見出し画像

29年目、夏の耐久

8月13日日曜日。
パエリアレーシング29年目の夏は、SUGOミニバイク6時間耐久。大方の予報が外れ、台風由来の雨雲もなぜか、きわどくすり抜けて6時間ずっとドライコンディションのレースだった。

久しぶりの酷暑の中のレースで、体はだいぶキツかったんだけども、トラブルもなく3人で順調に周回を重ね、5時間経過時点でクラス首位。2位との間に約2ラップ差をつけていた。

菅生の上空をかすめる予想だった雨雲が、どうやらそれたらしいという情報を確認してから、5時間過ぎたところで最後のバトンを受け取ったのがわたし。コースに出ると、朝の予選の時のパワーが出てないなあと思ったものの、エンジンはよく回ってるしタイヤの不安もない。壊さずにあと1時間走り切ればクラス優勝だ。

超汗だくだし、無理な姿勢を維持しなければならず体がキツいので、どうしても「あと●分ガンバレ!」と自分とバイクに喝を入れながら走ることになる。あと50分、あと40分、あと30分……あと30分のところで魔物の餌食に。

S字を過ぎて登りに差し掛かったところで、全開にしていたエンジンが、ゲホゲホ、っと数回咳き込んだあと止まってしまった。「マジかー、やっちゃったかー」と思いつつ、キックをするとエンジンはかかる。よろよろとコースに復帰してレコードラインを外して進むのだが、エンジンはまた止まってしまう。なんとかレインボーコーナーまできたので、しばらくは惰性で長いバックストレートを下ることができた。

シャーっと音もなく下っていくと、なぜかまたエンジンが息を吹き返した。「お!やった!」と思い、ギアを入れてみるがギアが入らない。カチカチ、カチカチ……。「ギアを壊した?」「いや、またクラッチか?」と考えてもわからない。そのうちに下り坂が終わってしまい、SPインコーナーの先まで来たところで止まってしまった。エンジンはかかっているのだがギアが入らない。ここで位置エネルギーが尽きたということ。コース外の草むらでバイクを停めた。

オレンジ色のツナギのマーシャルが駆け寄ってくる。「やれやれ、レッカー回収でペナルティかよ」と思いながらマシンに目を落としてよく観察すると、チェーンが外れている。

「えぇっ!そんな理由!?」

幸いチェーンが切れたりはしていない。とりあえずドリブンスプロケットにチェーンをかけたんだけれども、かなりノビノビだ。

「あと28分、もう2位とのアドバンテージ2ラップのうち1ラップぐらいは遅れをとったろう、ピットに入って直すか、このままそこそこのペースで走り切るか」

ピットの作業時間がけっこうかかることを考えたら後者しかなかった。
「『そこそこ』のペースだ、80パーセントぐらい」
と2回頭の中でつぶやいてコースに戻る。ピットには戻らずホームストレートを抜けた。チームメイトは「何がおきたんだ?」と?マークがいっぱいの状態だったろう。

1コーナー、2コーナー……1台抜いた。4コーナーの強いブレーキング、もう1台インから抜く。この時点で、もうさっきの『そこそこのペース』を忘れている。目が三角……ニワトリ以下であるwww

案の定、ハイポイントコーナー前の登り(さっきと同じ場所)でまたチェーンが外れた。まだ1周も走ってない。ガシャン、シャー……。
「そうだ、80パーセントにセーブするって、おれ無理なんだ」
チェーンをスプロケにかけながらピットに戻る決意をした。耐久の場合、走っているライダーは自分が今何位なのか、リアルタイムではわからない。

「あー、もう2位チームに抜かれただろうな。せっかくの順調だったのに、またオレかよ」
と思いながらピットイン。

「チェーン引っ張って!外れちゃう」
「え!チェーン!?」

そんなところが?と困惑しながらもチームメイトが急いでチェーン調整をしてくれた。
「まだクラス1位のままだから焦らずに!」
という声を聞いてコース復帰したのが残り25分ぐらいだったか。

「うーん、このトラブルで2ラップ以上アドバンテージを浪費した気がするんだけど、まだトップなのか?」
と不思議な気持ちのまま走る。もしかしたら計測表示のタイムラグでそう見えてたのかもしれない。実はもう彼らが前を走ってるのかもしれない。モニターに表示される「EX125-1」の1位表示を見てガッツポーズしている2位チームのピットの映像が浮かんだ。

いやいや、そんなん彼らにとって出来すぎなシナリオだろ。状況よくわからんけど「可能なら」猛追するに越したことはない。

1周しながら脳内で指差し確認する。12,500近くまでエンジンはちゃんと回る、咳込んだりいやな感じもない、チェーンも大丈夫そうだ。タイヤのグリップも信用できる。雨も降ってない。

「じゃあ、さっき止まってしまったのは何だったんた?」というのは気になったけど、まあ、もしエンジン壊れたら中古を探せばいいし……。ということで、追い上げ開始。エンジンが止まる前のペースに戻す。

すぐ目が三角になってしまうので、80パーセントにセーブすることができない自分(=耐久には向いてない)。だけどバイクに負担をかけない、できる限り美しい操作はできる気がする。だから「美しく全開で」「美しく全開で」と呟きながら走る。残り10分ぐらいが集中力がきれそうでキツかった。

そしてチェッカー。回転を落としてのウイニングラップ。コースの各ポストにいたマーシャルたちがコース脇まで出てきて色とりどりの旗を全身をつかって振りまわしてくれる。MotoGPでも見かける「完走おめでとう」のサインだ。何度アンカーをやってもこの景色は涙でかすむ。バイクを組んでくれた人、一緒に走ったチームメイト、応援してくれた人、監督、全員の力でここまで来れる、この景色が見られる。

いや、歳をとって涙もろくなったのか。もしかしたら「あと何回この風景を見られるんだろう?」というのも心のどこかであるのかもしれない。

右回りのコースだからか、右足が痛すぎて伸ばしたいんだけど、足がステップから1ミリも上がらない。攣りそうだと思いながらピットに戻るとチームメイトが「優勝、優勝!」といって出迎えてくれた。

あー、ヨカッタ!

結果、EX125クラス優勝(9台中)、総合12位。エンジンが止まった原因は分析中。チェーンは交換時期を過ぎていた疑惑が……「ほったらかしパエリア」らしい整備不良かもw。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?