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自然な表情を撮りたいってよくいうけどさ


近畿大学医学部の皮ふ科のウェブサイトを毎年撮影している。ついこないだは皮ふ外科の撮影をした。

コルクボードに鶏の皮をはりつけて、皮膚がんを想定した部分をメスで切除して綺麗に縫い合わせる皮弁(ひべん)という縫合の技法なのだけど、これがすごい!

切除してぽっかりとあいた穴を塞ぐために、穴からさらにひと回りぐるっと大きく切ってから縫い合わせる。

ズブの素人には関係ないところを切っているように見えるけど、こうすることで綺麗にくっつくそうだ。最初に考えついた人すごい。

豚の皮で練習することもあるけど、豚の皮はなかなか入手できないそうだ。

豚皮も鶏皮も当然ながら人間の皮ふと感覚は違う。若い人と高齢者の皮ふも感覚が違うそうだ。それはズブの素人でもなんとなくわかる。

海外の分厚い皮弁の医学書には白人患者さんばかりが症例として載っていたので、アジア人と白人で感覚が違うのか本気と書いてズブと読む素人質問をすると、これがまったくもって違うそうだ。

白人は傷跡が綺麗に消えやすいそうだ。医学書の症例写真はbeforeとafterが逆なんじゃないか?って驚くぐらい綺麗に傷跡が消えている。

しかしアジア人は白人と比べると傷跡が目立ちやすいそうだ。黒人はアジア人よりもさらに目立つそうだ。人種によってコラーゲン量の差があることが理由にあるらしい。(うろおぼえ)

だから黒人の高齢者患者さんと白人の若い患者さんでは、たぶん縫合するをときの感覚が違うのだろう。



ここらでそろそろ写真の話に切り替えるけど、撮影も被写体によってコミュニケーションの感覚が変わる。

撮影に慣れたタレントさんと、お医者さんとでは撮影時のコミュニケーションがまったく違う。

タレントさんとモデルさんでもまたちょっと違う。モデルと一言でいっても、バイトでモデルをやっているぐらいの人ではまた違う。

理由は緊張の量(度合い)がそれぞれ違うからだ。

近畿大学医学部皮ふ科の撮影は自然な表情を撮ることを、いくつかある撮影のゴールのひとつにしている。

ウェブサイトの目的が製薬会社や学会など同業他社を意識したBtoBでも、患者さんを意識したBtoCでもない(もちろんまったく無視するわけじゃないけど)

後期研修医の先生方を意識したリクルートが目的になっている。

だからこの目的では腕を組んでカメラを睨みつけるような写真も、医師と看護師をひまわりの種のようにたくさん並べた写真もこの場合はNGとなる。

前者はインタビュー記事ではいいのかもしれない。後者は患者さんの新規獲得にはいいのかもしれない。

実際にインタビュー記事に腕組みはよくあるし、開業してるクリニックには医師と看護師が並んだ写真がよくある。なぜかとくに歯科クリニック。

モデルさんやタレントさんでない限り、だいたいは人はカメラを向けられたら緊張をするものだ。緊張量がとても多い。

じゃあどうやってお医者さんの緊張をといて、自然な表情のコミュニケーションをとるかといえば……皮ふのことを質問すればいいだけだ。

白人とアジア人と黒人で皮ふに違いがあるか質問をすればいいのだ。若い人と高齢者の皮ふの違いを質問すればいいのだ。皮弁の質問をすればいいのだ。

だって皮ふ科の先生を撮ってるんだもん。相手の土俵に立ってズブの素人質問をアドリブでする。

ズブの素人質問かもしれないけど、その質問に答えてくれる表情と姿勢が後期研修医の先生に指導する表情と姿勢になるし、自分の土俵であることを答えるのだから、緊張は減り自信が増える。

インタビューでしゃべるのはいいけど、写真が苦手というパターンは、インタビューをうけた経験がある人は誰しも感じたことがあるのではないだろうか。

アットホームみたいな空気だって、ゴリゴリマッチョな空気だって写真でつくりあげることはいくらでも可能だ。

だけど後期研修医の先生が入局して「写真と全然雰囲気が違うやんけ、なんやねん」ということは、撮影者としては避けて被写体の自然な良さを引き出したい。

観光地や飲食店やホテルの部屋でもよくあるよね。たぶんマッチングアプリで会った人も。写真をバエバエのバエにすると落差でがっかりした「なんやねん」がまっている。

この逆をやってるのがコメダ珈琲。メニュー写真よりも大きな料理がきてお客さんを「なんやねん」と驚かせる。

それから高級レストラン。高級レストランのメニューは写真がないものが多い。想像と全く違う料理がきてお客さんは「なんやねん」と感動する。

大阪の関西弁って難しいよね。

自然な表情を撮るという目的があるのに、間違ったコミュニケーションをとると大変なことになる。

間違ったコミュニケーションがなにかというと……


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