輝く尾 ②

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ある日、森でレースが行われることになった。ぼくたちのいる森は幸いなことに天敵も少なく平和そのものだった。ただし、退屈だった。ということで森を挙げてレースイベントを開催することになった。
ちょうどみんなと遊んでいるときに、広葉樹の太い幹に貼られているレースイベントのチラシを見た。そこで、変わった色の尾をしたそいつは、俺も出てみようかなとつぶやいた。なんだこのイベントに興味あるのか出たらいいじゃん!と周りの友達もガヤガヤと煽りながら帰路に着いた。

それからまもなくレース当日となった。コースは簡単。森から北に進み、この森で一番高い樹を一周回って戻ってくるだけ。優勝者には賞金も出るみたいだ。ぼくは心の中で密かにそいつを応援していた。
しかし、レース出場者が発表された途端唖然とする。なぜなら、そいつがいないからだ。お腹を壊したのか、遅刻したのか、それともそもそも応募してなかったのか。そいつがいない理由を逡巡する。なぜいないんだろう。すると友達があれってと指差した。なんと、そいつは実況席にレースが始まるのを待ち侘びるかのように座っていた。
レースは盛り上がった。だけどレースの内容はあまり覚えていない。なぜそいつが実況席にいたのかをずっと考えていた。

それからというもの、そいつの行動に興味を持ち始めていた。そういうこともあり、次第に二羽で遊ぶ機会が増えた。あるとき、実況席にいたのはなんでと訊くと、みんなが楽しむところを見たかったからだと笑顔で答えた。
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ボスはぼくたち二羽が許諾したのを確認すると、葉巻を咥え、引き下がるよう言った。二羽は深々と礼をしボスの巣を出た。
ボスの巣は、周りの木々よりも少し高い樹にあるので、森全体を見渡せる。ぼくたちは巣を出ると雲一つのない空からの西日が森を覆い被さるように差しているのがわかった。
ぼくはどうして斥候隊を請けるのを即答したのかと訊いた。すると、違う世界が見てみたいんだ、ぼくたちのような鳥だけじゃなく、もっと巨きな鳥や人間もいるんだろ?とそいつは言った。それもそうだな。ぼくは西日を背に同調してみた。

次の日、斥候に向けて自分の巣の整理をした。普段は巣の掃除なんかしないが、斥候に行ったらいつ戻れるのかわからない。使うものだけをリュックに詰め、それ以外のものは巣の奥に仕舞った。

その次の日の太陽も出ていない早朝、出発の時が来た。人里へは遠い道のりのため、早く出ないと着かない。森の端っこの薄暗い小さな池の畔でそいつと集合する約束だった。しかし、集合時間になってもそいつは来ない。15分ほど待ってようやく着た。
どうして遅れたのと訊くと、楽しみで仕方なく、なかなか寝付けられなかったんだと笑顔で答えた。

この池を少し進むと高い山が一つある。これを越えると巨きな鳥たちのいる深い森があるらしい。
ぼくたちは何も考えずに山を越えるために真っ直ぐ進んだ。真っ直ぐ進めば進むほど標高が高くなり、気圧が薄くなる。先ほどまで少々会話もしていたが、今では無口な二羽がただ空を飛んでいるだけになっていた。

そろそろ休もうかと山の八合目あたりの割り箸みたいな葉っぱもない樹を指差してそいつは息を切らしながら言った。ぼくは無言で頷いた。
樹に留まり、一息つくと自然と遠くが見渡せた。ぼくたちの森はもう点くらいのサイズしかない遥か先だ。簡単には戻れないところまで来たと強く自覚した。

その後は意外とあっさり山の頂を越えることができた。頂上付近では雲が絨毯の如く眼下に露われ、未だその先がどうなっているのか確認することができない。
下降気流をうまく利用して、雲をすり抜けていくと、なんとぼくたちが思っていた世界とは異なるものが見えてきた。
深い森なんてものはなく、太い丸太が一面に横たわっている大地の姿がそこにあった。

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