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資産形成を優先すべき理由 ~ 金の卵を生む鳥を育てる ~ #会計から見る農業の経営分析

畑会の山田です!
今回も都市農業の経営において大事な経営指標の話をしていきます。
前回は資産収益率(ROA)の話で、農地あたりの利益率の話をしました。
今回は続きで、農地以外の資産について話をします!
 
その資産は、設備や機械などの固定資産になります。
ビニールハウス、トラクター、軽トラ、倉庫、草刈り機などがあたります。
この固定資産を通じて、利益がどれだけでるかを検証していく話になります。

これも農地と同じように資産なので、計算式は
資産利益率(ROA)= 純利益 ÷ 資産 × 100
と同じになります。

これも利益を出すために、売上と経費の数字が必要となります。
ただ経費は固定資産の場合、すこしやり方が異なります。
それは、「減価償却費」という名目で処理します。
固定資産は、消耗品などと違い、支払いを一度に全額を支払うとしても利用はその年度だけではなく、実際は何年間も使い続けるため、会計上、使う予定の年月数で割って経費を分割することになります(定額法と定率法がありますが、ここでは定額法で説明します)。
例えば60万円の中古トラクターを5年で使うとなると、1年間で12万円。
毎月1万円の費用を計上することになります。
そのため、すくなくとも月に1万円以上の利益をださないと理論的には赤字になります。
そういった数値をもとにして、実際に設備や機械が果たして利益になるかを検証していく必要があります。

農業経営で、長期的視野をもつことの重要性

もちろん、こういった設備や機械は季節によっては利用されない場合もあるので、月単位で見ると利益がでているか分からないため年間を通して調べる必要があります。
また1年間だけの利益を見ても分からない場合もあります。
それは設備や機械を手にしたからと言って、すぐに利益が出てくるとは限らないからです。
例えば環境制御システムがあるビニールハウスでトマト栽培を行う場合、一年目からベテラン農家さんと同じような収量がとれる可能性は低く、最初は利益があまりでないこともありえます。数年後にやっと収量が安定し高い利益率をだすほうが一般的でしょう。
そのため、資産収益率は長い目で継続的に検証する必要があります。

農業経営でも、一般的な経営でもそうですが、ビジネスを行うにあたって長期的な視点を持つことが大事になります。
なぜなら、多くの人達が短期的な視点を持ち、目先の利益に集中しがちだからです。
それはある意味、本能的で正しい面ではありますが、その行動がマーケットの中で大多数を占めると、限られたパイの中で過激な競争となり利益があがらなくなります。
そのため、長期的な意思決定をする時点で、その他大勢の人たちと差別化が生じます。
そこにビジネスチャンスが生じます。もちろん、それと同時にリスクも生まれます。
 
そこで会計という学問が必要となります。
会計という学問が重要な理由は、数字によって現状をよりリアルに映し出し、そのリスクを最大限に縮小し、チャンスの可能性を最大限に広げる力があるからです。
数年後の将来のことは、当然すべて分かるわけではありませんが、その中でも分かっている数字を算出して、いくつかシミュレーションを組み込んでいきます。

ちなみに細かい話ですが
投資する場合の指標は資産収益率(ROA)ではなく、投資収益率(ROI)として考えます。
Iは、Investmentで、投資です。
資産を持っているか、これから資産を買うか(投資するか)の違いだけと思っていただければ、ここでは大丈夫です。

資産を生み出すことを優先する

さて、長期的な視点をもった資産や投資の重要性の話をしましたが、実際問題としてそもそも資産もない、投資する資金もないという方もいらっしゃるかと思います。
(この点については、資金繰りやキャッシュフローという考え方も別でお伝えします)

特に新規就農者の方にとっては、すべて自らの自己資本からのスタートの方が多く、親元就農の方との大きな格差があることが厳然たる事実でもあります。
とはいえ、新規就農者の方が資産を生み出すことができないわけでもありません。
私が思うに3つあります。

その一つは、融資という手段。お金を借りるということです。
これは正直なところ、全ての新規就農者は融資すべきとは思っていません。
ある程度、技術的な自信や販売戦略、マーケットなどが見込めているなどの勝算がなければ無理に融資を受ける必要はないと思います。
あと利息も気をつける必要があります。利率で言えば、消費者金融ローンなどに比べて圧倒的に利率は低いのですが、借りる金額は大きいため、塵も積もればで、かなりの負担になります。そのため、可能な限り融資額を減らす必要があります。

もう一つは、補助金という制度。
先程の融資の部分にもつながりますが、例えば環境制御型のビニールハウスを取得する場合は、補助金として半分から4分の3が補助してもらえます。
(市によってはさらに出るところもあるようです)。
そういった制度を使うことで、資産を生み出しやすくなります。

そして最後の一つが、青年就農給付金の制度。
今は少し変わりましたが、年間150万円を5年間が給付してもらえる制度。
合計にすると750万円という大きな金額になります。
これを資産のための資金として捉え、貯めておく方法があります。
これを生活費として使うものだと認識していると、お金が生み出すための資産を形成することができません。もちろん新規就農時からすぐに収益化することができないため、給付金を使わなければならない理屈も分かります。
ただ本来であれば、生活費などは新規就農する以前からお金を貯めておき、その貯金を切り崩しながら、しばらくは営農すべきだと私は思っています。もしくは、可能な限り節約生活をし、少しでも就農給付金は使わず、あくまで利益を効率的に生み出す資産にあてる必要があると考えます。

この考え方は、農家である以前に経営者すべてに当てはまるものだと思っています。
経営は、一日の生活費分だけ稼げばいいわけではなく、将来の投資のため、今後の備えのために少しずつでも貯めておき、可能性のある事業に資金を投入します。お金が入った分だけ使ってしまう人は、経営者ではなくただの消費者になります。
お金持ちが贅沢をしているのは自分の労働報酬による消費ではなく、資産から生み出した富を消費しているからです。資産家は、先に資産を生み出すまでは質素な生活をしています。
その結果で、富がある人は、資産を通じてさらに豊かになり、貧しい人は、借金の利息などによってさらに貧しくなります。
それは農業においても、同じ原理です。
より最初の段階で広い農地、大きな設備、効率的な機械を持つ人ほど、収益が上がりやすいことは確かなことです。
もちろん、目に見える資産を持つことだけが農業経営ではありません。
形のないネットワークやネットワーク、顧客リスト、自分自身で身につけたスキルや経験、資格やライセンスなどの無形資産を形成することも重要な戦略です。また人材を資産として捉えることもできます。
自身の価値観を照らし合いながら、自分にとってどういう資産が必要を考えてみてはいかがでしょうか?

今回は以上です!
当たり前といえば当たり前の話だったとは思います。ただ、それは分かっていてもできているかは別次元の話ですので、あえて強調してお話をしました。
これは、自分に自戒を込めて言った部分もあります(笑)

次回はさらに資産について踏み込んでみたいと思います。
利益が見えなくなる農業の根本的な問題について話をします!

【自己紹介】
非農家でありながら、東京の八王子で農業系サービス事業を展開。
専門分野は都市農業の経営、都市部での小さな農、コミュニティ農業、農のある生活、キャリア視点から見る農などで幅広く農業を語っています。

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ZOOMによる講座を中心として
東京八王子を中心に現場での農業体験も行っています。

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