新世代軍はあの子の救いになるか?

よく「点と点が線になる」とは言ったもので、プロレスは歴史を重ねる程、昔の出来事が現在へと影響されるところがある。

数年前にあの言葉が、あの試合が、今現在に繋がってくる、というドラマ性が大いに存在すると言っていいだろう。

今回考えていきたいのは、『佐々木大地』という点と、『新世代軍』という点についてだ。


MUSASHI選手が海外遠征前に『佐々木大地』選手として活動していたのは周知の事実だ。

現在のMUSASHI選手のイメージと言ったら、ちょっとクールで、でもやるときにはやる熱さもあり、新世代軍を引っ張る頼りになるチャンピオン、といった感じだろうか。

約一年間の海外遠征から戻ってきたMUSASHI選手は、当時チャンピオンだった剣舞選手から団体の至宝を奪取し、その後も塁選手や他団体の選手と東北ジュニアのベルトの争奪戦を繰り広げてきた。

郡司選手や川村選手達と新世代軍というユニットを作り、みちのくプロレスを世代闘争の流れへと持って行った張本人だ。

間違いなく、今のみちのくプロレスにはいなくてはならない存在だろう。

ただ、海外武者修行を終えて帰ってくる前の『佐々木大地』は、決してそうではなかったかもしれない。

私が観始めたところからしか歴史を語ることができないだが、当時、BAD BOYというユニットに所属していた大地選手は、言葉を選ばずに言うと、パッとしない、くすぶっている選手だった。

レスリングも上手く、体力もあり、見た目も悪くない。ただ、なぜか試合では良さが出せず、なかなか結果がついてこなかった。

なぜあと一歩及ばないのか、と、ファンはやきもきしていたことも多かった。

そんな大地選手が、海外へ武者修行へと旅立ち、戻ってきたときには立派なルードになって、BAD BOYと合流し、団体を盛り上げてくれた。

2022年3月現在、MUSASHI選手は、郡司選手、川村選手、大瀬良選手、小笠原選手と共に『新世代軍』として活動している。

新世代軍は、MUSASHI選手以下のキャリアを持つ若手選手をまとめ上げたユニットだ。テーマは、現在最前線で活躍する先輩の選手、いわゆる『現行世代軍』への反逆。

そこで気になってくるのは、『世代闘争』の『世代』の部分だ。   

ここ1~2年で、MUSASHI選手が一番対抗意識を燃やしているのは、客観的に見て日向寺塁選手で間違いないだろう。

塁選手はそもそも2007年デビューで、2010年デビューのMUSASHI選手とは3年ほどしかキャリアは変わらない。その塁選手を『現行世代』として括り、VS新世代としてのかたちに捉えているのはいかがなものだろうか、と前々から気になっていた。

川村選手と大瀬良選手に関しては、2017年デビューなので、MUSASHI選手とは7年のキャリアの差がある。

世代という枠でくくるのだとしたら、川村選手や大瀬良選手よりも、塁選手との方がキャリアが近く、同世代としてふさわしいのではないだろうか。

しかし、今は塁選手は『現行世代軍』と呼ばれる、上の先輩と同世代としてみなされている。

塁選手がさらに先輩ののはし選手や卍丸選手と同世代か、と言われると、すんなりと受け入れにくい部分もある。

なぜかというと、塁選手はみちのく生え抜きではあるが、現行世代としてみちのくを支えているのはし選手やKen45°選手などは、闘龍門からの合流組で、毛色が違うからである。

そのため、私個人としては『世代』を意識して分けるとしたら、塁選手やMUSASHI選手が『新世代』となり、のはし選手やKen45°選手、ラッセ選手など、闘龍門から合流した選手が『現行世代』となり、川村選手や大瀬良選手以下が、名前を付けるのであれば『超新世代』となるのではないだろうか、と思っている。

なにせ、塁選手がちょうど狭間のキャリアではあるが、新世代としては正直実績がありすぎる、というのが本音である。

脱線したが、MUSASHI選手が作り上げた新世代軍についてとやかく文句を言いたいわけではなく、MUSASHI選手が自分よりキャリアが若い選手と自分をまとめて『新世代』としたのには、単純なキャリアの差だけで決めたのではないのではないだろうか、というところが言いたい。

もちろん、みちのく生え抜きであるという育ちや、上の先輩を倒したいという思惑が共通する部分があり、手を取り合ったのだとは思う。

しかし、MUSASHI選手からしたら組むメリットがあるとは言い切れない。

川村選手や大瀬良選手は発展途上であり、小笠原選手に至ってはシングルでまだ先輩から一勝を上げた経験もない。

新人育成の場を設けて、若い選手を強くすることも大事だが、現行世代軍との戦力差は明らかだ。

そうなると、MUSASHI選手自身への負担やプレッシャーが大きく膨らんでいくのは目に見えている。

そもそも、MUSASHI選手が若い世代を盛り上げ、団体を盛り上げていきたいと考えた場合、一緒に頑張ろうとなることもあるだろうが、若い選手を挑発し、MUSASHI選手自身が敵として対抗していくことでも成長を促すことはできる。

そしに合わせて、自分は自分で、上の世代を潰してやる、という風なやり方でも、十分だと思うのだ、

あえて下の若い世代と同ユニットとして組んでいるのはなぜか、というところに疑問が持ち上がる。

そこで、思い出したいのは『佐々木大地』の存在だ。

BAD BOYというユニットに所属していたことは前述の通りだが、ある試合で、BAD BOYのリーダーであったフジタ"Jr"ハヤト選手との査定試合があった。

ハヤト選手を納得させることができなければ、ユニットから離脱しなければならない、というものだった。

その試合は凄惨なもので、会場からは悲鳴にも似た声が聞こえたことを覚えている。

マウントを取って大地選手へエルボーを打ち込むハヤト選手の姿が、今でもまだ鮮明に浮かんでくるほど、衝撃的な試合だった。

そして、その後、ボロボロに負けた大地選手はBADBOYを抜けることを承諾し、「1からやり直す」と、ハヤト選手に告げた。

ハヤト選手は「1からじゃなく0からだ」と厳しい返答をしていた。


あの時のハヤト選手の判断が間違いだったとは思えない。

実際、大地選手がBAD BOYとして組まれていた試合は、ほとんどが大地選手が対戦相手からフォールを取られる、というものになっていたからだ。

実力をつけてから、ユニットに入るべきだという考え方には同意できるし、実力が無いのであれば、ユニットとして組んでいくのは難しい、というのもよくわかる。

成長が見られないのであれば、ユニットに所属している意味がない、というのもよく分かる。

ただ、その時の大地選手の心中はどうだったのだろうか。

理解はできても、感情が受け入れることを拒否する、ということはあったのではないだろうか。

つまり、この時、大地選手は「先輩から手を差し伸べられなかった」と思ってしまったのではないだろうか。

大地選手が望んでいたのは一緒に成長して支えて共に歩んでくれる先輩だったのではないだろうか。

だから、MUSASHI選手は自分よりキャリアが下の後輩を自分のユニットに入れ、自分だけは後輩を見捨てずに、団体を盛り上げようと試行錯誤してるのではないだろうか。

私にはそう思えてしまってしょうがないのである。


MUSASHI選手が率いる新世代軍は、あのとき、 BAD BOYに捨てられた『佐々木大地』への、MUSASHI選手からの救済であり、MUSASHI選手は、『あの頃の佐々木大地』を救おうとしているのではないのか?

そもそも、MUSASHI選手は海外から帰ってきたあとすぐにBAD BOYへと加入したが、これは欠場中のハヤト選手に「お前BAD BOY好きだな」と言われたことがあるほど、固執しているようにも見える。

あえてユニットを自分の色に染めず、BAD BOYの名前の残したのは、BAD BOYのリーダーであるハヤト選手へのリスペクトでもあり、「BAD BOYじゃないと意味が無かった」からにも思えた。

佐々木大地がBAD BOYに加入していた経験を経て、今のMUSASHI選手を創り出しているのは明らかだ。

だからこそ、その基盤となったあの頃の『佐々木大地』を救うために、『新世代軍』を作り上げたのではないだろうか。

あの時、救ってもらうことのできなかった自分と後輩を重ね合わせいて、後輩を見捨てずに引っ張っていくことは、自分自身を救うことに繋がっていると思っているんじゃないだろうか。


これらはすべて「じゃないだろうか?」という、私個人の憶測であり、MUSASHI選手からしたら全くそんなつもりもないかもしれない。

痛いオタクの虚言とでも思っておいてほしい。

ただ、「もしかしたらそうかもしれない」と考えることで、見ている試合や歴史、ユニットに深さや色が出る。

もちろん、プロレスはエンターテインメントな部分もあるから、そのひと試合ひと試合を単独で楽しんでもいい。

でも、歴史を知ること、考えることでしか得られないこともあるんじゃないだろうか。


『MUSASHI』は新世代軍と立ち上げたことによって『佐々木大地』を救えたのか。

それは、まだ分からない。

『佐々木大地』、『MUSASHI』、『新世代軍』というそれぞれの点が、みちのくプロレスの歴史に大きな一本線となって現れるときに、その答えがきっと分かるはずだ。


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