輝く尾 ①

かつて、人間の住む世界から遠く離れたところにぼくたち鳥だけの棲む森があった。森から人里まで行くのに、岩肌が露われた鉛筆の尖のような山々を2つも3つも飛び越えなければならなく、しかもそこにはぼくたちより巨きな鳥が眼を光らせながら飛び回っていて、とてもじゃないけど、人里まで行くことはできなかった。

ぼくも含めて、この森にいる鳥はみんな、コーヒーを水に溶かしたような、汚い茶色を全身に纏っていて、鳴き声も錆びついた扉が引っかかるような、鈍い音をしていた。
しかしぼくが物心ついたときから、一羽だけ変わった鳥がいた。尾の先が見るたびに変わった。朝は常盤色だと思ったら、夕方には菖蒲色になっていたり、ある日は一日中鉛白のままだったりした。
そいつは、ぼくたちの輪の中で一際目立ったが、誰もそいつを馬鹿にすることなく、一緒に生活した。小さな芋虫を我先にとみんなで奪いあったり、大きな広葉樹の下で雨が止むのを待ったりした。

森には訪問者が来ないので、艶やかな葉っぱの上にペンキを垂らしたような白い糞が溜まり、樹が櫛比している下には黒っぽい土が光も差すことなく湿っぽく宏がっている。少し苦いような酸っぱいような陰気臭い匂いが立ち込めていたが、当のぼくたちはというと、元気よくはしゃぎ回っていたのだった。

長い間このように森で平穏に過ごしていたが、一方の人里は、少しずつ開発が進んできた。一つの山に金鉱が発見されたということで、山に巨きな坑道が作られ、掘鑿作業が行われてるとのことだった。その騒音から巨きな鳥たちも鳴りを潜め、以前よりも恐く見えなかった。
ぼくたちのボスは昔から誰に対しても平等に扱い、ボスらしさというものに欠けていたが、気づかぬところで巨きな鳥たちとのやりとりがあったようで、人里からの情報のほとんどは、巨きな鳥たちからボスに伝わったものだった。

あるとき、ぼくはボスに呼ばれた。普段仕事をしない(と思っていた)ボスがぼくを呼ぶなんて何事だと思い、内心びくつきながらボスの巣に入ると、そこには変わった色の尾をしたそいつもいた。
ボスはぼくたち二人に向かって、人里へ向かう斥候隊に任ずると力強く放った。その衝撃で数秒堅まってしまったが、ボスの意図を汲み取ろうとして冷静に考えるも、今まで宏い世界に羽ばたいた試しがないのに急に指名されても行けるはずがないと思った。しかし、隣にいるそいつは、凛々しい顔で、承知しましたと答えた。それを見たぼくは、ならばぼくもと、アンブシュアが上手くいかずにストレートな音の出ないトランペットみたいなか弱い声を発したのだった。

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