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時代に応じたサッカーの変化と、ファンタジスタの激減

皆さんは元アルゼンチン代表のリケルメというサッカー選手をご存知だろうか。

2000年代に輝きを放った彼は「ファンタジスタ」だった。一言で言えば「美しく意外性あるプレーで観客を魅了するスター選手」。リケルメは良くも悪くも、典型的なそれだった。
それほど走らないし、守備もサボる。だが、攻撃時に彼が見せる美しく正確でトリッキーで華のあるプレーは、世界中の人々を熱狂させてきた。
勝つことと同じくらい観客を楽しませることも重視しているのではないかと思うほど、彼はそのようなプレースタイルを貫いてきた。

ところで、彼のような選手は今、ほとんど観られない。イニエスタ、クアレスマ、ネイマールくらいしか思いつかないのは僕だけだろうか。(もしそうだったら知識不足を謝ろうと思う)

一体なぜこうなったのか。それは、現代サッカーが過度に合理性・効率性を探求したからだと言われている。
すなわち、「勝利への最短ルートを行こう」という考え方が強すぎて、その道を進む途中に華麗なヒールパスをしたり、トリッキーなフェイントを使ったりする選手は「無駄が多い・邪魔」「それって本当に必要?」「華麗さと勝利、どっちが大事なの?」といった風に、居心地が悪くなってしまったのだ。

そんな風に勝利を第一に掲げる思想が強まってきた現代サッカーは、
・合理性
・データを使った知的な戦術
・トレーニング法の革新によりフィジカルが改良されたアスリート型選手たち
らによって、史上類を見ない「超ハイレベル」なサッカーになっている。(この中で無双しているメッシ…)

加えて、近年はセンターバック(日本代表でいうところの吉田や冨安)や、ゴールキーパー(権田や東口)が、攻撃の起点としてプレーしたりと、ファンタジスタ云々にとどまらない大幅なサッカー改革が起きている。

スポーツとは言語と同じく生き物であり、時代とともに変化して行くものだと思う。なので、この流れも時代に沿ったものだと捉えることができる。

だが、現代サッカーにはもう少し遊び心があっても良い、美しさを評価する姿勢があっても良いと思うのは僕だけだろうか……?


シンプルに勝つことだけを考えたとして、「じゃあトリッキーなプレーとかは全部なしで」というのはいくらなんでも極端だ。そういうチームは結構あるけど。
チームが勝つためには、1人くらい意外性のある美しいプレーをする選手がいたほうが良いと思う。なにせ現代サッカーはAIなんかも使って徹底的に相手チーム・選手の対策をするわけだから。意外性無しには勝てない。


それと、話題が少し変わるが、現代サッカーはフリーキッカーを軽視しすぎでは?とも考えてしまう。
単に優れたフリーキッカーがいないのだとは思えない。いるのに、フィジカルや走力が劣るから試合に出してもらえないのではないか。(これはあくまでも想像の範疇)

「昔は良かった」という懐古的発想を嫌う僕がこういうことを語るのは意外かもしれない。
だが、「芸術性があり、遊び心があり、カリスマ性があり、見ていて思わず真似したくなるようなプレーを毎試合見ることができた時代」を懐かしむのは、サッカーファンとしてごく自然なことだと思われる。

チーム全体がファンタジスタである必要はない。現代は昔以上に「結果を残すことこそ正義」な時代だ。だが、ファンタジスタやフリーキッカーをもう少し大切にしても良いのではないか。


ちなみに、上にあげた「芸術性云々」と「現代サッカーのアスリート的要素」を完璧な比率でハイブリッドしたのが、2006年ドイツW杯。
ファンタジスタたち(例:リケルメ、ロナウジーニョ、ジダン、ピルロ、デルピエロetc…)は伸び伸びとプレーし、同時に、現代サッカーに放り込まれても十分通用する身体能力や戦術レベルの高さもあった。
YouTubeにはこの大会のハイライトが多く掲載されているので、ぜひ見てみてほしい。下の2つはとりあえず僕がパッと探して見つけたもの。これを見れば言いたいことがわかると思う。とても面白い試合だ。
フランスvsスペイン (たしか準決勝)
https://youtu.be/qgL-Y5JOohs
ドイツvsイタリア (準決勝)
https://youtu.be/3DWl_VDHxGU

だから僕は、あの頃を思い出して懐かしんでしまうのだ。
ちなみに、日本、いや、世界を代表するフリーキッカーである中村俊輔は、かつてこう語っていた。


「世界の流れで10という背番号も、トップ下というポジションも、無くなっているなかで、ファンタジスタっぽい選手がまた絶対必要になってくる時代が僕はもう一回来ると思うので、それにあった選手、そうじゃない選手も、そういう番号を意識して自分の誇りにするのはいいことだと思う」

僕はファンタジスタの復権を心待ちにしている。

There is more to life than increasing its speed.
スピードを上げることだけが人生ではない。
マハトマ・ガンジー (インドの思想家、政治家)

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