書店にふたたび明かりを灯す日

コロナの影響で、職場の書店が当面のあいだ休業になりました。荷物は届いてしまうので、ごく少人数での出勤体制で交代制で出勤することになります。この状態が「不安じゃないのか」といえば心配なことはもちろんあるけれど、根がおおざっぱなので腹をくくって「今できること」をしています。

その上で思うことや感じたことなどを、つらつらと書いてみようと思います。どうか、ほんの少しの間だけお付き合いください。

私が住んでいるのは、緊急事態宣言の対象地域です。一部の書店では営業を行っているところもありますが、ショッピングモールや百貨店のなかにあるお店は、食料品売り場以外はお休みとなっています。そのため私のいるお店も、4月8日以降から当面のあいだは休業となりました。

節電の関係もあって、今は薄暗い売り場で作業をしています。定期講読と客注品のみ、食料品フロアの一部のスペースのレジでお渡ししています。

基本的に接客はなく、もくもくと無言で棚に商品を並べるだけです。ごくたまに電話での問い合わせもありますが、再開の見込みが立っていないので、新たに注文や取り置きなどは一切受けていません。

週に2日ほどの出勤なので、当然収入も大幅に減ります。さらに数日ぶんの荷物をまとめて並べるのは、文庫と新書と文芸書をワンオペでやっている身には正直こたえます。

それでも、「つらいか」と聞かれたらそんなことはありません。この状況下でつらいことがあるとしたら、それはお客さまに本を届けられないことです。

もちろん発売した本を手に取ってもらえない作家の方々や、出版社への影響も心配ではあります。でも「本を買える場所や手段」は、ひとつではないから。

ネット書店やリアル書店が行っているネット通販サービスもありますし、そういったものをどんどん利用してほしいと思っています。

本当ならここにある本たちを、「家にいなければいけない人たち」に手に取ってほしかった。

たとえばネット通販ができる人はまだしも、それができないお年寄りなどはどうしたらいいんだろう。

いつもパズル雑誌を何冊も買っていくおばあちゃんや、週刊誌を毎週必ず買いにくるおじいちゃん。

それから、家にいるように言われている子どもたち。絵本や読み物や、ドリルは足りているだろうか。

学校帰りに何人かでコミック売り場によく来ていた高校生の男の子たちは、どうしているだろう。

書店が開いてさえいたら、不安だらけで家にいる人たちに、雑誌でも小説でも漫画でも料理の本でも、児童書でも問題集でも資格のための勉強の本でも何でも届けられるのに。今の私たちには、ただの1冊も届けることができません。

せっかく入荷してきた本たちも、私たち以外の誰にも見てもらえない。5月6日以降に売り場が再開できるのかはわかりませんが、約1ヵ月先にはまた新たな新刊が入ってきてしまいます。そうしたら、4月に入荷してきたものは、平台などの目立つ場所から下げられてしまう。何がつらいかと言えば、それがつらいです。

でも、本は逃げないから。

いつお店が再開できるかはわかりませんが、わずかな出勤日数でもできるだけお店を整えておきます。何とか時間を見つけて、きちんと棚もきれいに掃除しておこうと思います。

だから、いつかそれぞれの場所でそれぞれのお店が営業を再開したなら、どうかその本屋さんに足を運んでください。もちろんマスクや手洗いで充分身を守りながら、できたらでいいんです。それまでは、ネット通販でも何でも、とにかく本を守ってくれたなら嬉しい。

それまでは、たくさん「好きな本」の話をしましょう。気になる本をチェックしたり、「いつか読みたい本リスト」を作ってみるのも楽しいかもしれません。

もしかしたら、読む本が目の前にあっても読む気になれない人もいるとは思いますが。そこは無理せずに、日々を穏やかにすごしていきましょう。

幸いにも私はTwitterでたくさんの本好きな方々が周りにいるので、本や漫画の話をする相手には困りません。書店員の方はもちろんのこと、読み手として本屋を支えてくれる方々もたくさんいます。本を届けるために頑張っている出版社の方も、印刷会社や取次で働く人も書き手の方もいます。

本を大切に思う人たちが、それぞれの場所でそれぞれのできることを必死で頑張って支えている。それを、ひしひしと感じています。

今は薄暗い売り場のなかでせっせと「誰にも見てもらえない」棚を作っていますが、これはいつか「誰かに見てもらうため」です。

数え上げれば不安な要素はいくらでもあるし、この先どうなるかもわかりません。いつお店が再開できるのかも、そのときにこれまで通りに働けるのかもわかりません。当然、書店の存続にも関わってきます。

けど、わからないことを今から考えてもしかたないので。腹をくくって、「未来のためにできること」をしておこうと思います。

いつか売り場の書店が再開したそのときに、いつものお客さまたちと笑顔で言葉を交わせる日が来ることを心から祈っています。










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