
ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。
ぼくは作品が有名になってほしいとおもったことはあるけど、自分自身がタレントや文化人のように有名になりたいとおもったことは一度もない。講演会やイベントなど人前は苦手だし、取材などで写真を撮られるのも苦手だ。撮られる側になってみてわかったことだけど、写真を撮られるのというのはストレスだ。
それでも病気になってから“有名にならなければいけない。”とおもうようになった。有名になって女性にモテたいとか、お金を稼ぎたいとか、名声がほしいとか、健康な人が考えつくような欲のために有名になりたいわけではない。
病人になると(ぼくの場合は)男の三大欲みたいなものはどうでもよくなり“知ってもらいたい。”という男の三大欲よりもすこし健全な欲がでてくる。病気になって健全な欲がでてくるというのは皮肉なものだけど、不思議なことにそういうものなのだ。
お金だけを稼ごうとおもったら、八王子の湧き水をペットボトルに詰めて“波治王子天命水”とでも銘打って、病人に売ってりゃいい。不安につけ込んだ商売というのは儲かるのだ。
自分の病気のことを社会に知ってほしいという気持ちはサラッサラない。
どんな病気でどんな治療をしているとか、そんなことは健康な人にとって関係のない、どうでもいい話なのだ。
それよりも、この本に書いたことは社会に知らせるべきことだ。
地震がきたら、机の下に避難するように、海沿いの人は津波に警戒するように、経験していなくても知識があるから助かる命はある。もしかしたらこの本で誰かの命を救えるかもしれない。
病気になってからこの本のために、ずっと頑張っていた。
そもそも頑張り方がよくわからないから、たくさん失敗もしたし、そのたびにいろんな人に助けてもらった。時間がとてもかかってしまったけど、ようやくできた。
一人ではできなくても、応援してくれる人がいるからできることもある。この本をたくさんの人に読んでもらうために、ぼくは有名にならなければいけないとおもった。
街中でも、病院の待合室でも声をかけられるようになった。
たくさんの書店がこの本に期待して、展開のために協力をしてくれる。
満を持してというのはこういうことなのかもしれない。
5月28日、ポプラ社から発売。
「ぼくたちが選べなったことを、選びなおすために。」
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