遺伝子パネルという技術の登場で変わるガン治療パラダイム

ついに来年くらいから遺伝子医療が本格稼働を始めそうです。

17年2月には、国立がん研究センターとシスメックスが共同開発するパネル検査が体外診断用医薬品の「先駆け審査指定制度」の対象品目に選定。同センターは今年1月、この検査を先進医療に申請しました

これまで、多くの抗がん剤の保険適用範囲は「臓器」単位で決められていました。

例えば、有名なオブシーボの投与が保険適用されるがんは、悪性黒色腫(皮膚がんの一種)、肺がん(非小細胞)、頭頸部がん(舌がん、咽頭がんなど)、胃がん(切除不能限定)など、6種類ほどに限られています。

ちなみに、保険適用のがんであれば、高額療養費制度が使えるので、収入にもよりますが1ヵ月8万円前後で済んでしまいます。一方で、保険適用外の臓器がんでは、1円も保険は効かずに全額自費、かつこのような化学療法を引き受ける医療機関は現状皆無です。

根本的な原因は、保険適用制度というよりも、そもそも医療の専門が臓器別に分かれてしまったことにより、臨床研究データが臓器ごとに分断されてきたことを反映した、ある種 歴史の産物だと思っています。

転移などガンの動態を考えれば、ガン細胞が臓器を選ぶのではなく、ヒトの視点が臓器単位で分けて「分かろう」としてきた、そういうことだと私は思っています。

医療側に、人体を複雑なシステムとして捉える技術が不足しており、分けられる範囲で分かろうとしてきた知性の限界でした。

しかし、この「遺伝子パネル検査技術」によって、「臓器」ではなく、その個体の「発現遺伝子(変異)パターン」によって、ガンの存在確認・適用抗がん剤が判定できるようになります。より精度が高いガン検出と、より効果的な投薬が可能になるのだと理解しています。

当分は、この「遺伝子パネル」は、欧米の遺伝子変異パターンをもとに適用抗がん剤が選択されるでしょうが、順次日本人/アジア人向けに改良されていくことでしょう。

一方、簡易的な遺伝子検査(変異パターン解析)でガン有無・投薬候補まで見つかるため、これまで適用外とされてきた多くの"既存抗がん剤"についても見直しが必要になりそうです。

製薬会社も、あたかも特許のようにできるだけ幅広い(臓器)で使えるような遺伝子パターンをもとに、適用申請をしてくることになるでしょう。

(将来的には、遺伝子変異パターンも、一次的な配列に止まらず、高次ネットワーク構造での同定精緻化も進むでしょう)

既存抗がん剤の投与幅が広がることが、早期発見/予防的措置という観点からは、一概に抗がん剤医療費の膨張というリスク視もできませんが、消費量に見合った薬価算定ロジックの見直しなど、ガン治療&研究のパラダイムが大きく変わることを踏まえた最適化を目指す必要があるのでしょう。

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