エターナル横綱 虚空蔵関の不思議な冒険

発端は4人の力士が冬の八海山で遭難したことだった。

うち捨てられた山小屋を見つけた彼らは、部屋の四隅に一人ずつ立つと、仲間のもとまですり足の稽古をリレーのように順繰りで行う事にした。

稽古への集中と互いの声掛けにより眠気を退け、筋肉の熱と相撲への愛により厳しい寒さを克服した彼らは、翌朝、5人揃って無事に下山する事ができた。

こうして角界に登場したのが、往年の名横綱 虚空蔵である。


虚空蔵関は幕内昇進に伴う戸籍の取得が認められ(戸籍法のこの条項が適用されたのはこれが初めてだった)、出身は新潟、生年は不詳として、現在も力士名鑑にその名を連ねている。


さて、意外にも虚空蔵はけして将来を有望視された力士ではなかった。

その存在の空虚さが立ち合いの衝撃に耐え切れぬのではと危ぶまれたのである。

だが、虚空蔵は酷寒の八海山で若き力士達が生き残りをかけ、その熱き血潮を沸きたててすり足を続ける中から生まれたのだ。


(つづく)

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