花占い

 「トランプ花占い」と書かれたその露店の中には年齢の分かりづらいメイクをした女性が一人と小さなイス、そして卓上には封の切られていない箱に入ったトランプが置かれていた。占ってほしいと伝えると、簡単にこの占いについての説明がはじまる。
 「トランプ花占いとは、ジョーカーを含めた計54枚のカードを使ってあなたの人生を一年単位で占います。各カードにはそれに対応する花があてがわれており、その花言葉がその一年を表しているということです。」
 なんとなくは理解したものの、占い師は、始めればわかります。とトランプをこちらに押しやり、開けてシャッフルしてくださいと事務的に伝えた。言われるがまま封を切り、占うにはどうも縁起の悪そうなジョーカーを抜いてしまおうと思ったが、二枚とも抜くと不正がばれるような気がして一枚だけ抜いた。バレる前に何度かシャッフルをして占い師に返すと、占い師はトランプの一番上をめくった。
 「一番上のカードは、あなたの20歳の時の運命を表しています。この♧6に対応する花はアルストロメリア、花言葉は未来への憧れ、友情です。いかがでしょうか。」
 そういわれてみるとそんな気もしてくるのが占いの面白さでもあり、退屈さでもある。成人式に飲んだ友人たちを思い出しながら、あたっているような気もしてくる。
 占い師は続ける。未来を占ってほしかったのだが、過去を占うことで占いの信ぴょう性を確かなものにする作戦だったのかもしれない。26歳の花言葉は、うぬぼれ、自己愛のスイセン。人に話したくない思い出が蘇る。30歳の花言葉はツワブキ。謙虚、困難に負けない、といった意味らしく、辞めるか迷いながら働いていた二年前を思い出す。そしてついに現在の32歳を占う時が来た。開かれたカードはスペードの9、ハマギク、花言葉は逆境に立ち向かう。
 「占いに来られるほど見通しの悪い様子でしたけど、今年は逆境に立ち向かうことが大事な一年になるみたいですね。苦しいかもしれませんが勝負の一年になりそうです。」
 ここまで当たるともう占いを疑うことはできなくなっていた。これまでの人生をトランプと花言葉を使って振り返っていくと、さっきまで陰鬱とした思いに押しつぶされていたことが嘘のようだ。こんなにもドラマに満ちた人生を送れていたことになぜ感謝できなかったのだろうかとすら思った。
 占い師はカードをめくりながら説明を続ける。38歳で運命の出会いが起こること、44歳で永遠の愛に気づくこと、翌年は困難に見舞われるけれども乗り越えること。それらすべてを忘れまいと必死にメモを取る。
 めくられていくカードの束が少しづつ薄くなる。すると、入っていることを忘れていたジョーカーが顔を出した。
 「ここから先は、もう一枚のジョーカーが出るまで反対の意味を表すと思ってもらえれば大丈夫です。」
 占い師は続ける。45歳、希望。46歳、気高い心。47歳、勝利と栄光、、、

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