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超短編「育休とは...」

20XX年、政府は男性の国家公務員が育児休業を取得する際に、原則1か月以上とするよう促すこととし、中央省庁などでは、部下の育児休業の取得状況を管理職の人事評価の要素の1つと位置づけることとなった。

そんな未来のフィクションの話。

(参考記事)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191029/k10012154421000.html

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深夜の霞ヶ関。

課長「明日の予算委員会の質問要旨、出たぁ〜?」

係員「何回聞かれても、来ないものは来ません〜」

課長補佐「まいったなぁ〜、今日もタクシーか...」

係長「奥さま、予定日が近いんですよね」

課長「え?キミのとこ、子供が産まれるんだっけ?」

課長補佐「は、はい。先日ご報告しましたけど...」

課長「そしたら産休取らないと!一ヶ月!内閣人事局から通達来てたでしょ」

課長補佐「いや〜、さすがに無理かなと。国会の会期中な上に、来月には大臣と経済界の意見交換会もありますし」

課長「ダメダメ!ボクの人事評価に繋がるから!産まれたら1ヶ月出勤したらダメよ」

課長補佐「しかし仕事が...あ、妻から電話だ。...産気づいたみたいです!国会対応は課長にお任せしてタクシーで失礼します!」

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病院にて。

課長補佐「いやー安産で良かったね」

奥さま「アナタ、仕事に行かなくて良いの?」

課長補佐「あぁ、産休1ヶ月とれって」

奥さま「でも1週間は私も赤ちゃんも入院してるから、アナタにやることなんて何もないよ」

課長補佐「だよねぇ〜、あ、課長から電話だ」

奥さま「病院内はマナーモードにして通話はご遠慮ください〜」

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局長室にて。

局長「大臣と財界の会合って、準備できてんの?」

審議官「どうなんだね?」

課長「あの件ですね(どうなってたっけ?)」

係長(課長、あれは補佐がやってましたけど、産休に入ってそのままですよ...)

課長「順調に進んでおります」

審議官「そうだったね、順調だったね」

局長「おれ来週はアフリカ出張だからさぁ〜、大臣の挨拶文は早めに見せてね」

審議官「かしこまりました!キミ、早く戻って仕上げてきてボクのとこにもってきて!」

すごすごと退散する課長と係長。

係長「どうしましょう〜白紙ですよまだ」

課長「もう産まれたって言ってたし、アイツにさらさらっと書いてもらおう、電話しとくわ」

係長「はぁ...まだ病院だと思いますけど...あ、電話にでたっぽい」

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母子ともに無事退院して、ようやく眠った我が子を見つめる夫婦。

父親「いやぁ〜この寝顔に癒されるね」

母親「めっちゃ育児してるテイで喋ってるけど、今のところ何もしてないよね...。ていうかこの1週間でこの家の散らかりよう...ドロボウでも入ったの...」

父親「いやぁ結局、大臣会合のペーパー作りに追われてしまって。あ、また電話」

赤ちゃん「ほぎゃあ」

母親「せめてマナーモードにしろ〜」

父親「え?座席表?それぐらい適当に作っておいてくれない?誰が偉い人か分からない?知らんけど、アイウエオ順とかで良くない?審議官が騒いでる?分かったちょっと行くわ」

父親「あのー、一瞬だけチラッと職場にいかねばならず...」

母親「どうぞー」

父親「ごめんごめん!プリン買って帰るから!」

母親「育休とは...」

父親「ん?」

母親「なんでもない。お母さん呼ぼうかな」

父親「おぉ!それが良いよ!」

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審議官室にて。

審議官「なんでこの座席表はこの並び順なの〜」

係長「はぁ。アイウエオ順とかで良いかなと」

審議官「いやダメでしょう〜」

係長「ではどうすれば」

審議官「そこは考えてよ〜」

係長(もうこれ以上パターンが思いつかない...今日の合コンも欠席か...)

課長補佐「遅れてすみません!」

係長「課長補佐ぁ〜」

審議官「おー、キミんとこ、産まれたの?」

課長補佐「ええ、娘です。今のところ手がかからず助かってます」

審議官「そうかぁ〜娘は良いよ〜」

課長補佐「その話はまたゆっくりと。座席表の件ですが、過去のこの会合やこの会合などでも、アイウエオ順で着座しておりまして」

審議官「ん〜そうだっけ?」

課長補佐「はい。これなどは審議官が課長時代に参加されておられますね。なかなか良い会議だったと伺っております」

審議官「おぉ〜懐かしい!これは苦労したなぁ〜連日徹夜してさぁ〜」

課長補佐「大臣官房からもこの席次や議事進行で良いとのことでございます」

審議官「あぁ〜官房もそうなの。ならこれで行こうよ。」

課長補佐「はっ。」

審議官「ところでこれがうちの娘の写真なんだけど。」

課長補佐「美人ですね。審議官の面影がどことなく」

審議官「そうなんだよ〜娘が美人に育つと苦労も多いよ」

課長補佐「その話はまたゆっくりと。」

速やかに審議官室を脱出する一同。

係長「官房もOK出してたんですね」

課長補佐「ん?あぁドバーっと資料一式をメールで送っておいたから。返事ないし大丈夫でしょ」

係長「しかも過去のこんな会合の座席表、よく見つかりましたね」

課長補佐「あぁ〜これは審議官が飲み会のたびに語ってる武勇伝の会合があってさ」

係長「ほぇ〜職場の飲み会もたまには役に立ちますね」

課長補佐「キミは毎回欠席だもんね。まあ基本的に無意味だから出なくて良いと思うよ」

係長「ところで奥さん大丈夫ですか」

課長補佐「義母の応援を招聘する方向で調整中」

係長「私が呼び出しといてなんですが、育休とは...。私は結婚相手は国家公務員以外から選ぶことにします...」

課長補佐「その方が良いよ」

係長「ではワタクシ、合コンという名の戦場に出陣してまいります!」

課長補佐「おーっとその前にアフリカに出張してる局長に送っておいて...ってもう行ってしまった。しゃあないやっとくか...。あ、大臣官房からの電話。嫌な予感しかしない...。」

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色々あって、一ヶ月。

課長「いやぁ〜まさかアフリカから局長がファックスで手書き修正してくるとは思わなかったけど、なんとか無事に終わって良かったね」

課長補佐「そうですね」

課長「あれ?キミ、産休は?」

課長補佐「あ、無事に一ヶ月終わりました」

係長「すみません何度も呼び出してしまって」

課長補佐「妻からは、面倒見る人が増えて困るから早く仕事行けって言われちゃいましたよ。後半は妻の実家から義母に応援に来てもらいまして。アッハッハ」

係長「全く笑えないっす...」

課長「オレの時なんか、1ミリも育児参加なんか出来なかったからなぁ〜時代は進んでるよ」

課長補佐「あれ?そう言えば係員の姿が見えませんが」

係長「あぁ〜、産休取ってるのに頻繁に呼び出されてる課長補佐の姿を見て、ちょっとやっていけないと思ってしまったのか、転職したみたいです」

課長「時代だねえ〜」

課長補佐(何かが間違っている気がする。産休とは...)




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