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★「反収を数値化して進化させる話 ~ 資産収益率(ROA)~」 #会計から見る農業の経営分析

畑会の山田です!
今回も都市農業の経営において大事な経営指標の話をしていきます。
前回は利益率の重要性をお話しました。
その次に私が思う大事な経営指標をお話したいと思います。
 
それは・・
資産収益率という指標です!
通称ROAとも言われます。
ROAとは英語の「Return On Assets」の頭文字からきています。
和訳すると資産における収益率を示しています。
リターンが収益の意味ですね。
以後は「資産収益率」と呼びます。
ROAの言葉を使う人もいるので参考程度に知っておいてください。
 
この資産収益率の計算式を表しますと
資産利益率(ROA)= 純利益 ÷ 資産 × 100

という数式になります。
数式では純利益ですが、都市農業においては粗利益でも構いません。

早速、難しそうな文字ばかりで戸惑うかもしれませんが、計算式は覚えてなくても大丈夫です^^
考え方だけ分かれば大丈夫です。
この考え方は、簡単に言いますと
「ある資産あたり、どれだけ利益がでるか」という考えです。

資産とはいったい何を指すのか、ですが
一番イメージがつきやすいのは、農地です。
(これは畑を借りている場合も、便宜上、資産ということで話をすすめていきます)
例えば
「一反(10a)に対して、どれだけ利益がでているか」を示します。
これが資産利益率の考え方です。
多分これはみなさん、似たような話を聞いたことがあると思います。
そうです。資産収益率は「反収」と考え方が似ています。
ただ、反収と資産収益率は似ていますが、数字の内容が違います。
反収は、一反あたりの収穫量
資産収益率は、一反あたりの利益
資産収益率の説明を、まずは反収をベースに話をしてみたいと思います。
 

反収だけに固執しないこと

まず反収を知るためには、農地の面積と収穫量の情報が必要です。
ただ、ほとんどの都市農家の場合、農地面積は分かっていても、逐次収穫量を記録している人は少ないと思います。
そこで、収穫量ではなく代わりに売上を入力します。
この時点で、反収ではなくなりますが、資産収益率を導き出すのがゴールなので、このまま計算を行います。
単純に売上から面積を一反の単位にして割ります。
例えば、3反で、売上900万円であれば、900万÷3反になり
一反あたり300万円の売上となります。
これは、一番ざっくりとした数字で、本来ならば各農地の面積ごとに分けて数値化したり、各品目に分けて、それぞれの土地の売上を出したりすると、より現状が見えてきます。
例えば、
A農地は0.5反で小松菜が売上100万円 → 一反あたり200万円。
B農地は1反でキャベツが売上150万円 → 一反あたり150万円

そして、この品目ごとの売上を単価と数量で分解します。
また数量は、播種1回あたりの収穫量と回転数によって分けられます。
つまり数式としては
売上= 単価 ✕ 数量(=播種1回あたり収穫量✕回転数)
先程の例でいえば、小松菜であれば年間3回以上収穫し、キャベツなら春と秋で2回、たまねぎだと1回だけなど、品目によって変わってきます。
こういった形で面積あたりの売上が数字化できるようになれば、生産計画を作る際、より売上を上げる組み合わせを構築できるようになります。もちろん、気候変動などで収穫の時期が変わっていくため、予定がずれた場合、別の品目も想定しておく必要があります。
 
収穫量や作りたいものを優先的に考える農家さんは、売上の数字を明確にせず、反収など別の基準で意思決定をしてしまいます。
それは反収(収穫量)が多ければ、生産者として素晴らしいことですが、その収穫した農作物が売れなければ経営者としては厳しいといえます。
売れるものが何かを考えながら、逆算して生産品目、生産量、時期などを想定して計画をしていく必要があります。それを考えるのが、「資産収益率」であり、経営思考に繋がります。

補足:あと農作物の良品率か秀品率(消費者に品質的に売れるものがどれだけあるか)も把握できれば尚良いです。ただ、管理コストなど考えると都市農業では厳しいため、できる範囲で把握できればよいかと思います。良品率を知ることで、より生産技術向上のための目標設定ができます。

収穫量でも、売上でもない、あくまで利益

次に農地一反あたりの利益を考えていきます。
話の流れとして
収穫量 → 売上 → 利益
になっています。

資産収益率の考えは、収穫量でもなく売上でもありません。
あくまで利益です。
利益を出すには、
利益 = 売上-経費の図式になるため、経費に数値化することが大事になります。
経費は、以前話したと通り、種代、資材代、肥料代、袋代などの原価。
広告宣伝のためのコスト、そして人件費。
また設備や機械への投資や税金などがあります。
 
正直、利益を導き出すための経費の話は、長くなってしまうので、ここでは一旦、割愛します。

ここで知ってほしいのは
「一反あたりの売上が増えても、経費が増えてしまえば、利益がでずに、あまり意味がない」ということだけ知っていただければと思います。
前回も少しお話をしましたが、農業の業界は、どうしても利益を軽視してしまう傾向にあります。そのため、資産収益率という形で、数値化をして現実を認識してもらいたいと思っています。
この利益軽視の根本的な原因については、また近いうちにお話をしたいと思います。

資産収益率を理解すると収益構造も変化する

では重ねて、資産収益率を理解することで、何が変わるのかをお話したいと思います。
私が思うに、経営の収益構造を変わっていきます。
そのひとつの形としてビジネスモデルが挙げられます。

#ビジネスモデルと経営戦略のカテゴリーでも話をした
『少品種高回転型』『体験農園型』のビジネスモデルは、まさに資産収益率が高い農業ビジネスといえます。
『少品種高回転型』は、ハウスの中でトマトや小松菜など回転数の高い品目に絞り、ひたすら品質の高いもの大量に生産します。一反あたりの売上が1000万円を超える農家さんもでてきます。
次に『体験農園型』は体験農園として区画を貸し出します。畑会で管理している畑で言えば、6㎡を年間5万円で貸し出しています。通路などの確保などを入れると実際は10㎡ぐらいになります。その場合、一反(1000㎡)あたりの売上は500万円となります。
しかも利益率自体は高いため、しっかりと会員数と運営ができれば安定した経営になり得えます。

上記の2つは資産収益率を通じて見いだした極端な例ですが、こういったやり方でなくても、資産収益率の考え方を通じて、生産計画を作り込み効率的な経営をすることが可能です。

また「農家あるある」の一つとして、
旬が過ぎた農作物をまだ取れるからと言って、しばらく畑に残してしまい、次の季節の作物の播種を遅れてしまうことも、資産収益率を軽視してしまう行動になります。
(農作物の成長段階ごとで計画的に収穫している場合は別)
短期で見れば売上は上がりますが、長期でみれば機会損失がでて利益率が下がってしまいます。
ちなみに、こういった現象を「サンクコスト現象」と呼び、農業以外でもいろんな業界で起きている現象です。また別の機会に説明します。
このサンクコスト現象を起こさないためにも、資産収益率をもとにした生産計画を立てて、時に変更しながら実施していくことが大事になります。

 
今回は、以上です!

農家さんによっては、普段から数値化を意識していないとイメージがつきにくい話だったかもしれません。ですが実際にやっていくと理解が急に進むと思います。
具体的な数値化や生産計画のやり方については、農家の置かれている環境や経営方針によって多少違いがありますので、個別で相談、もしくは勉強会などでお話させていただければと思います。
 
次回も資産収益率についての話です。
次回は、農地ではなく設備や機械という観点からの資産収益率を話してみたいと思います!

【自己紹介】
非農家でありながら、東京の八王子で農業系サービス事業を展開。
専門分野は都市農業の経営、都市部での小さな農、コミュニティ農業、農のある生活、キャリア視点から見る農などで幅広く農業を語っています。

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東京八王子を中心に現場での農業体験も行っています。

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