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「デッキガイドの読み方」を考える―20点バーンで帝王になった話―


はじめに

先日,晴れる屋TC大阪で行われた関西帝王戦(晴れる屋TC東京の「神決定戦」のTC大阪版)にて優勝し,帝王に就任。

昨今の紙のスタンダード事情や,パイオニアのエリア予選の最中ということもあり,いささか小ぶりな規模ではあったが,それでも勝ち切れたのは素直に嬉しい。

海外でのアーキタイプ名は”Grixis Singularity"。
《爆発的特異性/Explosive Singularity》から

今大会で使用した【グリクシス碑出告と開璃】は,くろき氏(@kurokimtg)が蒼紅杯で準優勝したリストをほぼそのまま使わせて頂いた。《碑出告と開璃》の死亡誘発で《爆発的特異性》をめくり,一撃20点を叩き込む,スタンダードにあるまじきコンボデッキである。

デッキ自体の強度やコンボの派手さ等,魅力的な要素はふんだんにあるが,今回このデッキを使用した一番の理由は,「デッキガイドがあったから」である。

今回使用したこの【グリクシス碑出告と開璃】は,コンボデッキではあるものの,ミッドレンジ的な側面も十二分に有している。私は,ミッドレンジというアーキタイプがそもそも苦手だ。前回の記事では,そうした問題点を言語化し,改善する取り組みをつづった。

自分なりに考えることはもちろん大切だし,それなりに手ごたえも感じはした。
とはいえ,やはり識者の意見が聞ける(読める)に越したことはない。

競技レベルでマジックを取り組む際,デッキの選定と調整は最重要課題の一つだ。そのための有益な情報の一つに,デッキガイドが挙げられる。近年ではプロプレイヤーだけでなく,そのデッキを扱う有識者の知見が,手軽に手に入る。よい時代だ。

この記事の執筆中の現在も,プロツアー「機械兵団の進軍」が進行中。MTG全体の競技熱はずいぶんと高まっている。デッキガイドの需要もまた,高まる一方だろう。

もちろん,これは競技レベルに限らない。「このデッキ面白そう・強そう!」「一からデッキを作るのは難しい。参考にしたい!」といった需要は,むしろ初心者~中級者の方が多いかもしれない
デッキガイドの恩恵は,MTGプレイヤーなら誰でも受けられるものである。大なり小なり,一度は人の書いたデッキガイドに目を通したことがあるだろう。

しかし,あえて問いたい。

あなたは,そのデッキガイドを「読めているのか?」と。

あなたは,そのデッキを「きちんと理解しているのか?」と。

デッキガイド自体,今となっては星の数ほどある。されど,デッキガイドのガイド,には出会ったことがない。デッキのポテンシャルを100%発揮させるのがデッキガイドだとしたら,そのデッキガイドを余すことなく自分の糧にする読み方もまた,重要であろう。

本記事では,先に紹介したくろき氏(@kurokimtg)のデッキガイドを基に,そうしたデッキガイドの読み方を,今一度掘り下げてみようと思う。

全文無料ですが,良かったと思った方は,ご支援いただける大変嬉しいです。

そもそも「デッキガイド」とは?

さて,あなたは,「デッキガイドとは何か?」と聞かれたら,どう答えるだろうか?

私の定義は,「そのデッキの識者と,そのデッキの新参者の差を埋めるコンテンツ」である。識者の知見は,言い換えれば,それだけの理解度に達するまでの経験のだ。
デッキガイドを通し,識者と新参者の差が限りなく0になっていれば,それは優れたデッキガイドであろう。

仮に結果を残したデッキリストをコピーし,「調整」と称して競技レベルの高い大会に1回出たところで,それだけで得られる経験量など知れている。

RPGの世界であれば,経験値を自分でコツコツ貯めていくもの楽しいだろう。だが現実世界では,経験は「教わる/買うもの」である。

なので私は,デッキガイドを読み込んだうえで,「とりあえず,自分でも30マッチくらいこなしてみるか!」ということは,あまり考えたくない
後述するが,もちろん少しは自分でデッキを回し,感触をフィードバックさせることは必要だ。だが事前に,手ではなく頭を動かすことで,デッキへの理解度はずいぶんと深まる。

《参考文献の紹介》

再度ですが,参考にさせていただいたデッキガイドはこちら。

標題には「簡易」とありますが,端的に纏め上げられた素晴らしい記事でした。海外の超有名プレイヤーであるReid Duke氏やFrank Karsten氏も言及しており,環境初期とは思えないほどのデッキの完成度。まだご覧になっていない方は,ぜひご一読ください。いや,必読です。他の記事も大変読みやすく,面白いです。

★大前提:批判的に読むということ

デッキガイドとは,いわば執筆者の一種の思想だ。デッキガイドを執筆した人は,その人なりの考えや根拠を以って,自身の構築やサイドボードに対する考えを述べてくれている。その人にとっての「当たり前」だ。

しかし,あえて悪く言えばそれは,「何らかの理屈をつけて,適切とはいいがたい構築やサイドボードを正当化する」ことにもつながる。
科学的な手法でその正当性を検証できればよいだろうが,なかなかそうもいかない。ゲームの世界は,最後は「結果」がある程度ものを言うのだから。そこには運の要素も絡んでくる。

だが何事も,「正しい姿勢で疑う」ということは,大切だ。

パイオニアの話だが,一時,「ラクドスミッドレンジのミラーで,《思考囲い》は残すべきか?」というテーマで活発に議論がなされていた。議論の流れは,おおよそ以下のような感じだ。

①ミッドレンジミラーは消耗戦の末,トップ勝負の展開になりやすい。その際ハンデスは弱いため,サイドアウトすべし。これが一昔前のセオリー。

②カードパワーの上昇に伴い,唱えられるとその場で差がついてしまうカード(主に《鏡割りの寓話》)が増えた。後半トップデッキした際の弱さよりも,序盤の攻防のために,主に後手番は少し残す。

https://mtg.bigweb.co.jp/article/kiji/watanabetakanori/3を参考に作成

無論,①と②のどちらが正しいかということは,本旨ではない。
ただ,①→②と考え方が変わる過程では,「セオリー」というものに縛られた考えも多くあったのだと思う。当たり前を疑うことできないでいたプレイヤー達は,相手の《鏡割りの寓話》になすすべなくマウントを取られて敗北していたのではないだろうか。

思考が「常識」「セオリー」「当たり前」という枠組みに囲われすぎていては,前進はない。

デッキガイドというコンテンツを余すことなく吸収するには,書かれていることを鵜呑みにするばかりではなく,疑問や反対意見を持つこと(=批判的に読む)ことも大切な過程である。

デッキガイドとの向き合い方

①手を加えず,第一印象を言語化する

勝っているリストを参考にする際,「この部分は(気に入らないから)変えて,エッジを出す」と考えたくなる。気持ちはよくわかる。しかし,作成者の意図を理解しないまま,そうした行為に走ることは自殺行為だ。
私に言わせれば,その行動に走ること自体が敗北の方向へのエッジで,勝手に脱落するものである。自戒も込めて,だが。

もちろん,リストに疑問を感じたり,変更を加えたいという思うこと自体は至って自然な考えだ。

だからこそ,リストを見て疑問に思った点や,手を加えたくなった点は,その時点で言語化しておくのである。これは可能であれば,実際のデッキガイド本編を見る前の方がよい。

学校のテスト勉強を想像してみてほしい。少しも考えず,先に解説や回答を読み,「あぁ,やっぱりそうだと思っていたよ」となったところで,テストでよい点を取れるはずがないのと同じだ。自戒を込めて。

答え合わせは大事だが,まずは自分なりに考える,のである。
もちろん,疑問に感じた点について,ガイドで触れられていれば,しめたものだ。

<実践>
実際のリストはこちら。あなたなら,どんな第一印象を受けるだろう?

くろき氏のリスト



私の第一印象,それは《税血の収穫者》は必要ではないのか?である。


2マナ域どうするか問題

ありがたいことに,この点は記事内でも触れられている。

通常の【グリクシスミッドレンジ】と違い、ライフを削る必要性が薄い点や、《碑出告と開璃》の死亡誘発を活かすためにインスタント・ソーサリーの割合を増やしたいことを考えて《税血の収穫者》は不採用にしました。しかし血トークンの価値は十分にあり、《スレイベンの守護者、サリア》に対して使いやすい除去にもなるので非常に悩ましく思います。

https://note.com/kuroki05232/n/n5c6fe9ef27fe

なるほど,代わりの2マナ域として《衝動》《耳打ち》が採用されている。コンボデッキならではのチューンだろう。もちろん,《碑出告と開璃》ともシナジーを形成している。確かに除去性能は捨てがたいが,そこはトレードオフと考えればよい。納得だ,良かった良かった。

だがしかし

だてにデーモン・ドラゴンではない

《碑出告と開璃》の”飛行5/4,死亡時にトップをめくってライフを削る”という能力は,元々が非常に攻撃的な性能だ。

コンボは狙わず,ミッドレンジプランとしてライフを削り切る展開は,思っているよりも頻発するのではないのか。序盤からライフを詰め,どこかで《碑出告と開璃》を出せば,それだけで十分なプレッシャーになる。そのためにもやはり《税血の収穫者》は欠かせないのでは?《税血》が必要だと感じる理由を,自分なりに言語化するとこうなった。

また,《碑出告と開璃》自体はその能力でトップを操作できるため,インスタント・ソーサリーの枚数をそこまで確保する必要もないのではなかろうか?

《税血の収穫者》はその性質上,可能なら4枚とりたい(《血・トークン》が重なると強いため)こともあり,中途半端な枚数だけの採用はやや否定的だった。

少なくとも,このデッキを扱う上では,こういった《税血の収穫者》に対する疑問には,自分なりの回答を出しておきたいと感じた。

②メタゲームの前提を確認する

どれだけデッキタイプの選定や細部の構成に気を配ろうと,それによって環境のデッキ全対面に有利,ということはあり得ない。そんなことなら,そのデッキは何かしらキーカードが禁止されている。

そろそろ・・?

デッキガイドと聞くと,どうしてもデッキの動かし方とカード解説に目が行くが,そもそも「どういったフィールドであれば,使用するタイミングとして適切か」も大事である。
みんな大好き”相性表”も,そういった点では有益な情報だ。この点を執筆者が触れていくれていると,ありがたい。

時折,重厚な解説とともに綴られた結びが「しばらくは使うことは勧めません」となっているガイドに出会う。身も蓋もないだろうと思う反面,信頼に値する情報だとも思える。それだけ,そのデッキを投入するタイミングを理解しているわけだから。

デッキ選択には,想定したメタゲームが前提にある。不利なデッキに当たった際,「不利だから仕方ない」という考えは,本来は高いデッキへの理解度が伴ってされる発言だ

極論すれば大会に臨む際,「アーキタイプAには9/10,Bに五分は取りたい,Cは2/10で御の字」というようなスコアを予想し,自分でなくても,同じ思想を持ったリストが結果を出しているのであれば,デッキを正確に理解していると言えよう。

<実践>

とはいえ,前提となる今回のフィールド(蒼紅杯)は,ずばり環境初期。

様々なデッキが想定されたことだろう。この大会のコンセプトでもあったはずだ。

ただそれは,メタゲームを形成できるだけの下地がない,ということでもある。新たなアーキタイプが散見されること自体は予測できても,仮想敵としてどんなデッキかを特定するのは難しい。

いつめん

完成度という点で,前環境の覇者達は健在だろう。

またその中で,「環境一発目はアグロ」という格言が古来よりある。その意味は,「環境がまだよくわからんから,何されるか分からん。だから押し付けが強いデッキを使う」と言い換えられる。
メタゲームという意味合いとはやや異なるが,そうした点を鑑みれば,この【グリクシス碑出告と開璃】は最高だ

もちろん,今やスタンダードの新環境もそれなりに研究が進んでいる。プロツアー後は,デッキの洗練度合いが数段上がるものだ。
今後,デッキガイドが出た際は,どのようなメタゲームを想定しているのかは,常にチェックしてから読む方が,賢明だろう。

③サイドボードを推測する

デッキガイドには,概ねサイドボードガイドというものがつきものだ。執筆者のIn/Outはもちろん参考になる。だがまずはリストだけ見て,自分なりのサイドボーディングガイドを作成する。

<実践>

くろき氏のリスト(2回目)


引用元のデッキガイドには,主要なアーキタイプへのサイドボードが記載された。さて,あなたならそれぞれに対し,どんなサイドボーディングを施すだろう?

(是非,元記事で答え合わせしてみてほしい)

見たまんま

まず,「役割がはっきりしているサイドカード」は分かりやすい。
スタンダードをよく知らなくても,《切り崩し》や《炎恵みの稲妻》,《兄弟仲の終焉》が対アグロに有効なのは一目瞭然だろう。《強迫》や《軽蔑的な一撃》は対コントロールで頼りになるし,最近では《ギックスの残虐》などにも十分に有効だ。

コンボ以外もあるよ?

なるほど,コンボ勝ちが難しい場合,サイド後は《黙示録,シェオルドレッド》で勝つプランなのだろう。《碑出告と開璃》との相性も良い。
少しスタンダードに知見がある人ならば,《剃刀鞭の人体改造機》が対グリクシスミッドレンジで,ゲームを決定づけるカードだということも,すぐに理解できる。

強そうだが,どう使うの?

私が初見でこのリストを見た時に,疑問に感じたのがこの《ギックスの命令》であった。モードのある呪文なこともあるが,単純に用途の見当がつかなかった。

対アグロ?赤単には強そうだが5マナだし,《スレイベンの守護者,サリア》にも弱そうだけど。
ミッドレンジでの追加のリソース源?回収するクリーチャーは少ないし,それならやっぱり《税血の収穫者》は必要では?など。

通常,デッキガイド≒サイドボードガイド,という認識が多いだろう。それだけ実際に人のデッキを回す際,ガイドがないと最も悩む部分だ。

こうした疑問点も,実際にガイドに沿ってデッキをプレイする前に言語化しておけると,デッキの習得が早いし,各カードの採用/不採用も適切に判断できる。
この《ギックスの命令》についても後述の通り,実際にプレイするとよく背景が理解できたが,それも事前の思考があってのものだ。

実際に回してみる

「いや,結局自分でも回すんかい」と思うかもしれない。
だが,事前に多くの事を考えていたおかげか,特段試行回数を必要ともしなかった。大会前の段階で,10マッチも回していなかった。

デッキガイドを基にしてデッキを回すことは,感触を確かめるのではなく,答え合わせという感覚だ。

①挙動の確認

テキストを字面で理解しても,実際のカード処理の挙動は,案外直感的にわかりにくいものである。デッキを回してみて初めて,”あぁ,こういう動きするのね”と感じることは,皆さんにもあるだろう。

また,些末な話だが,ルール面でのできる/できない,の確認も大事だ。この点でMTGアリーナは,非常に有用である。

<実践>

《碑出告》をコピーできたら宇宙だった

私は現行のスタンダードはそれなりにプレイしていたが,このデッキを使うまで,《キキジキの鏡像》が伝説のクリーチャーを対象にとれないことを知らなかった。対戦相手も,ギャラリーも,知らない人がそれなりに居た。

自分では《鏡割りの寓話》をあまりプレイしなかったり,一部の例外(《夜明けの空,猗旺》等)を除けば,”伝説のクリーチャーをコピーする”という挙動に意味がない,そもそも《キキジキの鏡像》は召喚酔いが解ける前に除去されることがほとんど,ということもあった。

いやまぁ,テキストを読め,と言えばそれまでだが,事前にMTGアリーナで挙動を確認しておいてよかったと思う。

②まずはガイド通りに

当たり前だが,まずはガイドの通りに動かしてみる。余計なことはしないことだ。車輪の再発明はあってはならない。

③回した第一印象の言語化

先ほどは「リストを見た」第一印象を言語化する点について触れたが,実際に回して「・・が欲しい」「やっぱりこれいるの?」といった感想もやはり大事だ。

<実践>

欲しい

実際に回して最初に感じたのは,マナをかけずに《碑出告と開璃》を自爆させる手段が欲しい,ということであった。いわゆる”サクリ台”だ。
先ほどの項で触れた,《キキジキの鏡像》で《碑出告と開璃》をコピーしたかったのも,これに由来する。

《碑出告と開璃》は5マナのカードであり,スタンダード視点であれば十分現実的なマナ域のカードに思える。だが実態は《鏡割りの寓話》やエスパーレジェンズの存在から,高速でゲームが進む展開も多い。
できることなら《碑出告と開璃》を出したターンにコンボ勝ちを狙いたい,というのが本音だ。

実際には《爆発的特異性》とセットで持っていなかったとしても,サクリ台の存在があることで即死をちらつかせられるため,対処手段を構え続けることを強いれる。

という訳で,サクリ台が欲しい,という印象を言語化して残しておいた。

④疑問点への回答と,新たな疑問

ガイド通りにデッキを回し,事前に感じていた疑問点に対しての回答を言語化する。その過程で生じた疑問は,再度仮説を設定,検証である。
さながらPDCAサイクル,といったところか。メインデッキの内容でもいいし,もちろんサイドボーディングもだ。

<実践>
まず先に挙げた《税血の収穫者》の有無。
結論として,無くても問題ない,という感触がものの数回で得られた。どうしてそういった感触が得られたかを考えると,従来の黒系ミッドレンジのリストにあった《黙示録,シェオルドレッド》《絶望招来》の存在が大きかったと言える。

従来のグリクシス・ラクドスミッドレンジでは,こういった飛び道具を持てていることで,序盤詰めたライフを削りきる,というプランが成就しやすくなる。ライフを詰めきる手段がなければ,《税血の収穫者》で数回アタックしたところで,ゲームに影響しないのだろうと,容易に想像できた。ただ,これだけならガイドで触れられている通りでもある。疑っていたけど,やっぱり正しい,と。

しかしそこで,新たな疑問が生じた。
ならば,元のコンボパーツである《爆発的特異性》を《絶望招来》に変更すれば,併せて《税血の収穫者》も採用できて,デッキとして整合性が取れるのでは?と。

よほど長引いた展開でもないと,馬鹿正直にマナを払って《爆発的特異性》唱えることは難しい(本番では2回ぐらいそれで勝ったけれど)。《碑出告と開璃》で踏み倒すのは,別に《絶望招来》でもいいのではないだろうか?

今度はこの点に重点を置いて,リストは変えずに数マッチ対戦を重ねた。

実質2ターンは破壊(したくない)不能

実践の中で得た体感として,《碑出告と開璃》は出してから2ターン,実質的な除去体制があると言ってよい,ということだった。

相手視点だと,出されてすぐ除去するのは,あまりにリスクである。よしんば《爆発的特異性》でなくても,適当なインスタントを捲られるだけで随分な損害だ。

その結果,《碑出告と開璃》が出た後,しばらく盤面が硬直する。要は,トップが不明な状態になってから除去されることがほとんど,ということである。
そうなるとクリーチャーが横に並びやすくなり,《絶望招来》がめくれてもは,さほど有効ではない(ゲーム中,各ターンで「この盤面で《絶望招来》がめくれたら強いか?を想定しながらプレイしていた)。

さらに,対エスパーレジェンズでの分の悪さがそれに拍車をかける。

《スレイベンの守護者、サリア》,《第三の道のロラン》,《黙示録、シェオルドレッド》,《英雄の公有地》等、コンボで勝つには障害となるカードが多いため、サイド後はコンボを諦め除去ミッドレンジとして戦います。

https://note.com/kuroki05232/n/n5c6fe9ef27fe

ガイドにもある通り,コンボ勝ちを狙うには障害が多すぎるため,そもそも《爆発的特異性》はサイドアウトしてしまう。《碑出告と開璃》を出して多少盤面が硬直しても,《天上都市,大田原》でバウンスされると,著しくテンポ損だ。エスパーレジェンズは基本的にクリーチャーが大部分を占めているため,《絶望招来》もあまり有効ではない。

そこで初めて,二つ目の疑問であった《ギックスの命令》の採用に合点がいった。要はこの枠に求められているのは「コンボ勝ちが狙えない相手に対し,《絶望招来》よりも有効に機能するカード」ということなのだと(少なくとも私は)理解できた。

《サリア》に弱いのでは?と最初は疑問に思った点についても,そもそも《サリア》が定着するような展開にならないために,軽い除去が用意されており,《ギックスの命令》は十分に間に合う。カード単体ではなく,デッキの全体像を見ての投入だ。

実際の関西帝王戦の決勝戦では,エスパーレジェンズとマッチ。最終ゲーム,序盤は除去で捌き五分の盤面。《救済の波濤》構えの《黙示録,シェオルドレッド》を,《ギックスの命令》で上から粉砕しながら《碑出告と開璃》を回収し,ゲームの流れを引き寄せた。これが《絶望招来》なら,間違いなく負けていた。

長々と書いたが,やはり《税血の収穫者》は不要だったし,《ギックスの命令》は非常に考え抜かれたサイドボードだった,ということだ。
結局のところ,非常に検討されたデッキであり,それを的確に言語化してくれたガイドだったと言うほかない。

だが結果は同じでも,事前に自分で批判的にリストを検討し,実践でそれを確かめるという過程があってのものだ。次の項である”自分の環境に合わせて調整”する際も,そうしたデッキへの理解がないと,むしろデッキを改悪・破壊してしまう。

自分の環境に合わせて調整

最後は,デッキガイドを通して得られた知見を基に,自分が当日プレイするフィールドに合わせて,微調整を施す。

逆に言えば,この段階まで,デッキリストには一切手を加えていなかった。

<実践>
プレイするフィールド(今回で言えば,晴れる屋TC大阪。ひいては関西圏のスタンダード事情)を一通り調べた結果,

「アグロが少なく,ほぼ赤単のみ」
「エスパーレジェンズが少ない」
「ラクドスミッドレンジが多い」

ということが伺い知れた。

私のリスト

アグロが少ないなら,《兄弟仲の終焉》はそれほど必要ではないし,エスパーレジェンズが少ないのであれば,《強迫》はメインから増量しても差し支えない。ゲームレンジが後ろに倒れがちなので,《勢団の銀行破り》はメインに昇格させてよいだろうと,それぞれ判断した。

そもそものデッキ選択においても,メタゲームを確認することの重要性は前項で述べた。細部についても,それは同様だ。

最新のリストもチェック

よほどタイムリーでない限り,デッキガイドがリリースされた時期と,そのデッキを使用する時期にはタイムラグが存在する。デッキリストとは生き物であり,おかれた環境に適応すべく,変化を繰り返すものだ。

今回はタイミングよく,プロツアー「機械兵団の進軍」が行われている。集合知の頂点ともいえるだろう。ありがたく,その恩恵にあやかるとしよう。

Julian Jakobovits氏のリスト。スタン(7-3)

ドラフトラウンドの戦績との兼ね合いもあり,残念ながら大会の上位には食い込めずだったが,それなりの戦績を残したリストは確認できた。人のデッキガイド読み込み,ある程度ものにしたからこそ,よく分かる。このリストは,面白い。

目を引く要素の一つが,3枚搭載された《ヴェールのリリアナ》だ
一見すると,「黒系ミッドレンジに《リリアナ》はもう時代遅れだよ・・」なんて声も出そうだが,それは違う。

これは,先置き出来る《碑出告》の”サクリ台”である。《碑出告と開璃》コンボはその特性上,2枚コンボでありつつも,コンボの挙動としては,ただ《碑出告と開璃》が出て,死亡するだけでよい。
3Tにプレイし,-2→+1とつないで,5Tには《碑出告》をプレイして-2で即自壊,とできればもう十分。奥義も不要である。

そしてその《リリアナ》を維持するために,盤面の形成役として《税血の収穫者》も合わせて採用されている,と私には読めた。
本記事で散々《税血の収穫者》の必要性に疑問を持ち,考え続けたが,《ヴェールのリリアナ》1種類のカード選択でここまで評価が分かりやすく変化するとは。これだからカードゲームは面白い。

Reid Duke氏のリスト

また,今大会を席巻したデッキの1つに,ラクドスブリーチがある。《原初の征服者、エターリ》《多元宇宙の突破》といったカードは,《碑出告》で積み込んだカードをずらしてしまう。
それだけでなく《エターリ》は,あろうことか《爆発的特異性》を捲ると,こちらに10点火力を飛ばしてくる
《碑出告》自体はそれらのカードよりも軽いので,コンボデッキとしての速度(=《碑出告》が死ぬ速度)を担保する上でも,《リリアナ》は良い選択になりうるだろう。

高め合う楽しさを

私は普段,所属しているコミュニティ内で,自分が使いもしないデッキを回す人のプレイを見ては,感じたことをよく聞いてみたりする(自分がどちらかと言えばローグ寄りのデッキを使うから,というものあるが)。

本記事では「デッキガイドの読み方」をメインテーマにし,その中で何度も「疑問に思う」「疑う」というフレーズを使ってきた。

当たり前だが,これは粗さがしではない。
批判的≠攻撃的,である。
デッキガイドとはいわば珠玉の論文だ。
執筆者へのリスペクトは常に忘れないでいたいものだ。

それでも,一つの意見に対する疑問や反対意見というのは,デッキへの理解や認識を,時に確かなものに,時に根底から見直す機会にもなる。

それが新たな発見や洞察につながるかは分からない。けれど,その議論には大いに価値がある。意見を発信することがスタートだから。

だからこそ,世のデッキガイドを「疑って欲しい」と思う。

そして,あなたのデッキガイドも「書いてほしい」と思う。

もしかすると,あなたがMTG界の新たな”Singularity”になるかもしれないから。


またどこかの記事で,お会いしましょう。


改めて,くろき氏(@kurokimtg)には最大限を感謝を。

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