はたらくFUND 2021 Impact Report (1)

ご挨拶

はたらくFUNDは、少子高齢化、労働人口不足といった喫緊の社会課題に着目し、「働く人」を中心に据え、子育てや介護等の様々なライフイベントを経ながらも「働き続けられる」環境作りと人材創出につき、投資の面からサポートし促進することを目的に、2019年に設立されました。
日本ではまだ事例の少ない多様な投資家が参加する本格的なインパクト投資ファンドとして、インパクト投資の実践を通じ、社会課題の解決に寄与すること、インパクト投資のエコシステムの構築に貢献することを目指し、取り組んでまいります。
(はたらくFUND ホームページ http://hatarakufund.com/)

当ファンドでは、ファンド出資者様向けに年に1度インパクトレポートを発行しております。今回はnoteでも、2021年度のインパクトレポートの一部を公開させて頂きます。
尚、当ファンドは2020年12月にファイナルクローズいたしました。

インパクトレポート全体の目次

1. インパクトサマリー
第一部 インパクトを巡る最新動向
2. 最新動向
3. 本ファンドによるインパクト投資のエコシステム構築への貢献
第二部 本ファンドにおけるIMMの実践
4. ファンド概要
5. 本ファンドが目指すインパクト(社会課題・ToC)
6. 本ファンドにおけるインパクト測定・マネジメント(IMM)
7. 本ファンドにおけるインパクト測定・マネジメント(IMM)の実践
8. 新規投資先からの声


1. インパクトサマリー

日本インパクト投資2号投資事業有限責任組合(通称はたらくFUND。以下、本ファンド)は、日本ではまだ事例の少ない外部投資家参加型インパクト投資ファンドとして、新生インパクト投資株式会社(以下、新生インパクト投資)及び一般財団法人社会変革推進財団(以下、SIIF)を共同運営者とし、株式会社みずほ銀行(以下、みずほ銀行)を運営者のアドバイザーに迎え、多様なLP投資家を招聘して、2019年6月に設立された。
少子高齢化、労働人口不足といった喫緊の社会課題に着目し、「働く人」を中心に据え、子育てや介護等の様々なライフイベントを経ながらも「働き続けられる」環境作りと人材創出につき、投資の面からサポートしていく。
また、インパクト測定モデルの構築、データ収集の実施及びレポーティングを含むインパクト測定・マネジメント(IMM)の実践を通じ、インパクト投資の先行事例となり、日本のインパクト投資エコシステムの構築に貢献することを目指す。
本年度における本ファンドの活動ハイライトを以下の通り紹介する。

第一部 インパクトを巡る最新動向

2.最新動向

(1)インパクト投資の特徴と位置付け

The Global Steering Group for Impact Investment (GSG)国内諮問委員会(以下、GSG国内諮問委員会)は、インパクト投資を「財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的、環境的変化や効果を同時に生み出すことを意図する投資行動」と定義している。
インパクト投資およびESG投資は、両者とも投資行動がもたらす「環境」や「社会」への影響を意識し、かつ財務的リターンも意識するという点で類似している。その中で、ESG投資「従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資」と定義されることが多い(注1) のに対し、インパクト投資は、投資主体がインパクト創出の「意図」を有しており、かつ投資主体が「インパクト測定・マネジメント」を実施しているという要件が存在する。

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【インパクト投資の特徴と位置付け(注2)】


(2)インパクト投資のグローバル動向

①インパクト投資を取り巻く「サステナブル・インベストメント」の世界的普及
The Global Impact Investing Network (GIIN) によると、グローバルにおけるインパクト投資の市場規模は推定7,150億米ドル(注3)で、世界銀行グループの国際金融公社(IFC) によると、インパクト投資に対するニーズの急速な高まりを背景に、潜在的な市場規模は最大26兆ドルと推定されている。
インパクト投資の拡大の背景には、サステナブル・インベストメントの世界的普及の加速化がある。インパクト投資は、ESG投資とともにサステナブル・インベストメント(Sustainable Investment、持続可能な社会の実現を目指す投資)の一つと位置付けられることが一般的だが、サステナブル・インベストメント市場はここ10年にわたり拡大の一途をたどり、2020年には35.3兆ドル規模にまで拡大した。

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【世界のサステナブル・インベストメント残高(十億ドル)】

当ファンドでは、後述する「インパクトIPO」推進のため、2021年中に上場株式のESG投資家およびインパクト投資家13社へのヒアリングを行い、彼らが投資の意思決定に先立ち確認する投資先候補企業の「情報」につき調査した。その結果、当ファンドとして、企業のインパクトの開示は、より広い概念である「サステナビリティ」全体に関する開示の中で位置付けられるべきとの考えに至り、これを各投資先におけるサポートに活かしている。以下に、サステナブル・インベストメント市場の観点から2021年のインパクト市場の動きにつき概観していく。

受託者責任とインパクト追求の関係の法的整理
2021年7月、PRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)とUNEP-FI(国連環境計画・金融イニシアティブ)等は「インパクトの法的枠組み」と題した調査報告書を発表した。
同報告書では、「サステナビリティ・インパクトのための投資(investing for sustainability impact: IFSI)」を「投資家が意図的に、資金提供やその他の活動を通じて、サステナビリティ課題に関して評価可能なアウトカムを生むために、投資先企業やその他の第三者の行動に影響を与えようとする活動を幅広く捉える概念」とし、手段的IFSI(Instrumental IFSI)と目的的IFSI(Ultimate ends IFSI)に分類している。
手段的IFSIについては、「各国・地域の法体系や投資家のタイプによって違いはあるが、サステナビリティ・インパクトの追求が財務目的の達成にとって有効であるならば、投資家はそれをすることを法的に求められることになるだろう」と結論付け、目的的IFSIについては、運用リターン目標に関わらず、サステナビリティ・インパクトを生み出すこと自体が一つの独立した目的である場合も、現行法令の元で実施されている事例の大半は運用リターンを優先させるという条件の下で行われていると報告した。
当ファンドとしては、同報告書によってインパクト追求と受託者責任の関係が整理されたことにより、今後、サステナブル・インベストメントが拡大する中でインパクトも追求する動きも強まる可能性が高いと考える。当ファンドの運用実務においては、投資先企業が資金調達する際に、インパクトを含む企業のサステナビリティ経営を追求する投資家を、幅広く紹介し、投資家にサステナビリティ軸からも適切に評価されるように企業を支援することが重要と考える。

②サステナビリティ情報開示基準の整備とインパクトの位置付け
IFRS財団による国際サステナビリティ審議会(ISSB)の設立
サステナブル・インベストメント市場にとって最も重要な「財務情報開示ルール」と「サステナビリティ(非財務)情報開示のルール」に関わる世界的な動きとして、国際財務報告基準の策定を担う民間の非営利組織であるIFRS財団による国際サステナビリティ審議会(International Sustainability Standard Board, ISSB)の設立が2021年11月3日の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)にて発表された。
それに伴い、投資者に焦点を当てたサステナビリティ情報開示基準を策定していた複数の機関(気候変動開示基準委員会(CDSB)および価値報告財団(VRF))が2022年6月までにISSBに統合される予定で、国際的に共通したサステナビリティ情報開示基準の確立が期待されている。
なお、ISSBによるサステナビリティ情報開示基準は、いわゆるシングルマテリアリティの考え方に基づき、あくまでも企業価値に影響するサステナビリティ情報の開示に関する基準である。

EUのサステナビリティ情報開示規則の施行
EUは、従前より、経済・社会のサステナビリティを重視する政策を推進しており、2050年までのカーボンニュートラル達成に向けた民間資金誘導のための関連規則である「EUタクソノミー」を策定した。EUタクソノミーを踏まえ、2021年3月には、金融機関等を対象としたサステナビリティ関連の開示規則(SFDR: EU Regulation on Sustainability related Disclosure in the Financial service sector)が施行され、NFDR(EU非財務情報開示指令)やEUタクソノミー規則と合わせ、EUにおけるサステナビリティ情報開示の中心を担う規則となった。
特に、SFDRのArticle 9(注4)は、サステナブル・インベストメントを目的とする金融商品を対象としており、EUに拠点を置く金融機関のインパクト投資商品はこれに該当するとされる。

G7の枠組みでのインパクト・タスクフォースの立ち上げ
2021年G7議長国英国の後援で、新型コロナウイルスによる世界的な危機からの持続的かつ包括的な回復に向け、インパクト主導の経済・社会を促進していくことを目的に、独立した民間タスクフォースとしてインパクト・タスクフォースが設立された。
タスクフォースには、GSGが事務局を務めた「インパクトの透明性、質、レポーティング」に関するワーキンググループと、英国のGSG国内諮問委員会も務めるImpact Investment Instituteが事務局を務めた「民間資金動員のためのインスツルメンツや政策」を検討するワーキンググループが設立された。
2021年12月に、2つのワーキンググループおよびタスクフォースからの報告書計3本が英国政府に提出された。主な提言には、IFRS財団のISSBによる、企業価値に関連するインパクトの最低報告基準の開発に協力することと、インパクト創出のためのマンダトリーな会計基準を作ることが含まれている。2022年のドイツでのG7やインドネシアでのG20において議論が継続されるよう、本タスクフォース事務局およびG7から参加した委員が各国政府との調整を進めている。
当ファンドとしては、国際的なサステナビリティ情報開示基準整備の加速化と、その中におけるインパクトの重要性が増してきていることを受け、投資先企業が特に上場前後でインパクトに関する報告や情報開示をする際、商品・サービスによる社会環境へのインパクトだけでなく、組織やオペレーションのESGリスク等、当該投資先にとって重要なサステナビリティ情報全体を報告・開示できるよう支援することが重要と考える。こうした動きは、先述した、当ファンド独自のヒアリングから得た考察とも一致する。引き続き当ファンドとしてサステナビリティ情報開示基準整備の進捗についてタイムリーに情報収集し、必要に応じインパクトの報告内容や方法に反映させることを検討したい。

③IMMに関する国際的なスタンダード・フレームワーク・ツールの動向
エクイティ出資を行うインパクト投資家間に普及が進んでいると見られるものを中心に、IMMに関する国際的なスタンダード・フレームワーク・ツールと2021年の主な動向を以下の表にまとめる。

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当ファンドとしては、IMMに関する以下の動向に対し中期的に取り組んでいく。
● 「IMMプロセス」から「インパクトの実績」へ:The Impact Principlesの署名機関数拡大等、適切なIMMプロセスの標準化とその普及は推進されつつある。加えて、今後は、GIINによるCOMPASS開発にも見られる通り、IMMプロセスの結果、実際にインパクトを創出しているのか(インパクト・パフォーマンス)が問われるようになる。当ファンドも、投資先企業の成長段階や状況を考慮しつつ、アウトプットに留まらずアウトカム測定とマネジメントの支援が重要と考える。
● インパクト・レポーティング基準の形成:今後、インパクト・レポーティングのディファクト・スタンダードが徐々に形成されると見る。当ファンドも、グローバルなベストプラクティスを参考に継続的に改善を続ける。
インパクトの独立した検証・認証の仕組みの開発:独立した検証を要件とするThe Impact Principlesの日本における署名機関数が増える可能性もあり、署名の要否につき慎重に検討したい。SDG Impactについては、認証の仕組みの確立をウォッチしていきたい。

(3)インパクト投資の国内動向

①インパクト投資の規模・プレイヤーの拡大
GSG国内諮問委員会による2020年度のアンケート調査(以下、「GSG調査」)の結果、日本におけるインパクト投資市場は、少なくとも5,126億円のインパクト投資残高があることが確認された(注5)。
2021年は、日本の金融グループにおいてインパクト投資の新規参入が見られた。例えば、非上場株式を対象としたインパクト投資では、複数の地方銀行が参加しリアルテックホールディングスにより運営されるグローカルディープテックファンド、上場株式を対象としたインパクト投資では、りそなアセットマネジメントによる日本株式ローカル・インパクト・ファンド等が設立された。
また、2021年11月29日、「包括的にインパクトを捉え環境・社会課題解決に導くことが金融機関の存在目的である」という想いを持つ都市銀行、地方銀行、信託銀行、信用金庫、信用組合、資産運用会社、投資ファンド等の多様な金融機関21社が協同し、経営と投融資の実践においてインパクト志向を持つことをコミットするイニシアティブとして「インパクト志向金融宣言」(注6)が発足した。署名した金融機関は、インパクト投資の実践やインパクト投資市場の拡大への貢献等にかかる7つの行動指針に同意した。
当ファンドの運用者でもある新生銀行グループの他、有限責任組合員数社も署名に名を連ね、また、同じく運用者のSIIFは賛同機関および事務局を務める。
当ファンドとしては、日本におけるインパクト投資の更なる拡大に向け、引き続き業界を牽引しエコシステム構築に貢献していくと共に、投資先企業が上場後も多様な上場株式インパクト投資家に適切に評価されるよう、インパクトIPO(後述)の支援を目指す。

②政策面における展開
サステナブル・インベストメントに関連する金融庁、環境省の動き
サステナブル・インベストメントの国際的な普及加速をうけ、日本政府においても金融庁、環境省、を中心に積極的な動きがみられた。金融庁が6月に公表した「サステナブルファイナンス有識者会議」の報告書では、インパクト投資についてもその拡大の動きや課題について触れられ、「学界やNGO等も交えた官民の連携 により、さらに検討し、多様なアイディアを実装していくことが望ましい。また、個々の主体 がグローバルな取組みにも主体的に参画し、積極的な連携を図っていくことが望まれる。」と述べられた。10月には「ソーシャルボンドガイドライン」(確定版)も公表された。インパクト投資に直接関連するものとしては、金融庁とGSG国内諮問委員会の共催により2020年より実施されてきた「インパクト投資に関する勉強会」がフェーズ1を完了し、約1年3か月にわたって実施してきた成果として「第一フェーズの到達点と今後の課題」が公表された。環境省からは、3月に「ESG地域金融実践ガイド2.0」、「金融機関向け適応ファイナンスのための手引き」が公表されている。

岸田首相の初の施政方針演説でのインパクト投資の言及
2021年10月4日に発足した岸田内閣は、「新しい資本主義」をキーワードとし、首相を議長とした「新しい資本主義実現会議」も設置された(注7)。「新しい資本主義」について述べた岸田首相の初の施政方針演説(2022年1月17日)において、新たな官民連携の実現方法、民による公的機能の補完の手段として、インパクト投資について言及された(注8)。
当ファンドとしては、金融庁とGSG国内諮問委員会共催の「インパクト投資に関する勉強会」委員等、業界作りのリーダーとしての立場から、政府に対して実例とそれを通じた示唆を提供していく。

(4)インパクト創出をめざす企業のIPO(「インパクトIPO」)

本ファンドでは、インパクト創出を目指す企業によるIPOを「インパクトIPO」と定義(詳細は後述)し、投資先企業による「インパクトIPO」の実現を模索している。
「インパクトIPO」そのものではないものの、2021年のサステナビリティ情報の開示を伴うIPOの国内外の動きとしては、以下が挙げられる。

B Corpおよびパブリック・ベネフィット・コーポレーションによる上場
2021年も引き続き、B Corp認証を取得した企業による上場の事例が増えた。
例えば、オンライン学習プラットフォームを手がける米コーセラは、2021年2月にB Corp認証を取得し、パブリック・ベネフィット・コーポレーションに登記を変更した上で、3月にニューヨーク証券取引所に上場した。同社ブログのCEOの言葉によれば、「これで(パブリック・ベネフィット・コーポレーションとなったことで)、私たちは、株主のためだけでなく社会全体にポジティブなインパクトをもたらすための法的な義務を負うようになった」とし、B Corp認証の取得は、第三者による認証、透明性、法的説明責任を通じて、自らのパーパスとインパクトにより高いコミットメントをするためだとした(注9)。

Allbirds社によるSPOに基づく上場
同じくパブリック・ベネフィット・コーポレーションとして創業し、B Corp認証も取得する米サステナブル・スニーカー大手のAllbirds社が2021年11月ナスダック市場に上場した際には、さらに民間で独自に開発されたSPOフレームワーク(Sustainability Principles and Objectives Framework)に基づき、ESGに関する19の基準に関して毎年報告を行う仕組みを目論見書に開示し(注10)、注目を集めた。
SPOフレームワークは、上場前後の比較的中規模な企業が、ESGに関する取組みを報告するためのシンプルで信頼できるフレームワークとして開発されたもので、6つのカテゴリー(ESG格付け、ミッションとパーパス、気候と環境、バリューチェーン、人、ガバナンス)の下に、19の基準を設けている。
本フレークワークは、サステナビリティ専門コンサルタントのBSR社が主催し、JUST Capital等のVC、ベイリーギフォードやステートストリート等の金融機関、サステナリティクスやMSCI等のESG評価機関、ERM等の環境専門家等で構成されるアドバイザリー委員会によって策定された。
SPOの基準は、企業によるESGの取組みを報告することを目的とし、インパクトの報告を目的とはしていないが、信頼性の高いフレームワーク策定の仕組みや、今後のESGに関する目標をコミットする形での目論見書への記載等、当ファンドによるインパクトIPOの取組みの参考にできる点も多い。

国内における類似事例
日本においては、2020年のポピンズ社によるSDGs IPOに倣い、2021年2月には学研ホールディングスによるSDGs IPO、12月にはリニューアブル・ジャパンによるグリーンIPOと、国際資本市場協会(ICMA)の「ソーシャルボンド原則」「グリーンボンド原則」への準拠性、SDGsへの貢献可能性等について、第三者評価機関からセカンドパーティ・オピニオンを取得する形をとった事例が続いた。
当ファンドとして、これら国内外の事例は、サステナビリティ情報の開示をIPOに活かそうとする試みであり、当ファンドが推進する「インパクトIPO」にも通じるところがあると見ている。但し、軸となる評価の基準や第三者認証の有無等に違いがあり、各社のサステナビリティ経営の特徴をステークホルダーとの対話に活かそうとする努力が見て取れる。これらは、企業自体のインパクト推進に重きを置いた「インパクトIPO」とは異なる視点であるが、分断されている未上場から上場の市場がサステナビリティやインパクトの軸でつながり、結果として企業が上場前後でサステナビリティ志向・インパクト志向の軸を保ちながら持続的な成長を実現していくものとして、サステナビリティ関連情報開示をIPOに活かそうとする今後の更なる実例創出をウォッチしながら、「インパクトIPO」を戦略的に推進したい。

3.本ファンドによるインパクト投資のエコシステム構築への貢献

日本においては、2020年のポピンズ社によるSDGs IPOに倣い、2021年2月には学研ホールディングスによるSDGs IPO、12月にはリニューアブル・ジャパンによるグリーンIPOと、国際資本市場協会(ICMA)の「ソーシャルボンド原則」「グリーンボンド原則」への準拠性、SDGsへの貢献可能性等について、第三者評価機関からセカンドパーティ・オピニオンを取得する形をとった事例が続いた。
当ファンドとして、これら国内外の事例は、サステナビリティ情報の開示をIPOに活かそうとする試みであり、当ファンドが推進する「インパクトIPO」にも通じるところがあると見ている。但し、軸となる評価の基準や第三者認証の有無等に違いがあり、各社のサステナビリティ経営の特徴をステークホルダーとの対話に活かそうとする努力が見て取れる。これらは、企業自体のインパクト推進に重きを置いた「インパクトIPO」とは異なる視点であるが、分断されている未上場から上場の市場がサステナビリティやインパクトの軸でつながり、結果として企業が上場前後でサステナビリティ志向・インパクト志向の軸を保ちながら持続的な成長を実現していくものとして、サステナビリティ関連情報開示をIPOに活かそうとする今後の更なる実例創出をウォッチしながら、「インパクトIPO」を戦略的に推進したい。

本年度、本ファンドは、日本におけるインパクト投資のエコシステム構築への貢献を目的として、以下の活動を行った。

(1)金融庁とGSG国内諮問委員会共催の「インパクト投資に関する勉強会」への参画
2020年6月より、金融市場関係者や行政関係者等によるインパクト投資に対する理解を深め、日本の金融業界の持続的な発展に資する推進の在り方について議論することを目的に、2か月に1回程度で開催。共同GPであるSIIFが事務局を務め、ジェネラルパートナー及びGPアドバイザーが委員として参画している。未上場株式へのインパクト投資をテーマにした第4回勉強会では、投資先2社と共に登壇した。

(2)GSG国内諮問委員会への参画
GSG国内諮問委員会は、The Global Steering Group for Impact Investment (GSG)の日本における国内諮問委員会として、調査研究・普及啓発・ネットワーキング活動を通じて、インパクト投資市場やエコシステムの拡大を目指す組織である。本ファンドからはこれまでも賛同メンバーとして参画していたが、2020年度よりジェネラルパートナーが委員として参画している。

(3) GSG国内諮問委員会IMMワーキンググループ(以下「GSG-IMM WG」)への参画
GSG-IMM WGでは、2020年から継続して、IMMに関する合意形成ならびにグローバルで開発が進む原則・指針・フレームワークづくりに国内インパクト投資家の意見を還元することを目的に、勉強会を実施した。本活動の結果、GSG-IMM WGは「インパクト投資実践のためのインパクト測定・マネジメントに係る指針」および「インパクト投資におけるインパクト測定・マネジメント実践ガイドブック」の成果物を作成・公開し、セミナーなどの普及活動を実施した。本ファンドは、未上場株へのインパクト投資の先駆的な実践者として、その経験や知見およびネットワークを活かし本活動に貢献した。

(4) 国内金融機関による「インパクト志向金融宣言」への参画
2021年11月29日に金融機関21社が署名する形で発足した「インパクト志向金融宣言」において、本ファンドのGPであるSIIFが事務局を担い、新生インパクト投資の親会社である新生銀行は発足メンバー21社のうちの1社として署名を行った。


注1:経済産業省ウェブサイト(2022年1月閲覧), https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/esg_investment.html
注2:GSG国内諮問委員会「社会的インパクト投資拡大に向けた提言書2019」をもとにSIIF作成
注3:1,720機関を超すインパクト投資家に関するGIINのデータベースに基づいて試算された、2019年末時点の市場規模
注4:“a Fund that has sustainable investment as its objective or a reduction in carbon emissions as its objectives”
注5:出典 GSG国内諮問委員会「日本におけるインパクト投資の現状と課題 ー2020年度調査ー」
注6:インパクト志向金融宣言ウェブサイト,
https://www.impact-driven-finance-initiative.com/
注7:内閣官房ウェブサイト, https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/index.html
注8:【全文】 岸田首相 初の施政方針演説, NHK, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220117/k10013435201000.html
注9:https://blog.coursera.org/coursera-receives-b-corp-certification/
注10:https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1653909/000162828021020401/allbirdss-1a4.htm

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