ヨーロッパのリーグランキングは適切か?

ヨーロッパには多くのサッカーリーグがある。

これらはランク付けされており、「リーグランキング」と呼ばれている。(正式には「カントリーランキング」)

ランキングのトップ5は、(一時期変動もあったが)基本的に「5大リーグ」だ。
5大リーグとは、
🇪🇸ラ・リーガ
🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿プレミアリーグ
🇮🇹セリエA
🇩🇪ブンデスリーガ
🇫🇷リーグ・アン
現在のランキングもこの順のはず。

ところで、このランキングに違和感を感じるサッカーファンは昔から多い。3位〜5位は妥当だが、問題は1位と2位だ。
すなわち、「ラ・リーガよりもプレミアリーグの方がハイレベルなのでは?」と感じる人が多い。


なぜか。

まず、ヨーロッパのリーグランキングの作成方法から見てみる。

ランキングは、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)とUEFAヨーロッパリーグ(EL)での成績をもとに決定している。
※CLは、ヨーロッパ最強チームを決める大会。各リーグの上位数チームのみが出場できる。
※ELは、CLに出場できなかった準強豪チームの大会。

2016年、ブンデスリーガのチームがいくつかCLで無双したことがあった。この翌年、ブンデスリーガはランクアップした。
ラ・リーガが1位なのも、チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグでラ・リーガのチーム(例えばバルサ、レアル、アトレティコ等)が好成績を残しているからだ。

各リーグの上位チームが本気で戦った成績で、リーグのランキングを決めるという、当然といえば当然の理屈。

だが、ここで1つ、重大な問題が発生する。

すでに違和感を感じた人もいるかもしれないが、この決定方法だと、チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグに出場するような、各リーグの上位チームのみの力でリーグランキングが決まってしまう。

わかりやすく言い換えれば、上位にものすごく強いチームがあれば、あとは弱小チームばかりでも、そのリーグのランキングは高くなる

長らくリーグランキングで首位を守っているラ・リーガは、このタイプなのではないか?と言われているのだ。

どういうことか。
ラ・リーガには、バルセロナ、レアル・マドリード、アトレティコ・マドリード、セビージャ、バレンシアといった、ヨーロッパの舞台で好成績を残してきた強豪が存在する。
だが一方で、中位〜下位チームのレベルはお世辞にも高いとは言えない。(久保建英が所属しているマジョルカのサッカーを見たことがある人ならば、よくわかるだろう。)
実はこのリーグでは、上位チームにばかり賞金が配分されるので、その他のチームは貧しい。(例えば乾が所属しているエイバルは、シャワールームからお湯が出ないくらいに貧しい。1部リーグなのに)

果たして、上位チームが強い一方で、中位〜下位は金もなく強くもないリーグが、リーグランキング首位で良いのか。


⇆一方、イングランドのプレミアリーグは、下位チームでも大金を持っており、そこそこ強い。今季のJリーグほどではないが、勢力が均衡している。リヴァプールやマンチェスターシティと言った強豪が、最下位チームに苦戦することもある。

「プレミアの方がレベルが高いのでは?」という意見は、これを踏まえた上でのものなのだ。
※わかりやすく数字にしてみるとこんな感じ。(数字はテキトー。)
95.90.90.80.80.50.40.40.4030.30.30.30
vs
95.90.80.80.70.70.70.70.60.60.60.50.50
どちらがハイレベルだろうか?

これは単なる素人の意見ではない。実際にグアルディオラ、クロップ、モウリーニョと言った名だたる名将たちが「プレミアリーグが最もハイレベル」「プレミアで指揮したいと思っていた」「優勝するのが最も難しいのはプレミアだ」といった趣旨の発言をしている。

かつては、プレミアリーグ=何も考えていない脳筋サッカー というイメージがあったが、各チームが大金をはたいて優秀な監督を連れてきた甲斐あって、近年はかなり知的なサッカーをするようになってきている。マンチェスター・シティはその好例だろう。

なお、こういうことを書くと即座に「でもプレミア勢はチャンピオンズリーグで勝てないじゃん」と言ってくる者がいる。しかし、これは非常に短絡的な発想だ。

以前、モウリーニョがこの浅はかな考えを論破する完璧なコメントをしていたので、ここに引用する。

「私はスペインにいた(注:彼はかつてレアル・マドリードを率いていた)が、楽しくなかった。私はスペインで121ゴール、勝ち点100という記録的な数字で優勝したが、シーズンを通して接戦となったのは3、4試合だけだった」別の国のリーグでは、選手を休ませても試合に勝てる。スペインやイタリアでも私は選手を休ませて勝っていたし、常に次の試合や欧州戦に集中できた」
「だが今季、私はブラッドフォード戦(FA杯4回戦)で選手たちを休めたが、その試合に負けてしまった。それこそがイングランドのサッカーだ。2-0で試合に勝っていても、1点返されれば、終盤の数分間で地獄を見ることになるし、2-2で引き分けにされて勝ち点2を取りこぼしてしまうかもしれない」
「これこそがプレミアリーグであり、休む暇はない。試合数の多さだけではなく、試合の激しさ、その激しさは身体的だけでなく、精神面でも感じられる」
「プレミアリーグとリーガの違いは大きいと思う。バルセロナやレアル・マドリーがプレミアリーグを優勝できるか?その確率は半々だろう」

まとめると、「プレミアリーグは他リーグと違って下位チームが強い。だから下位チーム相手でも主力を休ませられない。ゆえに、チャンピオンズリーグには疲労の溜まった状態で臨まなければならず、全力を出せない」と言ったところか。

他リーグのチームはリーグ戦を1.5〜2軍で戦い、力を温存した上でチャンピオンズリーグに挑んでくることが多い。この体力面での差を考えずに「プレミア勢はチャンピオンズリーグで勝てないから弱い」というのは、短絡的だと思う。

とはいえ、プレミア勢がチャンピオンズリーグに全力で挑むとどうなるのかはイマイチわからない。相変わらずプレミアリーグの日程は過酷で、以前よりは改善されたとはいえ、各チームがCLやELに全力で臨めているかは微妙なところだ。

正直なところ、リーガとプレミアのどちらがハイレベルかを結論づけることは出来ない。
あくまでも、僕の主張は「チャンピオンズリーグとヨーロッパリーグの結果をもとにリーグランキングを決める現在の方式は、プレミアリーグに不利」ということだ。

今後プレミアリーグが、チャンピオンズリーグを意識してリーグ日程を改良するとか、余計なカップ戦を1つ無くすとかすれば(過激な案に思われるかもしれないが、実はイングランド内でもこれを望む声は多く、わりかし本気で検討されている)、近いうち、チャンピオンズリーグの覇権も完全にプレミア勢に移るかもしれない。そうなればプレミアリーグは正真正銘、世界最高のリーグになる。僕はそう考えている。

とはいえこれも、所詮は単なる予想でしかない。案外、プレミア勢がCL、ELに全力で臨んでも、時々優勝する程度かもしれない。断言はできない。

とりあえずここで言いたいのは、CLやELだけを見て「プレミア勢は低レベル」と決めつけるのは違うのでは? 背景事情も考慮する必要があるのでは?ということ。

There are no facts, only interpretations.
真実など存在しない。あるのは解釈のみだ。
ニーチェ (ドイツの哲学者)


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