見出し画像

「宮城野部屋が春場所後にも閉鎖へ」の報道を受けて思うこと

 昨夜から混乱しているので何から書けばいいだろうか。

相撲部屋の暴力事件の過去例

 事の発端は力士による暴力事件からだ。大相撲の暴力事件は後を絶たず、これまで何回も繰り返されている。2007年には時津風部屋で親方まで関与した序ノ口力士・時太山の死亡事件もある。暴行に直接関与したとされる兄弟子3人と親方にはそれぞれ裁判で有罪判決が出て、全員が解雇されているが、部屋は幕内力士だった時津海(当時)が継承した。閉鎖はされていない。

 その後も暴力事件は後を絶たず、2022年~23年には伊勢ケ浜部屋や陸奥部屋でも暴力事件は起こっていて、そのたびに伊勢ケ浜親方や陸奥親方が減給や降格などになり、暴力をふるった側は引退、ふるわれた側のその後はあまり分からないまま。部屋は閉鎖されていない。

 逆に部屋が一時閉鎖になった例としては、人気力士だった輪島の例が有名だろう。1985年12月に、いわゆる「年寄株」を担保にして多額の借金をしていたことが発覚し、廃業に追い込まれ、部屋は閉鎖した。また2010年には、木瀬親方本人と部屋関係者らと暴力団関係者との交際が発覚して、部屋ごと北の湖部屋に吸収されたが、2年後に誓約書を提出して再興されている。

 相撲部屋は10代~40代の男性ばかりが「十両/幕内の関取になるまで」は個室も与えられず、全員が雑魚寝で、寝食を共にして暮らし、本場所や巡業や様々なイベントなどに出場する。コロナ禍にあっては、感染拡大を防ぐためにと長く「外出禁止(買い物や病院以外)」が出され、それを破ってキャバクラ通いを重ねていたとし、幕内人気力士の朝乃山が1年もの長期の出場禁止になった。朝乃山はスポーツ紙記者と口裏をあわせて虚偽の報告をしていたという。しかし現在は復帰している。

 そもそも「大部屋に雑魚寝というプライバシーのない状態」で関取以下の「幕下・三段目・序二段・序ノ口」の若者たちを「力士養成員」という肩書で、「給与という名目での金銭支給は無く、褒賞金」も与えないのはどうだろう。親方や行司等も含め、関取になれば日本相撲協会から給与を与えられているが、関取以下は「養成員」というあやふやな立ち位置で、その待遇は改善されていない。しかし厚生年金や健康保険の資格は得られているので、力士は「労働者」として見ていいはずだろう。いくつかの裁判では力士(関取以下も含め)の労働者性は認められている。

 と、ここまで書いて、ああ、私は何を言いたいのだ?と分からなくなる。混乱している。ああ、そうだ、「入日本化」のことを書かなければ。

入日本化という同化政策

 「入日本化」という、何やら気持ち悪いことばについては、発表された当時、「ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実」の著書もある望月優大さんが記事化している。

 あまりに異様で、私と、作家の星野智幸さんで、雑誌「世界」(岩波書店)2021年7月号で、「国粋主義に沈む大相撲」と題した対談も行っている。

 そもそも「入日本化」というのは、八角理事長の諮問機関として設置され
た「大相撲の継承発展を考える有識者会議」が、2021年4月に発表した提言書「大相撲の伝統と未来のために」に書かれた言葉だ。それがどういうものかというと、その提言書から抜粋する。 

「大相撲の伝統と未来のために」より

 これら内容を受けて私との対談で、星野智幸さんは「背筋が凍ります。植民地に対する同化政策の歴史について学べば、それが権力のある側に従属させる制度だったことがわかります。自分たちの思い描くように相手を変えようという奴隷化というか、人間の人格のコントロールと呼ぶべきものですよね。「入日本化」はそれを思わせる言葉です」と話していた。

 提言書では、こう指摘されることを予め予想して、入日本化なる「植民地に対する同化政策」的な言葉を、序段で言い訳してもいる。

「大相撲の伝統と未来のために」より

 前出の望月さんの記事でも、「正直なところ、それが「同化」でないというのは質(たち)の悪い言葉遊びにしか思えなかった。しかも、肝心の「日本文化」とは一体何かと言えば、その内実に関する分かりやすい説明はない」と指摘していた。

 日本相撲協会は外国人力士への「同化」を提言するものを、堂々と2021年に受け入れ、発表していた。しかもこれは当時の横綱だった白鵬を主に想定して作られたものであったのは、以下のような記述からもよくわかる。

「大相撲の伝統と未来のために」より

 対談で星野さんは「少し踏み込んで言えば、これらが主に横綱白鵬への非難であることは、少しでも相撲を知っている人ならだれでもわかります。つまり、この提言書は、名前をぼかしながらも白鵬を狙い撃ちしているわけです。おそらく、白鵬の求心力を削ごうとしているのでしょう」と言っている。

 そして私自身も「同意見です。つまるところ、ガバナンスを推進するという名目で、一人の、しかも外国出身者を執拗にバッシングしている。ここにも提言書の差別性がはっきりと表れています。このような提言書を受け取るならば、日本相撲協会は差別団体だと自ら認めることになります」と、かなり強く発言した。

白鵬にだけ課せられた誓約書 

 この提言書を受ける形で、2021年7月に白鵬が引退、親方になるときに、他の親方たちにはない「相撲道から逸脱した言動をしない」という「誓約書」を書かされている。そもそも「相撲道」なるものは文書化されてはいない。かつて横綱大鵬が「相撲道とは何か」という本を書いているが、昭和の大横綱とあがめられた人をもってさえ、「何か」と問う本を書くのである。

 この誓約書を白鵬が書かされたときに、相撲を長年取材してきた横野レイコさんは朝日新聞(2021年11月14日付)の取材に、

「横綱として長く相撲協会を支えてきた白鵬に対して異例の誓約書はちょっとやりすぎではないかとの印象も受けました。相撲協会の中にはこれまでの白鵬の言動を快く思っていない人は少なくありません。親方として協会でいずれ上にあがっていく時に、自分たちが大切に守ってきたものを白鵬流に変えられてしまうのではないかという危機感を抱いている親方衆もいるでしょう」と話している。

 また横野さんは、前述の提言書に、「一代年寄(年寄名跡がなくても、本人一代に限って、顕著な成績を残した関取が現役時代のしこ名で親方になれる特権で、過去に大鵬や北の湖、貴乃花が得ている)」という資格が否定されていることにも疑問を呈していた。

「これは、あまりに唐突で強引な印象が否めず、白鵬の引退を視野に入れたものだと感じた人も多かったと思います。提言書には「(一代年寄は)公益財団法人としての制度的な裏付けとは整合しない」とあります。いつも協会が白鵬を怒るときは「伝統」を持ち出すのに、こういう時だけ「公益財団法人だから」と言われても白鵬も混乱しますよ」(同朝日新聞記事より)

 そうなのだ、白鵬は「親方」になる道を、これでもか!と閉ざされていたのだ。

 そもそも大相撲の親方になるには、「日本国籍を有する者に限る」という資格条件があるのはよく知られていることだが、これがどういう根拠から作られた規則だったかはあまり知られていない。これは過去に私自身記事にしたこともあるのだが、1975年9月4日の朝日新聞には、

「この新規則は、いわば国技相撲の”乗っ取られ防止策”。最近の大相撲は国際化の一途をたどり、トンガ、ハワイ、韓国などからの力士志願者が目立ってふえ出した。モンゴルから来日といったニュースも出始めている」

「国技の体質を守るために『日本人』の資格を定め、その歯止めとした」

とある。それでいて当時の協会理事は「(とはいえ)外国人の力士志願者については、相撲普及のためにもなるので、これまで通りおおいに歓迎の方針に変わりない」としていた。

 また、横野さんも触れていたが、白鵬が「横綱」だった14年間は、相撲界そのものが大変な時期だった。白鵬が「ひとり横綱」として相撲界を代表して、それを支えていたのは相撲ファンはよく知っている。八百長相撲での本場所中止、東日本大震災、野球賭博事件など、私自身は2003年ぐらいから大相撲を見ていたので、よく覚えている。そのたびに白鵬は頭を下げていた。自分はやっていなくても、横綱という責任のもとに。

 さて、2021年7月(名古屋場所)後に引退し、間垣親方になった白鵬は、1年後の2022年7月に宮城野親方となり、部屋を開設して、現在に至る。白鵬は宮城野親方として部屋を開設して1年8か月足らずであり、まだまだ新米親方である。

 たびたび引用する横野さんの発言だが、「我々報道陣も同じです。「流暢(りゅうちょう)に日本語を話す横綱だから知っているだろう」という前提で、日本語で質問を続けます。頭の良い白鵬は、知らない単語があっても、前後の脈絡からある程度の内容を理解して答えていた。本当は、わからないことがたくさんあったのではないでしょうか。ある振る舞いが世間で問題視された後、白鵬が私に「それは知らなかった。そんなこと、誰も教えてくれなかった」と言ったことがありました」というのがある。

 きっと、今だって白鵬には、知らない日本語や習慣、日本に生まれたときから住む人が常識だと考えることなど、理解できないことが多々あるだろう。「いや、だから、それを入日本化しろって言ってんだよ!」と提言書を持ち出すとしたら「それは植民地に対する同化政策ですよね?」と問い返したい。

 さて。そうしたことを頭に入れてほしい。

処分はただしいのか?

 そして今回の北青鵬による暴力事件が表ざたになった。「協会関係者によると、北青鵬は他の力士たちの稽古中に財布から金銭を盗んだり、若い衆に暴行行為に及んでいたことが発覚。盗癖は学生時代からあったとの指摘もある」(日刊スポーツ)を読んで、私はすぐにクレプトマニアなのではないか?と思った。万引きなどを繰り返してしまう依存症だ。依存症は罰するより治療をすべきであるという考え方が、ようやく最近、知られるようになってきてはいる。

https://addiction.report/

 その後、相撲協会のコンプライアンス委員会による報告書が「記事としてアップ」されて(注:これまで過去の暴力事件でこうした報告書がそのまま記事として開示されたことは見たことがないのだが)、そこにあった暴力は、

 ア 令和4年7月の名古屋場所中、愛知県豊田市内の宮城野部屋宿舎において、Bに対し、顔面への平手打ち、突き飛ばし等の複数回にわたる暴行を加え、肘に怪我を負わせたほか、ほうきの柄で臀部を1回打つ暴行を加えたこと
イ 同年7月の名古屋場所中、前記宿舎において、Aに対し、ほうきの柄で臀部を1回打ったほか、同年10月21日、東京都墨田区内の宮城野部屋個室において、まわしで作った丸太様の棒で臀部を1回打つ暴行を加えたこと
ウ 令和5年11月の九州場所中、福岡県糟屋郡篠栗町内の宮城野部屋宿舎において、A所有の財布に瞬間接着剤を塗布し、損壊したほか、Bに対し、右手手指に瞬間接着剤を塗布する暴行を加えたこと、
エ 令和4年8月頃以降、宮城野部屋又は地方場所中の宿舎等において、A及びBに対し、次の1及び2のいずれかの態様により、週に2~3回程度の頻度で繰り返し暴行を加えたこと 1 顔面、背中及び睾丸への平手打ち等の暴行 2 ほうきの柄又はまわしで作った丸太様の棒で臀部を打つ暴行、殺虫剤スプレーに点火してバーナー状にした炎をAやBの体へ近付ける暴行

 とある。今、SNSを見ていると「炎をAやBの体へ近付ける暴行」というのが、「炎で焼いた暴行」になっていたり、「睾丸への平手打ち」が「レイプした」ということになっていたりする。それは誤りである。しかし、1年にわたってこのように執拗に暴力行為をしていたことは事実で、これは決して許されるものではなく、北青鵬は何度でも謝罪を重ね、深い反省をし、責任を取るべきである。

 ただ、私は以前から言っているのだが、相撲部屋というプライバシーがない閉鎖的な空間に、血気盛んな男子が雑魚寝しているというストレスフルな状況で暴力行為が行われてしまうのはある程度避けられない部分もあり、そのためにはそのストレスフルな状況を改善して、大学の寮のように、たとえば未成年は2人で1室、18歳以上は1人1室の個室で暮らせるよう、改善すべきであると思う。その根本的なことを改善しないまま、日本相撲協会は一切の記者会見など開いて説明責任を果そうとしていない。また今回のような問題を起こした力士に於いては、一定の治療やカウンセリングを受け、一定期間の出場禁止(朝乃山が受けたような)、その後、別の場所に宿泊をして復帰、その後に話し合いをするなど、暴力事件=引退という即決をなるべく避けていってはどうだろうか?とも思う。今、大相撲にいる多くの力士は、北青鵬もそうだが、子供のころから相撲をやり、中学、高校、さらに大学と、相撲漬けの生活をしてきた人が多い。そしてプロになったらキャリア前半でいきなり引退となると、その後の人生がまったく絶たれてしまう。日本はなかなかやり直しが難しい国なのは言うまでもない。もちろん被害を受けた力士からしたら「あたりまえだ」と思うだろうから、そこには丁寧な話し合いが必要となる。そして被害を受けた力士側へのメンタルケアももちろん必要であり、今回のように被害者力士も含めて「宮城野部屋全員、外出禁止」というのは、ありえない対応だと考えてる。

 また宮城野親方の懲罰の理由は以下のとおりだ。

ア 北青鵬に対する監督が不十分であったことにより、同人のA及びBに対する暴行及び器物損壊行為を防止できなかったこと(監督義務違反)
イ 令和4年7月の名古屋場所中、北青鵬のBに対する暴行の事実を知ったにもかかわらず、先代親方に相談の上、すみやかにコンプライアンス担当理事に報告しなかったこと(報告義務違反1)
ウ 遅くとも令和5年12月23日までに、北青鵬のAに対する暴行及び器物損壊行為を知ったにもかかわらず、すみやかにコンプライアンス担当理事に報告しなかったこと(報告義務違反2)
エ 北青鵬のA及びBに対する暴行につき、花籠コンプライアンス担当理事が、令和6年1月22日から同月25日までの間、所属力士らに対する調査を実施するに先立ち、部屋内で内部ヒアリングを行うに際し、部外者の番組制作会社社員を関与させたことで、同人による所属力士らへの口止め工作等につながり、事実認定をゆがめる危険を生じさせて、相撲協会による調査を妨害したこと(調査協力義務違反)

アイウに関しては事実なのだろうが、エは本当に危険を生じさせたのか?という点が気になる。とはいえ、監督、報告義務違反があり、北青鵬への指導や、被害を受けた力士へのケアに欠けるのは事実であり、宮城野親方への、これまでの暴力事件同様に、減給や降格といったことが課されるのも当然であると思う。暴力をふるう子がいることに、もっと敏感に、慎重にならなければいけないのは当然である。

 と、ここまで4時間もかけて書いてみた。

 頭の中はまだまだ混乱している。

 しかし、どうであろう? 私の言いたいことを少し理解してもらえたろうか?(さらに追記していく可能性もあるが)

 今回の1件の暴力事件によって、宮城野部屋が春場所後に、いきなり「閉鎖」されてしまうことになってしまったら、理解が難しい。そこには多分に恣意的なものを感じずにはおられない。これまでずっと続いてきた、白鵬へのバッシング、「相撲協会の中にはこれまでの白鵬の言動を快く思っていない人は少なくありません」という横野さんの取材経験から得た実感の、延長にしか思えない。相撲協会はどうするつもりなんだろう? そもそも、一度も記者会見を開かないことはどうしたことだろう? 執行部の説明責任はないのだろうか? 

外国人力士への差別

 さて、ロバート・ホワイティングが記した「ジェシーとサリー~ガイジン力士物語」(筑摩書房・1986年)という本に、とある相撲評論家の言葉が引用されている。高見山さん(ハワイ出身の元人気力士)のことを指しての発言(当時)だ。

「申し分ないガイジンなんです。よく負けるし、しかも負けっぷりがいい。便利な存在でした。いつも脇役に徹していた。優勝は一回しただけで、横綱を狙うほどの力もない。性格はあの通りのんきでしょう。腹を突き出して横柄に歩き回る小錦とは大違いだ」

 外国人力士に求めるものは「便利な存在」であることで、「脇役に徹する」ことである。そこそこ、でいて、ニコニコしていろ、と。そこからはみ出たら許されない。ましてや小錦さんのように「横綱になれないのは人種差別があるからだ、もし自分が日本人だったら、とっくに推挙されている」(1992年/ニューヨークタイムズ)と発言したり、白鵬のように「肌の色は関係ないんだよね、土俵に上がって、髷を結ってることになれば日本の魂なんですよ。みんな同じ人間」(2015年の優勝後の記者会見にて)と、相撲界の差別を言おうものなら徹底的にバッシングされる。ちなみに、白鵬への差別を発言するたび、私自身もバッシングの嵐にさらされてきた。私の発言や記事を載せてくれたのは、「週刊女性prime」と毎日新聞。そこで私は白鵬を応援する記事を書いたり、発言をせっせと続けた。

 そして、ついに2021年1月の朝日新聞の「耕論」で私が発言した「差別」という言葉は記事化された。聞き手は松本龍三郎記者だった。

「昨年の11月場所後、3場所続けて休場となった白鵬と鶴竜は、そろって横審から「注意」の決議を受けました。ところが、その2年前、2人よりも長く8場所連続休場した稀勢の里に対する決議は、それより軽い「激励」でした。二つの決議の根拠は、今でも判然としません。 日本出身の稀勢の里には「しっかりけがを治してほしい」と言っておきながら、モンゴル出身の2人には早々に進退をかけるよう迫ったのではないか。私にはどうしても、横審の人種差別的な考えが透けて見えます」

 ありがとうございます

 ああ、コロナ後遺症で他の仕事なにもできてないのに、こんなに書いてしまった。でも、これを書かないとどうにもできないので、書きました。読んでくださり、ありがとうございます。それにしても横野さんが言っていた、親方たちがずっと守ってきた大切なものって何だろう? たぶん、それはいわゆる「既得権益」ではないか?と思うのは、まったく自然なことではないだろうか。


 


 

 
 

 

いいなと思ったら応援しよう!

サボタイ/和田靜香
読者のみなさまからの温かいサポートを随時お待ちしております。よろしくお願いいたします。ぺこり。