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はたらくFUND 2023 Impact Report (2)

第二部 本ファンドによるIMMの実践

3.ファンド概要

(1)設立経緯
2019年6月、新生インパクト投資及びSIIFを共同運営者とし、みずほ銀行を運営者のアドバイザーに迎え、更に外部LP投資家を招聘する形で、「日本インパクト投資2号投資事業有限責任組合(本ファンド)」の運営を開始した。

(2)目的
社会課題の解決:本ファンドは、少子高齢化、労働人口不足といった喫緊の社会課題に着目し、「働く人」を中心に据え、子育てや介護等の様々なライフイベントを経ながらも「働き続けられる」環境作りと人材創出につき、投資の面からサポートしていく。

日本におけるインパクト投資のエコシステム構築への貢献:同時に本ファンドは、日本ではまだ事例の少ない多様な外部投資家が参加する本格的なインパクト投資ファンドとして、インパクト戦略および目標の設定、評価・モニタリング及びエンゲージメントの実施、レポーティング、エグジットを含む一連のインパクト測定・マネジメント(IMM)の実践を通じ、インパクト投資の先行事例となることを目指す。

(3)ファンドのプリンシプル
・LP投資家の選定基準:
本ファンドのLP投資家は、以下基準に合致する投資家を招聘した。

ポジティブ要件の確認:
o   本ファンドが目指すインパクトの創出及びインパクト投資エコシステム構築への貢献に賛同すること
o   日本におけるインパクト投資の将来の牽引者となり得ること
o   投資先事業の成長支援に資すること

ネガティブチェック:
o   重大なESGリスクが顕在化していないこと
o   反社会的勢力でないこと

・投資先の選定基準:本ファンドの投資先は、以下基準に合致する先を検討する。

o   投資による経済性に関するリスク・リターンのバランスがとれること(個別投資先の目標ターゲットをIRR15~25%とする)

o   投資による社会性に関するリスク・リターンが、後述の本ファンドの「インパクト面の投資方針」に合致していること

o   投資先事業の経済性と社会性がトレードオフでなく、正の相関関係が見込めること

(4)ファンド概要

(5)スキーム

4.本ファンドが目指すインパクト(社会課題・ToC)

(1)本ファンドが取組む社会課題

日本では、人口減少及び少子高齢化が今後更に進むことにより、特に20代~60代の働く世代が大幅に減少する局面にあり、労働人口減少の深刻化が避けられない状況下、働く世代において多くの課題がある。

具体的には、働く世代が働き続ける意志があるにもかかわらず、出産・子育てや介護等により仕事との両立が難しくなる状況が挙げられる。働く当人が、疾病や障害により働けない環境も多く存在する。また、年功序列・長時間労働といった従来の日本型雇用を構造的に改革する必要がある中で、将来の働く世代が自立し決断・行動できる人材となるよう次世代人材教育を行うことも重要である。

このような日本において、働く世代が良質な労働力を提供できるような環境を整えるため、新しいソリューションを提供する必要がある。

以上のように、本ファンドでは、①高齢化/労働人口の減少、②子育てと仕事の両立困難、③介護と仕事の両立困難、④従来の日本型雇用の課題/働き方改革の必要性、⑤次世代型教育の必要性、といった社会課題に対する新しい価値創造に貢献する投資活動を推進する。

 

(2)本ファンドのセオリーオブチェンジ(ToC)

上述のように、世界に先駆けて日本が直面する①高齢化とそれに伴う労働人口の減少問題を受けて、本ファンドが長期的に創出を目指す社会的な変化(インパクト)を「多様な働き方・生き方の創造」と定めた。更に、その実現に向け、投資先を通じ、②③子育てや介護等のケアの領域と④働き方や⑤次世代人材育成等のワークの領域において、個人の負担軽減や多様性促進だけでなく、社会における仕組みの充実化を目指す。下図は、本ファンドが目指す長期的なインパクトの実現に向けて必要なアウトカムを、ケアとワーク、個人と社会の2つの軸で整理し、示したものである。これらのアウトカムをできるだけバランスよく創出するように投資ポートフォリオを構築している。

(3)本ファンドのロジックモデル

先述の2つの目的に照らし、本ファンドのスーパーゴールを「多様な働き方・生き方の創造」および「日本におけるインパクト投資のエコシステム構築」と設定し、ロジックモデルを作成した。日本が直面する社会課題や金融システムの課題に対し、財務資本のみならず、人材や情報といった非財務資本のインプットから、活動、アウトプット、アウトカムの創出までを一連の流れと捉え、本ファンドの活動がいかに目指すスーパーゴールにつながるかにつき仮説を表現している。

(4)本ファンドによるSDGsへの貢献
本ファンドは、ファンドの活動(インプット)を通じ、直接的な結果(アウトプット)、中期的に受益者や関係者にもたらす効果(アウトカム)、長期的に社会に与える影響(インパクト)を実現することで、主に「SDGs3 健康と福祉」、「SDGs4 教育」、「SDGs5 ジェンダー」、「SDGs8 働きがい」の達成に貢献し得る。 
 
各投資先についても、各社のロジックモデル作成を通じて、各社が創出を目指すアウトカムやインパクトを設定し、それらが貢献し得るSDGsのターゲットを特定する。本年度の進捗は以下の通り。
 


5.本ファンドにおけるインパクト測定・マネジメント(IMM)

(1) インパクト測定・マネジメント(IMM)とは
The Global Impact Investing Network(GIIN)は、2019年に、インパクト投資が信頼に足る市場として育っていくことを目指し、新たに参入しようとする投資家への期待または参加要件として、インパクト投資の「4つの中核的特徴」を以下の通り提示した³。
 
① ポジティブな社会的・環境的インパクトに意図をもって貢献する
② 投資設計において、エビデンスとインパクトデータを活用する
③ インパクトの創出状況(インパクト・パフォーマンス)を管理する
④ インパクト投資の成長に貢献する
 
インパクト投資を特徴付ける最大の要素は「意図」(①)だが、「意図」を達成するにはマネジメント(③)が必要である。近年、インパクト投資の実践が進むにつれ、事業活動の結果として生じた社会的・環境的インパクトを測定するだけでなく、測定・評価結果を事業の意思決定に活用し、事業活動改善のために継続的なマネジメントを行うことの重要性が認知されてきた。結果として、インパクト測定・マネジメント(IMM)という用語が生まれた。
 
IMMは、「 (事業者)自身の目的との整合性を保った上で、ネガティブな影響を軽減し、ポジティブな影響を最大化する方法を見出すこと」であり、事業上の活動が人や地球に与えるポジティブ・ネガティブな影響を特定・検討することを含む。基本ステップとしては、①インパクト・ゴールと期待値の設定、②戦略策定、③測定指標の決定、目標値の設定、④インパクト・パフォーマンスの管理の4つがある⁴。IMMは各ステップを一巡した後、得られた学びを次のサイクルに反映させる反復的、循環的なプロセスである⁵。
 
(2) 本ファンドにおけるIMMの目的
 
本ファンドは、インパクトスタートアップへの投資活動、投資先企業の事業活動を通じた社会課題解決、及びインパクト投資エコシステム構築への貢献を主たる目的として、IMMを実施している。
 
①本ファンドの投資活動を通じた社会課題の解決
本ファンドの投資活動を通じ、投資先候補となるインパクトスタートアップの発掘、投資、IPO支援等を実行し、社会課題解決に貢献し、本ファンドのToCである「多様な働き方・生き方の創造」を実現する。
 
②投資先企業の事業活動を通じた社会課題の解決
投資先企業の事業を通じて創出されるインパクトを可視化し、事業成長及びインパクト創出の支援・モニタリングを実行し、社会課題解決に貢献する。
 
③インパクト投資エコシステムの構築
新生インパクト投資、SIIF及びみずほ銀行の連携によりインパクト投資活動を推進し、当該活動から得られる情報・経験・知識を、新たなインパクトの実証モデルとして、LP投資家及び投資先企業に還元する。そして、日本においてインパクト投資を普及・促進し、エコシステムを構築する。

(3) 本ファンドのToC実現のためのIMMプロセス

本ファンドは、投資活動を通じた社会課題解決への貢献を目的として、以下のステップによりファンドレベルでのIMMを実施する。
 
l  ToC/ロジックモデルの策定:本ファンドのToCの定期的な更新を図る
l  社会課題の構造分析:本ファンドが取り組む社会課題の構造を分析し、取り組むべき領域を抽出する
l  投資実行・バリューアップ:本ファンドとして策定した「インパクト投資方針」を基準に、社会課題の本質的解決に資するインパクトスタートアップを選定・投資実行の上、経営支援とモニタリングを実行する
 
(4) 本ファンドのインパクト投資方針
本ファンドでは、「インパクト投資方針」を以下7つに言語化・整理し、本ファンドが活用しているIMMツール・手法の1つである「インパクトの5ディメンション」フレームワークとの整合を図っている。ソーシング(案件発掘)からデューデリジェンス(案件精査)、投資実行、投資先の支援に至るまでインパクト面において一貫した基準を持つことで、インパクト面での判断軸を明確化している。

(5) 投資先に対するIMMプロセス
 
上述(2)の通り、本ファンドは、インパクトスタートアップへの投資活動、投資先企業の事業活動を通じた社会課題解決を目指し、投資先候補のソーシング、デューデリジェンスから投資期間及びエグジットまでの全投資プロセスを通じてIMMを実行する。グローバル及び国内で開発が進んでいる評価ツールや手法を活用し、インパクトの仮説構築と可視化、インパクト視点での事業検証を実施し、投資先企業の経営をサポートしていく。

(6) 投資先に対するIMMプロセスの開発・改定に関する進捗
 
本ファンドは継続的にIMMプロセスの開発・改定を行っている。その目的は以下の通りである。
 
1. 投資先企業に対するインパクト投資家としての提供価値を高め、平準化することにより、投資先企業が創出するインパクトの可視化と増大に貢献し、本ファンドの投資活動によるインパクト創出に対する貢献を最大化すること
2. 日本におけるVC型インパクト投資ファンドのベンチマークとなることにより、インパクト投資のエコシステム構築に貢献すること。
 
これらを、ファンドレベル及び個別投資先レベルの2つのレイヤーで行っている。
本年度の進捗として、本ファンドでは「インパクト投資マニュアル」を作成した。

(6) 投資先に対するIMMプロセスの開発・改定に関する進捗

本ファンドは継続的にIMMプロセスの開発・改定を行っている。その目的は以下の通りである。

1. 投資先企業に対するインパクト投資家としての提供価値を高め、平準化することにより、投資先企業が創出するインパクトの可視化と増大に貢献し、本ファンドの投資活動によるインパクト創出に対する貢献を最大化すること

2. 日本におけるVC型インパクト投資ファンドのベンチマークとなることにより、インパクト投資のエコシステム構築に貢献すること。

これらを、ファンドレベル及び個別投資先レベルの2つのレイヤーで行っている。
本年度の進捗として、本ファンドでは「インパクト投資マニュアル」を作成した。

 ①ファンドレベルでの進捗

 本ファンドのロジックモデルの更新
第4章に言及の通り、本ファンドでは改めて本ファンドとしてのロジックモデルの再整理を行い、これを更新した。更新にあたっては、主に以下の点に留意した。

o   ToCにて本ファンドがスコープに入れる社会課題解決に関するマッピングを表現しているのに対し、ロジックモデルでは、本ファンドの目的2つを並列し、「日本におけるインパクト投資のエコシステム構築への貢献」もスーパーゴールとして加え表現した。
o   インプットとして、本ファンドがスーパーゴールの実現に向けて活動をする上での重要かつ強みとなる財務・非財務資本を分析し、「人材」「情報」「資金」として整理した。
o   インプットから始まり、活動、アウトプット、アウトカム、スーパーゴール実現への貢献の過程に関す仮説をより詳細にした。
o   IMMの実務形成およびインパクトの成果の表し方に関する議論は、一般的に見てもまだその途上にあり、スーパーゴールに向けたパスの途中であるアウトプットや初期アウトカムからのフィードバックによりさらに実務が改善されていくことも意識し表現に落とした。

 投資先企業への伴走支援やエグジット、エコシステム構築に関する活動、そして非財務資本の強化などにおける意思決定におけるファンドメンバーの指針として、本ロジックモデルを活用していく。

インパクト・マネジメント運用原則(Impact Principles)の開示報告書公表と第三者機関による独立検証 

2022年12月、本ファンドの共同GPを務める新生インパクト投資およびSIIFは、インパクト投資における国際的な基準であるインパクト・マネジメント運用原則 (Impact Principles: Operating Principles for Impact Management)に署名し、未上場企業を対象とするインパクト投資ファンドの運営者としては国内初の署名機関となった⁶。

Impact Principlesは、世界銀行グループの一機関として、発展途上国の民間セクター開発を目的に設立された国際金融公社(IFC: International Finance Corporation)が主導し、投資ライフサイクルにおいて創出したインパクトの測定・マネジメント(IMM)のために2019年に設計された国際的な運用原則である。2022年秋には、事務局がIFCからGIINへ移管された⁷。Impact Principlesの構成として、「戦略上の意図」、「組成とストラクチャリング」、「ポートフォリオマネジメント」、「エグジット時のインパクト」、「独立した検証」の5つの分類内に計9つの原則がある。ESG投資を含むサステナブルファイナンスの国際的基準が複数ある一方、Impact Principlesはインパクト投資家のみを対象としており、正当性と利用性を兼ね備えたものといえる。

署名後、2023年8月に、GP両社はImpact Principlesに準拠した年次開示報告書(https://www.shinsei-ci.com/file/230831_jp.pdf)、及び、第三者評価機関による独立検証報告書(https://www.shinsei-ci.com/file/verifier-statement.pdf)を公開した。

今回の報告書の作成ならびに独立機関 BlueMark による検証を通じ、世界基準のインパクト投資ファンドの実態と先進事例に照らし、本ファンドの運営の強みと改善点が明確になった。具体的には、ファンドの設計・案件検討プロセス・投資家貢献の観点において一定の評価を得ることができた一方で、プロセスのドキュメント化等の形式面での整備には課題が残った。検証結果を踏まえ、本ファンドでは既に改善に向けた取り組みを開始しており、さらなる日本のIMM実務の底上げを図っていく。

インパクト・マネジメント運用原則(概要)⁸

インパクト投資マニュアルの整備

Impact Principlesへの署名およびその後の第三者評価機関による独立検証を受け、本ファンドで実施しているIMMに関するマニュアルが不足しているとの認識に至ったことから、2023年にはこれに着手した。

マニュアル作成の目的を以下の通り定めた。

o   ファンドメンバーに向け、時系列に沿った手順の例を示すことで、本ファンドとしてのIMMの再現性を高め、自律的な業務遂行、IMMの質の安定および工数削減・手戻りの防止を目指すこと
o   その結果として、運用原則の平準化・高度化を図ること

このため、本ファンドにおけるマニュアルは今後もIMMの進化・深化と共に更新されていくべきものであり、IMMの正解や確定版を示すものではない点をメンバー間で理解し活用することが重要である。

具体的には、マニュアル構成を以下とし整備を開始している。
ファンドレベル:
o   組織設計
o   ファンド概要とインパクト戦略
o   インパクトの前提条件

案件レベル:
o   ソーシングマニュアル
o   DDマニュアル
o   支援・モニタリングマニュアル
o   ESG対応マニュアル
o   エグジット方針

マニュアル策定のプロセスにより 、手順が言語化されたのみならず 、本ファンドとしてのロジックモデルの更新等、フローの前提となるべき資料の恒常的な見直しへの理解が深まるなど 、ファンドのIMM体制のさらなる改善につながった。

 

投資先向けコンプライアンス研修の実施

2023年3月、本ファンドとして、西村あさひ法律事務所の渡邉純子弁護士を迎え、投資先経営層に向け「インパクトスタートアップのためのコンプライアンスセミナー ~Beyond Complianceのための第一歩~」を実施した。投資先のミッションに共感するステークホルダーも増え、会社としての高い規範意識が求められる中、投資先によるハラスメントや差別などの人権対応、情報漏洩や不祥事などのリスク管理についても、経営における重要事項であると捉え、体制構築をサポートしたいとの趣旨であった。 

本ファンドでは、今後も、インパクトに限らず、投資先のサステナブルな体制構築のためのサポートを行っていく方針である。

 

②個別投資レベルでの進捗

ミドル・レイターステージ企業に対する投資後支援プログラム・運用の深化

本ファンドでは、投資先に対し、インパクトそのものの創出追求に加え、

o   パーパス/ビジョン/ミッションと事業の整合性
o   パーパス等を設けた背後に認識されている社会課題の特定
o   ESGマテリアリティのマネジメント
o   SDGs等のグローバル目標との接続
o   それらを支える組織体制の構築 

を含む「サステナビリティ経営」を統合的・包括的に捉えた支援を行っている。

これら支援は、投資先企業によるIPO及びその後の持続的な事業成長とインパクト創出の実現に向け、本ファンドが投資先に残せる付加価値との位置付けである。いわゆるInvestor Contributionの一貫でもあり、また、Responsible Exitへの布石とも認識し、本ファンドの本分として取り組むものである。

投資先の、インパクトを軸とした社内外ステークホルダーとの継続的な対話において、その再現性を高めるべく、IMMを中核とした支援内容のプログラム化に引き続き取り組んだ。

また、こうしたストーリーの根拠や文言の整理に加え、KPIの特定と測定のプロセスの平準化にも取り組んでいる。特に、今年度の新規投資先となったAntwayおよびBPOテクノロジーに対しては、投資直後のモメンタムを逃さぬ形で、投資後6か月を目途にIMMに関し以下に着手している。

o   DDを通じて本ファンドが得たインパクト関連分析結果の共有(投資メモにある、社会性分析結果内容をベースに、社会課題/ロジックモデル/5 Dimensions分析/ESGリスク項目の共有)
o   投資先毎の、今後のインパクト可視化の目的の再整理と短期・中期・長期の成果物のイメージすり合わせ
o   パーパス/ミッション等の言語・フレーズの改めての整理
o   社会課題の改めての特定と、ミッションとの整合性の整理(マテリアリティ)
o   ロジックモデルの詰め(必要に応じ、社内共有版・公表版などの考え方)
o   投資先におけるKPIに関する現状の整理(KPI取得状況、顧客アンケート取得状況など)
o   インパクトに関するKPIの特定および計測方法
o   (あれば)重要なESGリスクの指摘と対応
o   投資先の、初期的なESGマテリアリティ特定の取組みへのご案内

【本ファンドが提案する「サステナビリティ経営」の全体像】

「インパクトIPO」に関する情報提供
投資先に対し、上場後もインパクトの拡大と持続的な事業成長を遂げることを目指し、上記サステナブル経営の導入支援を上場時までに投資家への開示や建設的な対話ができるよう、支援をしている。例えば、上場時までのロードマップの作製、サステナビリティウェブページなどの情報発信の支援、国内外の上場株式へのインパクト投資家の紹介など。なお、2024年は、GSG国内諮問委員会「インパクトIPOワーキング・グループ」が「インパクト企業の資本市場における情報開示及び対話のためのガイダンス」を発行した際には、各投資先における活用を検討する。
 
 
インパクトレーティングの運用の改善
2022年度に、「Impact Frontiers」(Bridges FoundationsがIMPと連携して主催する財務リターン及び社会的リターンの統合評価手法の開発プロジェクト)で議論された手法を活用し、2023年度より、新規投資検討時に「5ディメンションズ」に沿ったインパクトのレーティングを開始した。本年度は、引き続き運用においてレーティングをフローに織り込み実施し、投資先が創出するインパクトの比較可能化を目指した。2024年度より、投資後のモニタリングにおけるレーティングの年次更新を予定している。
 
なお、本ファンドが活用している主要なIMMツール・手法としては、以下3点があげられる。

1     ロジックモデル:
 
社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(Social Impact Management Initiative。以下、「SIMI」⁹)によると、ロジックモデルとは「(プログラムのための)利用可能な資源、計画している活動、達成したいと期待する変化や成果の関わりについての考えを体系的に図式化するもの」とされている。本ファンドでは、投資先が目指すインパクトと投資先の事業活動の因果関係を体系的に把握し、インパクトの観点から意思決定とモニタリングおよび経営支援を行うため、ロジックモデルを活用している。

2     「インパクトの5ディメンション」フレームワーク:
 
事業のインパクトを多面的に把握するため、IMPが策定した事業評価の枠組み。具体的には、インパクトの「5つの次元」として、投資先の事業が①どのようなインパクトを(What)、②どの受益者に対して(Who)、③どの程度の深さ・広さ・時間的長さ(How Much)でもたらすか、④投資先はそのインパクトにどの程度貢献するか(Contribution)、⑤想定するインパクトからどう乖離するリスクがあるか(Risk)を定量的・定性的に把握する。
本ファンドでは、投資先事業のインパクトを仮説検証するため、投資先候補の絞り込みからエグジットにいたるまでの全投資プロセスで利用している。
 
3     インパクト・ESGリスク管理:
 
本ファンドでは、投資検討時、投資実行後にインパクト/ESGリスク管理を実施している。投資検討時においては、上述「インパクトの5ディメンション」フレームワーク⑤の通り、投資候補先企業の事業が想定するインパクトから乖離するリスクがあるか、定量・定性的に分析している。同様に、ESGリスクについてもポジティブ・ネガティブ両面で洗い出している。投資実行後は、抽出したインパクト・リスクのモニタリングを行い、リスク顕在化の兆候が見られた場合には、投資先企業と協議の上、迅速に対応策を検討・実施している。また、一部の投資先については、SBI新生銀行との連携により、ESGマテリアリティの特定支援を行っている。

(7) インパクト投資エコシステムの構築
 
本ファンドは、投資先企業の事業成長・IMM支援を含む投資活動を推進する中で、共同GPである新生インパクト投資、SIIF、及びGPアドバイザーであるみずほ銀行が密に連携し、投資先企業の従業員、顧客・取引先、外部専門家、社会起業家、行政機関、アカデミア等、多様なステークホルダーに積極的に働きかけ、情報提供・対話を行うことで、日本におけるインパクト投資の普及・促進、並びにエコシステム構築を目指す。


[3] The Global Impact Investing Network(GIIN), “Core Characteristics of Impact Investing,” https://thegiin.org/characteristics/ (2023年3月閲覧)
[4] The Global Impact Investing Network(GIIN), “Getting Started with Impact Measurement and Management(IMM),” https://thegiin.org/imm/#what-is-imm (2023年3月閲覧)
[5] GSG国内諮問委員会「インパクト投資におけるインパクト測定・マネジメント実践ガイドブック」(2021年5月): p.4-5, https://impactinvestment.jp/user/media/resources-pdf/Guidebook_for_Impact_Measurement_and_Management.pdf.
[6] Operating Principles for Impact Management(OPIM), “Signatories and Reporting,” https://www.impactprinciples.org/signatories-reporting (2023年3月閲覧)
[7] Operating Principles for Impact Management(OPIM), “The GIIN to Become the New Host of the Impact Principles Secretariat,” (October 7, 2022), https://www.impactprinciples.org/announcement/giin-become-new-host-impact-principles-secretariat (2023年3月閲覧)
[8] International Finance Corporation(IFC), 「インパクトを追求する投資:インパクト投資の運用原則 参考和訳」(2019), https://www.ifc.org/wps/wcm/connect/fe499630-792d-434f-8dd2-f5d06da4c1ed/Impact+Investing+Principles_+FINAL.pdf?MOD=AJPERES&CVID=mSUxyEd.
[9] SIMIは、日本国内における社会的インパクト・マネジメントの普及・啓発を目指す取組み。ロジックモデル作成に関しても具体的なノウハウを集約し一般公開している。

はたらくFUND 2023 Impact Report (3) はこちら

https://note.com/preview/n120d4178c8c7?prev_access_key=7b7114f8fa991c9d8c43f36052cc3d45


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