インサイドアウト

「あのねお客さん、チケットがないと入れないんですよ」

そう言って男は、関節技にとった俺の腕にさらに体重をかけた。

声を抑えられないほど痛い!俺はしばらく喚いていたが、とうとう手にしていた包丁を取り落としてしまった。

男は包丁を放り捨てると、俺を立たせ、玄関から2歩下がったところまで突き飛ばした。

「さあ、外でおとなしくしていてくださいね」

「外だァ……!?」

俺は男を睨みつける。怒りでどうかしてしましそうだ。

ちくしょう、殺してやりたい。みすみす最大の武器を失ってしまった。短慮だった。でも限界だった。

この気の狂った屈強なもぎり男が、我が家の玄関の前に立ち始めてから既にまる2日、俺は自分の家の中(あの男の言い分であれば”外”)から一歩も出ることができずに閉じ込められているのだ……。

けれど、俺が真に恐れているのは家の中の異変だった。

昨晩からトイレが二つに増えているのだ。俺は本当に自分の正気を疑った。

(つづく)

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