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ep21.○のようなもの・終

亮太と始めて会ってから2回目を数えるまでの間に、私は離婚をした。

時期的に重なってはいるが、亮太の存在は離婚に関係がない。
何年も何年も誤魔化しながら先延ばしにしていたところに、信頼関係を決定的に損なう出来事が起きてのことだった。

それでもあえてセックスについて言及すれば、「この人に操を立てて、一生誰にも抱かれずに死ぬ」と決意するには、あらゆる種類の情を失いすぎていた。
貞操を守るに値しない夫だった、とでも言うべきか。

たとえ
「もう怪我は二度とさせません。
優しく大事に触るようにしますから。
週に一回でも二回でも、望むように抱きますから。
だから考え直してほしい」
と誓われたとしたって、もう元夫とはセックスはできない。
修復は不可能で、元夫ではない相手とめぐりあう以外に私の望みは叶わなかった。
婚姻という契約をしたにはしたが、こちらがそれを守り続けるには、元夫は私を傷つけすぎていた。
精神的にも、肉体的にも。


月食のように、夫と私と亮太が重なった。
月食と違うのは、元夫は太陽ではないし、彼は私の周りをまわる月ではない。
月だと思っていたものは月ではなくて、
その「月のようなもの」が私の前から姿を消せば、私は宇宙の暗闇に一人きりだ。

離婚したことに後悔はないが、月のようなものに何処かに行ってほしくない気持ちはある。
恒星のように照らしてくれなくてもいい…
本当の名も知らない、燃え尽きる流れ星であったとしても。



でもわかってる。
月のようなものは、いずれ消えてしまうこと。
次の約束はあっても、その次はないかもしれないこと。 
その「次の約束」さえ、風に吹かれる砂丘のような儚い一瞬の形でしかないことも。

数年後に「かつて、あの空には月のようなものがあって…」と、昔話に自分を慰める私がいるのかもしれない。


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