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平山は夢の中にいる

10月の試写会で鑑賞したので少し時間がたっているから、記憶があいまいなところがあるけど『PERFECT DAYS』の考察を書きたい。

ネタバレがあるから……というよりも映画を観た人にしかわからない話ばかりだと思うので映画を観た人にこの先を読んでもらいたい。

トイレの清掃員をしている平山は御曹司ということが平山の妹との会話でわかる。平山が現実社会にいたらTwitterは「実家極太じゃん」とルサンチマンの嵐がピューピューに吹き荒れているだろう。

自分よりも恵まれたものを持ってる人をみると、嫉妬で怒りくるってしまう人がいる。恵まれたものが自分が欲しいものであればあるほど。見下している相手であればあるほど。

御曹司なのにトイレの清掃員をしている理由は、平山が父親とソリが合わず距離をとっているからだ。

おそらく平山の父親は平山の生き方を否定して、平山の人生のあれこれを決めつけてきたのだろう。平山の妹が娘であるニコに有無をいわせない姿勢からも父親の性格が窺える。

この映画を製作したのはUNIQLOの柳井会長の次男である柳井康治氏だ。もしかしたら実家が極太だからって人生はイージーモードではないということを描いているのかもしれない。

おそらく平山はトイレの清掃員をするまえは写真家をしていた。もしくは写真家を目指していた。

snsが普及したおかけで写真家を名乗る人が増えたけど、ここでいう写真家は写真愛好家ではなく写真作家だ。平山の性格的に仕事で撮影をするフォトグラファーでもなさそうだ。

母親とソリが合わず家出をしてきたニコが持っていたカメラは平山がプレゼントしたものだ。

平山はアパートの前で待っていたニコに最初ニコだと気づかない。つまりそれぐらい会っていない。

平山は友山との会話で小料理屋に通って6年ぐらい(うろおぼえ)と話している。つまり平山が実家を離れてこの街にきて最低でも6年は経っている。

ニコが14〜5才だとすると8〜9才から会っていないことになる。そりゃ成長したニコに気づかなくても仕方ない。

ちなみに公式サイトでは「十数年ぶりに平山を訪ねる」とあるので、ニコは17〜18歳ぐらいなのかもしれない。

ちいさい子どもにフィルムカメラをプレゼントする人って、まぁ写真家ですよ。ぼくも息子にカメラをあげるし、友達にも友だちの子どもにもあげちゃうことがある。さすがにデジカメだけど。

ニコは家出するときに平山からもらったカメラを持ってきている。幼かったニコにとっては平山との繋がりがカメラだったのだろう。

ニコは不安だったのだ。平山と会えるかどうか、平山が自分を拒絶しないか、頭ごなしに怒ってくるんじゃないか、幼いころの記憶とまったく違う人物だったどうしようと心配だったはずだ。

ニコは写真が好きでカメラを持っていたわけではなくて、平山しか逃げる場所がないニコにとってのお守りだったのだ。ニコの実家も太いわけだけど、実家が太いだけじゃダメなんだよね。

ニコの心配は憂慮だ。平山は優しい人だ。老若男女全方位に優しい。トイレで迷子になっていた子どもにもホームレスにも、同僚のタカシにも友山にも、平山の妹が兄を想う気持ちは平山が子どもの頃から自分に優しくしてくれたからだろう。

平山はよく写真を撮っている。いつもは落ち着いて撮影している平山がニコを撮るときに慌てて撮影をする。撮った写真はピントが合っていない。これはかなり強烈だと思った。

映画なので当然、ピントの合っている写真を用意することは可能だ。小道具だし。

だけど監督のヴィム・ヴェンダースはピントが合っていない写真を採用している。しかも縦の写真だ。映画のスクリーンは横長だ。わざわざ観にくくなる縦写真を採用している。違和感がある。

「慌てて撮ったらピントぐらい外れるし、外れたっていいじゃない」という写真家もしているヴィム・ヴェンダースのメッセージだと感じた。

映画の最後に平山は泣きながら車を運転する。ここにも違和感があった。

平山というよりは役所さんの演技と撮影に違和感がある。それまでリアリティのある演技をしていたのに、ハンドルを右に左に過剰にきる。もしも本当にあんなハンドル操作をしたら暴走運転になる。

それから照明にも違和感があった。ブレーキランプなのか赤信号なのか赤い光が平山の顔に強めに当たる。早朝とはいえあんな光は顔に当たらない。

演技も照明もフィクションの映画だから……というわけじゃなくて、それまでリアリティのある演技や撮影だったのだ。

あれは平山の夢なんじゃないだろうか。平山は夢の中で泣いて運転している。ここ数日の出来事で考えることがあったのだろう。映画を観ている人もおなじように考える。

平山は夢から覚めたら、またいつもとおなじルーティンの日々を過ごす。布団をたたんで着替えて缶コーヒーを飲みスカイツリーを眺めながら運転する。そしてトイレを綺麗にする。

地下街の居酒屋、古本屋、銭湯、写真屋、小料理屋どこにいっても平山は声をかけられる。無口な平山だけど声をかけられる。

平山は孤独なように見えるけど、孤立はしていない。

毎日のルーティンとは違う休日を過ごす。休日は腕時計をする。もしかしたら誰かとの繋がりのある腕時計なのかもしれない。

タカシやニコや妹や友山のような人々が平山のルーティン生活にすこしの変化をもたらす。

平山の生活に憧れる人はたくさんいるんじゃないだろうか。長々と書いたけど一言でいえば『PERFECT DAYS』はいい映画だ。

映画って観たあとにいろいろ考えるのがたのしいんだよね。ずっと書きたかったからスッキリ。

ぼくが試写会で『PERFECT DAYS』みたのはBRUTUSのインタビューをうけるためです。こちらでインタビューを受けています。こちらもよかったらぜひ。


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