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かたつむり

4年前のこと、娘が小学校のクラスペットの世話係をしていて、夏休みに入ると二週間くらいだったかの間、かたつむりをうちで預かることになった。幅32センチ、奥行き23センチの水槽に、土と野菜クズと、プラスチックのキリンやライオン、象もいただろう、そういうのが入っていた。かたつむりはブルックリンにある担任の先生の庭にいたんだそうで、殻の直径2センチ弱くらいで、ベージュの地に濃い茶色の線がある。最初は小ぶりの金魚鉢に二匹入れていたんだそうだ。

うちに持ってきたときは十何匹といて、水槽の蓋の内側に、逃亡防止の網戸の網が挟んであった。これを外して水槽の内側を拭いたり、野菜を入れ替える。人参、キャベツ、ケールなんかが転がり、セロリの芯は水気を摂って生きていたが、捨てる。網や捨てるものにかたつむりがついていないかどうか、よく見なければならないと娘が言った。入っていたのは大人サイズ数匹に子供サイズ十匹くらいだったろうか。大人の殻が、紙やすりでもかけられたみたいにツヤを失っていた。子供達のはツヤツヤしてるのに。見ていると、常に子供が大人の殻に乗っている。これはもしやカルシウムかと思って、卵の殻を入れてみたら、子供も大人もやってきた。水槽の壁に霧吹きすると、流れ落ちる水に向かって上へ上へと皆上がって来る。じょわーっと体を水に浸して触覚を長いのも短いのもみよーんと伸ばし、右へ左へ無限大のマークを描くように頭を振って上へ上へ。気持ち良さそうだー

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娘が私を呼ぶので、台所から行ってみると、霧を吹いた壁で、二匹のかたつむりが相対して頭を振っていたが、上にいたかたつむりの首の右側から何か出てる。(上の写真)と、もう一匹の首の右側からも何か出てきた。先端はどちらも四角い。私と娘が大きなハテナを頭上に掲げて眉根を寄せてガン見する中、二匹はその突起部分をつなげた。どのくらいか覚えてないけれど、しばらくそのままにしていた。「お母さん、これだ」と、娘が動画を見つけた。「Snails Maiting」「ほんとだ、これだ」感心した。

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それから何日したんだろう、米粒くらいのかたつむりが何匹も土から出てきたのだった。ちっちゃーい!霧のかかった壁をわあーっと(無音で)上がっていく。数えたら確かその日は40匹くらいはあったと思うけれども、別の日に60匹はいると言ったことが記憶にある。これらが一斉に壁を上がるので、目の細かい網に納得した。

娘がネットで調べると、かたつむりはオスもメスもなく、2匹が相対してからどっちかがどっちかになるんだそうだ。

それから2年経った12月、外は零下の寒さとはいえアパート内は暖かい。

ん? リビングにある素焼きの植木鉢は直径44センチ、高さもそれくらい。枝を切ると白い樹液の出るタイプの潅木が植えてある。アパート内の生き物では一番の古株である。東海岸の植物ではなさそうだが、まだ名前を知らない。葉は細長く、枯れて落ちたのが地表にたくさん入ってる。その合間に、渦巻きが見える(トップの写真)。んん? 

2センチ弱くらいの、艶やかなかたつむりがそこにいた。娘を呼んだ。なんでここに??

2年前あの網を取り外して掃除をしている間に、米粒サイズがこの鉢に入ったとしか思えない。そして1匹だったんだろう。二匹以上だったなら増えてるんじゃなかろうか、何十匹と。よく鉢の外に出なかったなあと思った。水気がないから寄りつかなかっただけかな。鉢の縁にはかたつむりの通った跡もなかった。そしてよく生きていた。この鉢にはこの2年間、真面目に水やりしていたわけじゃない。適当だった。食べ物だって何食べてたんだろう、こんなに艶々の殻して。殻に上がってかじる子供かたつむりがいないからなあ。水をまいて、きゅうりの切れ端を置くと、触覚をみよーんとめいっぱい伸ばして、穴があくほど食べていた。

その後も夜更けに出て来ることが度々あって、鉢には水やりをかたつむりの為にもするようになった。今年の夏頃にはまだ出てきていたと思ったけど、この秋冬は見ていない。姿は無くても枯れ葉や野菜クズに通った跡があれば、ホッとしていたものだけど、それも無し。いつかまた出てきたら、ご報告を。


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