオーダー、22時閉店(帰宅)と考えると、その場合飲み始める時間は16時ということになる。んー、もうちょい伸ばしてもいいかな?

14時から飲み始めた場合は、20時には帰るということにすればいいか。うーん……。最大滞在時間は8時間としよう。

ともかく、ゴールデン街に到着したら、21時半にアラームが鳴るように設定する。それまでの時間を楽しむ。そうしよう!!英語の勉強もしたいから、外国人観光客の中へでも果敢に飛び込んでいこう。

よーし待ってろ ゴールデン街!

俺は必ず帰ってやる!!!


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作家・Youtuber。偏差値30からの大学受験を経て東京大学文科Ⅱ類(経済系)→文学部に進学(宮沢賢治の生命観)→大学院は理転して農学系(アワビ類の行動生態および繁殖生態の比較)→自主退学しスポーツ系の物書きに。著書『サポーターをめぐる冒険』がサッカー本大賞2015を受賞。
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