ミスドの想いド

 高校生の頃、あまりに真面目だった私は、その日、板書が当たった数学の問題が解けず、学校に行くのが嫌で泣いていた。受験を控え、こんな問題も解けない自分に腹が立っていた。仕事に行くはずの父は、そんな私を見かねて、少し出勤を遅らせ、朝からミスドへ連れて行ってくれた。オレンジ色の席。オールドファッションとカフェラテ。解けなくてもいいんだぞ、と。大分泣いたせいで、鼻も詰まり、味がわからない。それでもしばらく経つと、不安はどこかへ飛んでいた。
遅れて学校へ行くと、数学は終わっていた。数学の先生に事情を話し謝ると、「そういうときは、俺の分も買ってこい」と、ニコッと笑った。数ヶ月後、私は、その先生の母校へ入学した。

十数年後、職場に上手く馴染めずストレスが溜まっていた私は、父と大喧嘩をした。「どうせ私はダメなんだ!だから何も上手くいってないって言いたいんでしょう?」引き止める父を振り払い、帰省していた実家を飛び出し、高速バスでアパートまで戻ってきたのはいいけれど、自分が放った言葉と、父の眼差しが脳裏を離れない。
気づいたら一人でミスドにいた。ガラス越しに道行く人々を見ながら、あの時と同じ、カフェラテとオールドファッション。あの時と同じで、味がわからない。
それでも数時間、オレンジ色に包まれていると、不安でカチカチになった心が柔らかなってきた。私のミスドは、あたたかく見守ってくれる人がいることを、思い出せる場所になった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?