シグロゾ
眼前にあるもの、その意味するところは鉄屑の溜まり場で、近づいてみればみるほど難解な全体像が重なり堆積していく。反射的に目が瞬く、一歩進み立つ足に水溜まり、首を傾けたぼくの完璧なスケッチが落ちていたので拾おうとしたけれど、水源は波立つばかりの朝。じめっとした、それなのに青い空、首を上に向けると馬鹿みたいに立体的で、威圧するように膨れ上がった雲、その奥に臨むのはどこかでひと雨降らせたに違いない、どんよりとした空の燻し、どこからか風、雲が流れ、新たな翳りの流涎にため息をつける素直さをへこんだ壁として想像する、壁紙は等間隔で幾何学でしかないから、別になにも面白くない。
あの、龍の頭みたいな雲がもうすぐ山間に消えたら、一歩踏み出すことにしよう、木など追い抜く速さで走ってみよう、またうしろで刺すように響くのはあのおしゃべりな虫の音、アスファルトは転げ回りたいほど乾いていたから歩み出す、それほど古いものではないらしい鎖が扇風機の首に巻き付いていたから触ると、黒い油が指中にまとわりついた、だからどうってだけ。
赤錆びた自転車のチェーンは別に痛々しくはない、ただちょっと世界を知らなそうなだけだ。シグロゾームにさよならの花束を手向ける手はずだったから、ひび割れた砂を瓶に詰めたものを今日は持ってきた、わざわざ海まで自転車を走らせた勇姿、みんな自分を説明するからうざったい、ぼくもきっとそうなるとか、未来の自分に見当をつけられる生き物は賢い。
苦しさを知らせるようにして、背を向けると、ある程度は近しかったはずの軽金属たちが見てきた、まっすぐに視線、混み合っては結局、みんなどこかへ行ってしまうから、ぼくはずっと誰かを待つ、じゃないと生き抜くことができないから自然と身についた、呪いのような根深さ、恨めしさ、いろいろ考えていると、ふと関係のないことを記憶の砂漠から拾い上げる癖がある、龍の頭みたいな雲はどこかへ消え去ってしまって、大きく穴の開いた、象と、諍いのない踊りの場、おや、よく見ると接続している、きれぎれに淡い雲は入り口か出口かわからない、それらは悩ましいほどにありふれているが、一周して斬新になるほど模様的ではない、この星が混み合っているかどうかは、この星の全てを見てみなければわからない、誰もが知っていると思うこのことも、やがては砂漠に埋まるのだろう、思わず飛び跳ねた、雲から離反したであろう雨の中を走った。