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社会人10年の振り返り(その3):MDMというチャンス、それを掴んだ必然

2009年当時、iPhone 担当になっていた私は、新卒2年目とは思えないほどに大変厚遇をされていたし、iPhone自体手がつけられぬほどに売れ始めていた。事実上の社内左遷なども経て、念願のグローバルチーム、iPhone担当になっていた私も、、正直相当に調子に乗っていたと思われる。

当時の様子は恥ずかしながら以下の書籍で紹介されている。

(この書籍、いくつか事実と異なる記述もあるけれど大筋は正しいが)三国志の大賢人・諸葛亮孔明から名をとった私としては、「張飛」扱いされるのは相当に抵抗があったりする...涙

といった状況で、たしかにアイキューブドシステムズは、企業向けにカスタムアプリ提案に同行をしてくれたり、アプリ開発基盤のYubizo Engine を生み出し、法人iPhone市場を盛り上げてくれていた、それは先述の通り。

だからといって、アイキューブドシステムズに転職を決めることは想像だにしていなかった気がする。そもそも、そのタイミングでは誘われてもいなかった、気がする。(正直あまり覚えていない)

一方、企業向けにしろ医療市場向けにしろ、iPhone の日本での法人ビジネス展開を任されていた私としては、1つだけ不可欠なピースが足りないことがわかっていた。

それが、MDM(Mobile Device Management)というテクノロジーだった。

実は、当時企業が大規模に数百台〜数千台のiPhoneを導入しようとしても、それを管理する術はほとんどなかった。その後すぐにiPadが登場したが、同様の管理困難な状況が続いていた。

実際、iPhoneやiPadの紛失・盗難時などの情報漏洩対策などはもちろんのこと、パスワードなどのポリシー設定アプリインストールなど、企業がWindowsパソコン向けに徹底して来た様々なセキュリティ対策・運用基盤が iOSには適用できなかったのだ。

企業のIT管理部門なども、複数の場所・複数の時間帯・複数の人に使われる可搬性、というモバイルそのものの性質から、遠隔で大量の端末を管理する必要に迫られていた。この問題は、iPhone が日本で発売された直後から、関係者がみな頭を悩ませていた。当然、Appleも動いた。

米国の一部ソフトウェアベンダー限定でiOSを仕様公開を受け、遠隔で集中管理できるようにし始めたが、日本での展開が遅れていた。市場開発担当者としては、この間の葛藤たるや筆舌し難いのだが...... 詳しくは述べられないことをご承知おきいただきたい 笑  

そして、少し時間を置いて、日本でも数社がMDMを作れるようになった。

そのうちの一社が、iOS向けカスタムアプリ開発で名乗りをあげていた、アイキューブドシステムズだった。当時、私は日米のMDMベンダーが日本でMDMサービスを始めることを首を長くして待っていたのだが、MDM開発着手から2週間で

「動くものが完成したので、提供を開始できる」

とアイキューブドシステムズ代表の佐々木から連絡を受けた時、凄まじい衝撃を受けた。えぇ、、、もう!!??

より本質的な、働く人一人ひとりの生産性向上のために、もっと効果的な手段があるのではないか、ある時からそう考えるようになりました。ちょうどその頃、スマートフォンをはじめとするモバイルデバイスが一般にも普及し始め、企業内でもそれらの導入が検討され始めた時期で、ここに注目しました。弊社は福岡の小さな企業ながら、米Google社と取引実績があったので、米Apple社からも興味を持ってもらい、iOSに関しても早くから限定仕様公開を受けることができました。そして、OSやデバイスに縛られないクラウドサービスの開発に着手し、誕生したのが「CLOMO」です。(アイキューブドシステムズ代表 佐々木勉)

私自身、Appleにはスティーブ・ジョブズと勝負するため入社し、iPhoneの担当になっとはいえ、せいぜい法人市場で必要な機能を要望するくらいで、Apple のコアであるハードウェア・ソフトウェア開発について口を出すこともできなかったため、そもそもどうやったらそんなに速く製品を作れるのか??知る由もなかった。(後日、このスピードに起因する大きな問題解決に自らが陣頭指揮を執ることになるとは思いもよらなかった、いやホント)

そして、アイキューブドシステムズは、2010年末 日本で最初のiOS向けMDMサービス:CLOMO MDM をリリース、販売を開始した。

一方、アイキューブドシステムズの競合の多くは、その半年後くらいからやっと製品をリリースし始め、その時点でこの福岡のベンチャーに大きな市場シェアを握られていたのだった。

そして、この製品 CLOMO MDM が小さなソフトハウス・受託開発企業を、膨大な数の法人顧客を持つソフトウェアメーカーへの転換を起こすことになった。そして、私の移籍もそのタイミングだった。

しかし、当時の我々は CLOMO MDM がこれほど大きな製品に育つとは思っていなかった。むしろ、HTMLとJavaScriptを用いてモバイルアプリを開発するためのフレームワークライブラリ Yubizo Engine の方が有力な事業の種なのだと思っていた。

もっと言えば、私が転籍を決めたのは、CLOMOと同時期に準備していた Coopa! という「HTML5コンテンツでモバイル端末パワーを引き出してモバイルアプリ化する」というサービスを見せてもらった時だった気がする。

Coopa! はYubizo Engineの機能を内包しており、カメラやGPSなどのデバイス機能を利用するHTML5アプリケーションを作成することができる(2018年の今でも通用するコンセプトだと思うが、CLOMO事業への注力で幻となった)

とにかく、どんどん新しいプロダクトを生み出す佐々木勉という男が気になって気になって仕方なくなっていった、とも言えるだろうか。次回はそのあたりを触れたいと思う。

一方、Yubizo Engine にしろ、CLOMO MDMにしろ、Coopa!にしろ、日本の法人モバイル市場の広がりに必須(と私が思えた)道具を連発していたアイキューブドシステムズについて、時間を少し巻き戻して触れておきたい。

受託開発に明け暮れたソフトハウス時代

私と代表の佐々木が出会う10年ほど前、アイキューブドシステムズは2001年に福岡県大野城市で創業された。福岡で情報処理系専門学校を卒業し、ソフトハウスに就職、SEやPMを経て起業した佐々木は、様々な受託開発請負を続けていた。

佐々木自身は専門学校時代から先端技術をよく勉強していたが、当時の九州はシリコンアイランドと呼ばれるように、半導体部材の下請工場会社や製鉄所などものづくり色が依然強く、最先端のIT・ソフトウェア技術や提案を評価してくれる企業は皆無だったという。

訪れた転機

そんな佐々木たちの転機は2006年。

シリコンバレーで成功された平強さん(現株主・アドバイザ)のご紹介で、半導体工場企業の経営者の方々がシリコンバレーを見学することになった。若い佐々木は、この経営者の方々のかばん持ちとしてGoogle本社を見学に行き、転機を迎えた。

当時、すでにGmailは膨大な人々に無料提供されていたが、このGmailやGoogleカレンダー、ファイル共有サービスを"企業向け"に提供するクラウドサービス「GoogleApps」見せてもらったのだ。それはクラウドという、世界中の人が同じサービスを使う新しいカタチのITとして提供されていた。そして佐々木は、自分たちが得意とする企業社内にサーバ(メール・Web・アプリケーション)を物理的に設置するIT(通称:オンプレ On Premise)は、根こそぎ消失することを直観した。

1つのソフトウェアが、クラウドというカタチであれば世界中にいっぺんにいきなり使ってもらえる。このスピードと規模。結果、Googleは数年で世界シェアを取れるようなサービスを高速に生んでいた。

また、そのクラウドというITテクノロジーが、高速なソフトウェア開発高速なビジネスの成長を実現可能にし、さらに膨大な利用者からのフィードバックを元に優れたユーザエクスペリエンスを実現しているGmailなど「かっこいいソフトウェア」が企業向けに展開されていることに大興奮した。

結果、自分たちもクラウドサービスを提供しなければいけない!!と決心して帰国。

当時の「受託事業について大幅に縮小したい」と社員に相談し、社員も合意、一気にプロダクト開発に投資をしていったのだ。

Googleの本社訪問をした2006 年以降、Google Appsの拡張製品である「Easy for Apps」、Oracle on demand CRMの拡張製品である「malco」、それ以外にもスクラップ&ビルドを重ねた製品は2桁近くにのぼった。

私と出会うまでの数年間、福岡県大野城市の社長自宅横バラックのような社屋で、ひたすら生み出すことを続けるチームが生まれ、育っていったのだった。あたかも「一人でシリコンバレー」状態という感じだろうか。

(当時の会社説明のパンフレット)

そして、出会ったiPhoneビジネスであり、MDMビジネスだったのだ。ご縁としか言いようがないが、プロダクト開発に賭けていたからこそ掴んだチャンスでもあった。

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