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農業の労働時間を見える化する  ~骨折り損のくたびれ儲けから抜け出すには~   #会計から見る農業の経営分析

畑会の山田です!
前回は時給的に数値化することの重要性をお伝えしました。
今回は、さらに踏み込み、その数値化の方法とメリットについて話をしてみたいと思います。

シンプルだけど、意識の大きな変化が起きる
まず最もシンプルな時給の計算方法をご紹介します。
年間の所得から労働時間を割ります。これだけです。
例えば、年間所得が300万円で
年間労働時間が2000時間(月166時間、週42時間程度)
の場合、時給は1500円となります。
言い換えると1時間あたりの生産性が1500円です。

とてもざっくりですが、現状のどれだけの生産性を知ることが大事になります。
例え、時給が500円ぐらいでも、落胆すべきではなく(したくなる気持ちはわかります)、現実をしっかり見据えることで、具体的な改善策が見えてきます。
時給500円という現状と、目標が2000円とした場合では、同じ仕事内容では到底たどり着かないので、仕事内容を大幅に変えていこうという意識になります。
これだけでも大きな変化だと思います。
まずは現状の時給の把握と目標の時給を設定することをおススメします。
そうすることで、農業に関わるひとつ一つの作業に対して、これはいったいいくらぐらいの時給かを考えていけるようになります。

そもそも労働時間がどれだけなのか把握していない方も多いかと思いますので、まずは日々の労働時間がどれだけかを把握する必要があります(その点については次回)。

バリューチェーンの構造を把握しておく

ざっくり時給が分かるだけでも意識や行動が変わっていくと思いますが、より具体的に掘り下げる場合には、いくつかの方法があります。

基本的な考えとして今まで行ってきた通り、会計の武器でもある
『分解すること』です。
ひとつひとつの行動を分解すれば、何が問題になっているかが見えてきます。
分解の方法はいろんな形がありますが、今回は「バリューチェーン」というフレームワーク(思考を整理する枠組み)を使ってみたいと思います。

バリューチェーンを日本語に直訳すると「価値のつながり」とでもいいましょうか。
ある商品が売れて利益になるまで、生産や仕入、製造、販売営業、人材管理、事務作業などのいくつかの工程を表した図で、それぞれの部門を分析するツールです。
イメージとしては、図1にある通りです。

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バリューチェーンのイメージ

ただ、家族経営の農業のバリューチェーンはもっとシンプルになります。
 
生産があり、調整や流通、販売、事務などの構成でほとんどの方は十分だと思います。
なぜここでバリューチェーンというツールを使ったといいますと、生産から販売までをつなげなければ利益ができないということを改めて確認をしたいからです。
生産量が仮に100トンだったとしても、販売に時間をかけなければ売上、利益はでません。
当たり前の話ですが、売らなければどれだけ働いても農家の時給は0円になるということです。
なので、時給をより具体的に計算するには販売の部分の労働も必要になってきます。

次に図2では、農業でのバリューチェーンを簡易的に表現してみました。事務の仕事については支援的な位置なので今回は割愛し、「生産」、「調整/物流」、「販売」の3つに分けました。

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図2の①では、生産したものがすべて、調整して物流にのり、販売され、そのまま利益になったパターンです。現実的にはあり得ない話なのですが、いかにこういった状態にするかを考える必要があります。
次に②の場合だと、生産量は100あるが、そこから調整/物流の過程で80になり、販売はその半分しか売れずに利益が40ということになりました。
こうなった場合は、たくさん時間をかけて働いていて生産量が増えたとしても、利益が少なくなり時給はガクッと下がってしまいます。
そのため、この場合は生産に関わる労働時間を減らしてでも、販売時間を費やすことが結果として、利益が増やし時給が上がることになります。
このバリューチェーンの構造を知っておくと、どこの部門にどれだけ時間を費やすべきかという考えが生まれ、同じ労働時間でも時給があがっていきます。
労働時間を分割して管理する場合は、ぜひともバリューチェーンという考えを使って記録してみるとより分析の精度があがります。

ちなみに参考にですが、生産した販売だけが農業のバリューチェーンではありません。
加工やサービスを使って、生産物以上の価値を増やすことも可能になります。
それが図3のイメージです。

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もちろん、これもうまくいった場合のバリューチェーンの形ですので、ビジネスモデルとして可能かどうかを検証しながら進める必要があります。


以上が労働時間を「分解」して考える基本的な考え方でした。

農業においては、バリューチェーンの販売部門が弱くなる傾向があるため、販売部門の構造がどうなっているかは逐次検証が必要になります。販売部門が弱ければ、そこに労働時間を費やすことが、時給をあげる近道となります。
また、この図解では表現していませんが、量がすべて売れたとしても単価が低ければ、労働生産性は下がってしまいます。委託販売や卸の場合などは特に単価にシビアになる必要があります。

正直、1年目の数字だけでは、傾向性や分析がすぐに見えてくるわけではないですが、数年続けていくと、どの分野に生産性があり、どこに力を入れるべきかが見えてくるようになります。少なくとも草取りや細かな事務処理に時間をかけるべきではないのは、数字を通してよく分かってくると思います。

さらに時給を細かく求めたい場合は「原価計算」にある労務費や「生産管理」という学問が必要になっていきます。ここまでくるとトヨタ式生産方式などの製造業レベルになります。
ただし、この点についてはかなり細かくなるので、やる必要はありませんし、やるにせよ一部分だけ検証すればよいかと思います。

補足になりますが、おススメの書籍も紹介させていただきます。
杉山経昌さんの『農!黄金のスモールビジネス』という本です。

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杉山経昌氏の『黄金のスモールビジネス』

この方は、時給3,000円の仕事をしないと決めて農業経営をされています。売上よりもあくまで利益率、労働生産性を重要視して、無理のないライフスタイルを保つために週休4日で農業を行っている方です。結構、前の本ですが学ぶことが沢山あるかと思います。
興味のある方は、ぜひご一読してみてください。
 
次回は、時給を計る上で「記録すること」の大事さについて話をしてみます!

【自己紹介】
非農家でありながら、東京の八王子で農業系サービス事業を展開。
専門分野は都市農業の経営、都市部での小さな農、コミュニティ農業、農のある生活、キャリア視点から見る農などで幅広く農業を語っています。

【研修事業のご案内】
東京キャリアファーム
 https://tokyo-c-farm.com/
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ZOOMによる講座を中心として
東京八王子を中心に現場での農業体験も行っています。

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