見出し画像

非営利団体「第二創業期」の乗り越え方(イベントレポート)

多くの非営利組織において、課題となる「第二創業期」。2022年の「教育アクセラレーター・プログラム」参加団体の一般社団法人Kids Code Club石川麻衣子さんと、Kids Code Clubのメンターを務めた認定NPO法人Learning for All の李炯植(り ひょんしぎ)さんのお二人に、「非営利団体『第二創業期』の乗り越え方」と題して、お話していただきました。
なお、このイベントは2023年「教育アクセラレーター・プログラム」参加団体募集時のイベントとして実施されました(2023年5月15日)

李 炯植(り ひょんしぎ)さん
NPO法人 Learning for All 代表理事
2014年に特定非営利活動法人Learning for All を設立、同法人代表理事に就任。これまでにのべ9,500人以上の困難を抱えた子どもへの無償の学習支援や居場所支援を行っている。全国子どもの貧困・教育支援団体協議会 副代表理事。2018年「Forbes JAPAN 30 under 30」に選出。
石川麻衣子(いしかわ まいこ)さん
一般社団法人Kids Code Club 代表理事自らも経済的事情で学ぶことを諦めざるを得ず、独学でプログラミングスキルを学びウェブ制作会社を起業。テクノロジーの力で「生まれた環境に関わらず、好きなことを存分に学び、また自らも学び続けるきっかけが得られる社会づくりがしたい」と2016年にKids Code Clubを設立。

「すべての子どもたち」のために社会を変えていく

−それぞれの団体の活動紹介をお願いします。

 認定NPO法人Learning for All は、貧困世帯の子どもたちの包括支援を手掛けるNPO法人です。もともとはTeach For JapanというNPO団体の事業の一つとしてスタートし、私が学生のときに独立する形で法人化しました。これまでに6歳から18歳までの子ども、のべ1万人以上に、学校内外で学習支援、居場所支援、食事支援などを行なっています。

また、直接的な支援のみならず、全国で同じように活動する団体や自治体へ、コンサルティングや研修などの中間支援を実施。さらに抜本的な問題解決のために、メディアに出させていただいたり、企業で講演をさせていただくなど、普及啓発活動やアドボカシー活動にも取り組んでいます。近年は、今年4月に新設されたこども家庭庁の委員となり、国の政策形成にもかかわるようになりました。現場から社会を変える。そこまで一気通貫して活動しているのがLearning for All です。

石川 一般社団法人Kids Code Clubは「すべての子どもたちが笑顔で希望をもって生きていける社会をつくる」というミッションを掲げ、小中学生向けのプログラミングの学習サポートを無料で行なっている団体です。私自身が貧困家庭に育ち、どん底にいたときにプログラミングを学ぶ機会を得ました。できることが一つずつ増えていくのがとても楽しく、それが生きる希望となって自立することができました。その原体験から、デジタルなクリエイティブ活動の機会を通して、子どもたちの自立的な学ぶ力を育み、生まれた環境に関わらず、好きなことを好きなだけ学べる社会をつくっていくことを目指しています。

主な事業として、大人が一方的に教えるのではなく、子ども同士の学び合いによって生きる力を育む「放課後プログラミングクラブ」というオンラインのプログラミングクラブを無料で運営しています。これまで開催したプログラミングイベントには、のべ1万人が参加。プログラミングの無料教材は、ユニークユーザー数で50万人ほどの利用実績があります。ほかにも、ネット環境がなく、学びが制限されてしまうご家庭向けには、パソコンやWi-⁠Fiの無料レンタルを行なうなど、さまざまな活動を実施しています。

第二創業期には「思いきり」アクセルを踏もう

−それぞれの団体での第二創業期のご経験について教えて下さい。

 Learning for All は、法人として独立したあとの2015年までが第一創業期で、2016年以降が第二創業期だと考えています。第一創業期では、貧困世帯の子どもたちを対象とした無料の塾を開く学習支援事業だけに取り組んでいる団体でした。学生起業だったので、経営者としては未熟で、マネジメントのやり方もよくわかっておらず、2015年までに初期のメンバーはほとんどが辞めてしまいました。失意の中でスタートしたのが、第二創業期でした。

そんな矢先に、僕らにとってものすごいチャンスが訪れました。日本財団から、子どもの居場所づくりの新規事業を始めるので、一緒に第一号拠点をつくってくれないかと声が掛かったのです。引き受ければ、団体としてはかなり大きなチャンスです。当初、団体の予算を5000万円ぐらいの規模で考えていましたが、この新規事業を受けると8,000万ー1億円規模になるものでした。ただ、大勢のスタッフが離れていったタイミングだったので、果たして本当にできるのだろうかと悩みました。

当時の僕は社会人経験もなかったので、とにかくいろいろな人に会おうと、自分なりのメンターリストをもっていました。リーダーシップやビジョンを考えるならこの人、資金調達を考えるならこの人、というように、自分に必要なスキルを身につけるため、その道のプロに相談して教えてもらっていたのです。必要としていたスキル以外にも質問の投げかけ方や人との関係構築など、そこで得られたことはたくさんありました。

この時も「幸運の女神は前髪しかない(チャンスはやってきたそのときにつかまなくてはいけない)」ということわざをある人に教えてもらったこともあって、僕らのミッションを実現するために「とにかく来た球は全部獲ろう!」と決め、その新規事業を引き受けたのです。

大きな事業を回すためには、人も採用し組織も整えないといけない。本当に必死でした。そんな感じで売り上げも倍、組織も倍になっていったというのが第二創業期のスタートでした。ここで僕が重要だったと思っているのは、最初の10人ぐらいまでの採用については「いかに組織の熱量を落とさないか」を最優先に考えたことです。スキルフルな人よりも、ミッションに対する熱量や現場に向き合う熱量がある人を採用する。かつ、自分にないスキルをもった人を採用するようにしました。すると、コアメンバーは熱い思いをもっている人ばかりになり、得意なスキルが一人ひとり違うので、チーム内の多様性も担保することにもつながりました。

Learning for All 学習支援の様子

−当時を振り返って、第二創業期を乗り越えるために何が必要だったと思われますか。

 大きく考えることでしょうか。特に寄付型で進めるNPOは初速が速ければ速いほど遠くに行けることを実感しました。アーリーステージでどれだけ思いきりアクセルを踏むことができるか。無理だと思っても、勇気を出してアクセルを踏んでみると、予想以上に成長できることがあります。大きく考えることとチャンスを積極的に獲りにいくこと。この2つは第二創業期を乗り越える際に、非常に大切だったのではないかと思います。

−石川さんの第二創業期は、まさにここ数年ということになりますか。

石川 そうですね。私たちは2016年にボランティア団体を立ち上げて、法人化したのが2020年になります。それまでは仕事をしながら、休みの日にイベントを開催するという活動でした。第二創業期はHatchEduに出会った2021年、初めて大きな助成金を獲得できたときからだと思っています。李さんの「初速は速ければ速いほど遠くに行ける」という話につながりますが、私たちは、最初から大きな額の助成金に果敢に挑戦しました。そして、2年連続で休眠預金等活用事業の実行団体に選定され、助成金を獲得することができました。

Kids Code Clubのミッションで「すべての子どもたちに」と言及しているように、私たちは事業をスケールしていくことを前提に活動しています。しかし、助成金は得られたものの、その難しさに直面しました。目の前の子どもたちに成長の機会を提供できている手応えは確実にあったものの、それが他の場所で再現可能かと聞かれるとそうではなかった。そうなるためには、システム化を目指す必要があります。今いる子どもたちには継続して学びの機会を提供しつつ、同時進行でスケールに向けたプロトタイピングや事業計画の策定をするフェーズに入ったのが2022年でした。

Kids Code Clubのみなさんと李さん(後列中央)

「どんな未来をつくりたいか?」問い続けてくれる存在の大切さ

−石川さんはまさに今、事業の方向性を見定めているタイミングだと思いますが、この1年間を振り返って、団体やご自身の考え方が変わってきたと感じているところはありますか。

石川 団体も変わりましたが、私自身も大きく変わったと思っています。私はもともと人に頼るのがすごく苦手で、「他人に迷惑をかけたくない」と思っていろいろ背負い込んでいましたが、李さんをはじめ、HatchEduのみなさんと話をしているうちに、「志は高くもちつつ、ときには人に頼って助けてもらい、その分どんどん成長していこう」と」と考えるようになりました。

どんなことを話しても、HatcheEduのみなさんは認めてくれて、その上で、自分たちらしさを失わずにより良くしていくにはどうしたらいいかを一緒になって考えてくれました。それが「人に頼っていいんだ」という気持ちにつながっていったように思います。

−どんなメンタリングだったのか、可能な範囲で教えていただけると嬉しいです。

石川 特に印象に残っているのは、李さんが学習を支援する団体を運営していくにあたっての貴重な情報やノウハウを、最初から惜しみなく提供してくださったことです。そのときに、本気でやるならここまでやらないといけないのだという覚悟ができ、むしろ自分たちにはまだまだできることがたくさんあるという希望がもてました。最初に圧倒的なものを見せられると、不思議となんでも頑張れる気がしてくるものです。

メンタリングでは、「どういう未来がつくりたいのか」何度も聞かれました。成長するためには、大切なことを問い続けてくれる人の存在が欠かせません。私にとっては、それが李さんだったと思います。

−メンターである李さんの立場から、石川さんの変化をどのように感じていますか。

 こだわりや軸ができて、「Kids Code Clubが何をする団体なのか」ということが圧倒的に語れるようになりましたね。石川さんがつくりたい社会は何かを訊ねていくと、やはり子どもたちがプログラミングを自律的に学べるようにしていくことが重要だった。それこそが石川さんのこだわりだし、石川さんの団体だからこそのビジョンだとも感じました。そこを言語化できたのは大きかったのではないでしょうか。今は軸があるから迷わないし、そこにいくためにはどういう選択肢があるかを考え、どれがいいのかを選ぶことができる。思考の仕方そのものが変わったように思います。

石川 ありがとうございます。単に「何をしたいか?」と問うコーチングではなく、李さんの経験を元に「こういう軸で考えてみたら?」と思考の方法などもアドバイスしてくださって、本当に私たちの助けになりました。

Kids Code Clubでプログラミングを学ぶ子どもたち

参加者主体で設計されたプログラムと安心安全の場があったから成長できた

−最後に、「教育アクセラレーター・プログラム」への応募を検討されている方に、お二人からメッセージをお願いします。

 自分の経験から、ちゃんと社会課題に向き合ってビジョンを掲げていれば、年齢もスキルも関係なく人は集ってきてくれると思っていますが、そこに行くまでは、手探り状態で大変でした。HatchEduは参加者主体でプログラムが組まれていて、やることを押し付けるでもなく、本当に内容が充実していると思います。僕自身が活動し始めたとき時にあったら良かったなと、何度も思ったプログラムです。メンターもスタッフも素晴らしい人ばかりなので、気になる人はぜひ参加してみてほしいと思います。

石川 私たちは「もう自分たちでやっていけない」と思って、HatchEduのプログラムに参加しました。そんな中、この1年で組織も個人も本当に成長させていただきました。この1年間に経験したことを糧に、今後もさらに成長し続けられるとも思っています。みなさんにもぜひ一歩踏み出し、参加してもらいたいプログラムです。

【HatchEduの教育アクセラレーター・プログラムについて】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?