はたらくFUND 2021 Impact Report (3)

6.本ファンドにおけるインパクト測定・マネジメント(IMM)

(1)インパクト測定・マネジメント(IMM)とは
GIIN (Global Impact Investing Network)による定義は、「ビジネス上の活動が人や地球に与えるポジティブとネガティブの両方の影響を特定し検討することを含み、その上で自身の目的と整合させつつネガティブな影響を低減し、ポジティブな影響を最大化する方法を見出し、実践する反復的なプロセス」 である。
近年、インパクト測定 を実施するだけでなく、その評価結果を事業や投資の意思決定に活用し改善するための継続的な実践(インパクト・マネジメント)の重要性が強調される中、「IMM」という用語がインパクト投資家間で定着してきている。そのため、本インパクトレポートでも「IMM」の用語を用いることとする 。

(2)本ファンドにおけるインパクト測定・マネジメント(IMM)の目的
本ファンドは、投資先の事業と本ファンドの活動を通じた社会課題解決及びインパクト投資エコシステム構築への貢献を目的として、IMMを実施している。

・社会課題解決に対して: 投資先に対しては、投資先の事業によるインパクトの可視化を行い、事業の成長及びインパクトの創出を支援・モニタリングすることを通じ、社会課題解決に貢献する。また、本ファンドのToCの達成に対しては、投資先の発掘・投資実行・IPO等の実現を通じ、本ファンドのToCである「多様な働き方・生き方の創造」の実現を目指す。

・インパクト投資エコシステムの構築に対して:
新生銀行グループ、SIIF及びみずほ銀行の連携によりインパクト投資活動を推進し、当該活動から得られる情報・経験・知識を、新たなインパクト投資の実証モデルとして、LP投資家及び投資先とシェアすることを通じて、インパクト投資を日本全体に普及・促進する。

(3)本ファンドのToC実現のためのインパクト測定・マネジメントのプロセス
本ファンドは、ファンド活動を通じた課題解決への貢献を目的として、以下のステップによりポートフォリオレベルでの活動を行う。

● ToCの策定: ファンドToCを、SDGsへの貢献の視点も加味し策定・更新
● 社会課題の構造分析: ファンドが取組む社会課題の構造を分析し、取組むべき領域を抽出
● 投資実行: 社会課題の本質的解決に資する投資先を選定し、経営支援とモニタリングを実行

(4)投資先に対するインパクト測定・マネジメント(IMM)のプロセス
本ファンドは、株主の立場から投資先各社が目指すインパクトの創出と拡大の支援および本ファンドのToC実現の観点から各社の事業活動をモニタリングすることを目的として、投資先候補の選定から投資期間及びエグジットまでの全投資プロセスを通じてIMMを実行する。グローバル及び国内で開発が進んでいる評価ツールや手法を活用し、インパクトの仮説構築と可視化、インパクト視点での事業の検証と経営改善に取組む投資先をサポートしていく(下図の中で水色でハイライトしたIMMプロセスが該当)。

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本ファンドが活用している主要なIMMツール・手法としては、以下2点があげられる。

1 ロジックモデル:
社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(Social Impact Management Initiative。以下、SIMI )によると、ロジックモデルとは「(プログラムのための)利用可能な資源、計画している活動、達成した いと期待する変化や成果の関わりについての考えを体系的に図式化するもの」とされている。本ファンドでは、投資先が目指すインパクトと投資先の事業活動の因果関係を体系的に把握し、インパクトの観点から投資の意思決定とモニタリングおよび経営支援を行うため、ロジックモデルを活用している。

2 「インパクトの5ディメンション」フレームワーク:
事業のインパクトを多面的に把握するため、Imapact Management Project(以下、IMP )が策定した事業評価の枠組み。具体的には、インパクトの「5つの次元」として、投資先の事業が①どのようなインパクトを(What)、②どの受益者に対して(Who)、③どの程度の深さ・広さ・時間的長さ(How Much)でもたらすか、④投資先はそのインパクトにどの程度貢献するか(Contribution)、⑤想定するインパクトからどう乖離するリスクがあるか(Risk)を定量的・定性的に把握する。
本ファンドでは、投資先事業のインパクトを仮説検証するため、投資先候補の絞り込みからエグジットにいたるまでの全投資プロセスで利用している。

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【5ディメンションフレームワークの概念図】

(5)インパクト投資エコシステムの構築
本ファンドは、投資先・投資家・投資先事業を推進する上での取引先・専門家や行政機関等、多様なステークホルダーに積極的にアプローチし、対話と情報提供を行うことにより、日本におけるインパクト投資エコシステム構築に貢献することを目指している。

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(6)本ファンドにおけるIMMのプロセス開発に関する進捗
本年度は、投資検討時における社会性のデューデリジェンス(以下、DD)に関して、DDプロセスの平準化および各社のインパクトに関する比較可能化に着手した。
DDプロセスの平準化に関しては、①候補先企業が取組む課題の重要性(Materiality)、②競合企業及び代替的な選択肢に対する候補先企業の追加性(Additionality)、③アウトカムの定量化可能性(Measurability)の3軸に対して問うべき主要な論点を共通化し、投資委員会にいたる過程で段階的かつ網羅的に検証できるようプロセスを定型化した。
インパクトの比較可能化に関しては、前述の5 dimensionsフレームワークに沿って評価した投資先候補企業が創出すると期待されるインパクトを当該企業の「インパクトスコア」としてスコアリングする基準を検討し、新規投資検討先に対する社会性DDの過程で試行した。これは、Bridges FoundationsがIMPと連携して主催する財務リターン及び社会的リターンの統合評価手法の開発プロジェクト「Impact Frontiers」に本ファンドのGPであるSIIFが参加し、当プロジェクトで議論されている手法を適用したものである。なお、運用上の課題としてはスコアリング基準の恣意性の緩和や、投資後のモニタリングにおける評価スコアの更新等が挙げられる。今後の各社に対するIMMにて引き続き検討と改善を進めていく。

(7)本ファンドにおける「インパクトIPO」の整理と投資先との取組み
本ファンドでは、インパクト志向企業によるIPOのあるべき姿を「インパクトIPO」として定義し(下記)、投資先の具体的なIPO準備と並行しながら、そのポイントや考え方を整理し、実務的な検討を深めた。

<インパクトIPOの定義>

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IPOを目指すに際し、インパクト/IMMの追求だけでなく、これを「サステナビリティ経営」全体の中で捉えるべく、当社の「パーパス・ミッション・ビジョン」、パーパスの裏で認識されている「社会課題」の特定、目指す「インパクト」と「SDGs」、「ESG」への取組み状況、これらを支える「組織体制」等、これらの要素を全体としてどのように考え取組むかにつき、投資先と検討を重ねた。

<企業のサステナビリティ経営の全体像>

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ESG取組みでは、希望する投資先(CureApp社、ライフイズテック社)において、新生銀行サステナブルインパクト推進部評価室の支援を受け、本ファンドの株主としての伴走支援の一環として、事業内容から取組むべきESGマテリアリティの特定、および自社分析・初期評価を進めた。

IPO目標時期が近いCureApp社においては、本ファンドとの打合せを通じ、インパクト創出と同社事業の親和性が高いとの理解を得た。投資実行後、当社経営陣にてインパクト創出に関するディスカッションを更に深め、IMM・サステナビリティに関する取組みを積極的に推進している。
具体的には、インパクト・ロジックの策定(取組む社会課題、提供価値、その発現経路、SDGsとの関係整理)、ESG観点からのマテリアリティ初期評価を実施した。また、機関投資家向けの開示資料においてインパクトに関する記載を行った上、当社ウェブサイト上にてサステナビリティに関する取組みの発信も開始した。

インパクト投資家のリスト化と意見交換
本ファンドでは、インパクトIPOの実現を目指す活動を進めるなかで、投資先の資金調達におけるインパクト投資家の参加が重要になると考え、国内外のインパクト投資家のリスト化および意見交換を積極的に進めた。この結果、海外7社・国内6社のインパクト投資家に対し、貴重な情報・助言を得ることができた。


(注11)GSG国内諮問委員会「日本におけるインパクト投資の現状と課題 -2021年度調査」(2021年4月発行予定)による訳
(注12)インパクト測定は「社会的インパクト評価」と呼称されることもある。GSG国内諮問委員会によると、社会的インパクト評価は、事業の結果として生じた社会的・環境的な変化(インパクト)を「定量的・定性的に把握し、事業について価値判断を加えること」を指す
(注13)GSG国内諮問委員会 IMMワーキンググループ 第1回会合資料
(注14)SIMIは、日本国内における社会的インパクト・マネジメントの普及・啓発を目指す取組み。ロジックモデル作成に関しても具体的なノウハウを集約し一般公開している。
(注15)IMPは、グローバルにおけるインパクト・マネジメント、報告に関する標準化を目的として、世界2000以上の団体が参加し、国際原則の策定を進める取組み。2021年に、後継となる枠組みとしてImpact Management Platformに改組した。


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