しぇあはうす!

「えっ、マジで言ってんの?」

「はい、まあ」

「はー……シェアハウス、なぁ」

 部活の後輩である山北 洋介(やまきた ようすけ)。帰りの準備をする途中に彼が放った一言は、俺を思案の海へ突き落とすには十分過ぎるほどの衝撃だった。

 シェアハウス。その定義は色々とあるが、簡単に言うなら1つの家を何人かで共有して生活する形式のことだ。同居人は留学生だったりすることが多いが、洋介が同居するのは同じ大学の同級生……それも、中学や高校の頃の友人らしい。しかも、二人とも俺の後輩。

 ……どんなBL漫画だよ、と思った俺はきっと許される、はずだ。

 キッカケは家族が仕事の都合で海外へ行くという、漫画やラノベであればありがちなもの。それで一人暮らしというならなおさらだ。だが……シェアハウスともなると中々レアになってくる。残った家に住めばいいだけなのにな。

 ……ああ、でも。確かコイツら3人とも違う県から通学してたな。寝坊して単位を落としたりしてたらしいし、洋介の提案は県外から来ているアイツらにとっても渡りに船だったってことか。

「……で、準備は進んでるのか?」

「俺は。あとの2人は……」

 肩をすくめられた。いや、それだけじゃ分からんのだが。

 ……と、その時。

「あ、おれも進んでますよ」

 後ろからの声に首を動かす。声を発した本人からこんちは、と軽く手を振られた。

「……創一か」

 こちらも手を振り返して応える。深山 創一(みやま そういち)。この部活の後輩で、洋介の未来の同居人だ。

「取り敢えず必要なモンは箱に入れたんで、まあ後は後々って感じですね」

「順調だな。……で、残り一人はどうした?」

「今日は用事があるらしいですよ。パチのイベントかなんかだと思いますけど」

 そして残る一人の問題児こと、伯井 桐也(はくい とうや)。この3人が同じ家に住むらしい。

 大丈夫なのか、とか、すげえ不安しかないんだが、とか。そんな心配が頭をよぎったが見なかったことにした。こういうのは言わないに越したことはない、フラグになるからな。

「まあ、また引っ越しとかしたら教えてくれよ。豪華な祝いモノはあげられないけど、簡単なものならやるさ」

「いぇーい! ありがとうございまーす」

「調子のいい奴め……」

 何もらおっかなー、などと目の前でほざく図々しさに思わず笑ってしまう。まあ、下手に謙遜するよりかはそうした態度でいてくれる方がこちらとしても引越し祝いを渡しやすいし、問題はないんだが。……さあて、何を渡そうか。センスないからな、俺。

 ……この時の俺は、純粋に何を渡そうか考えているだけで、まさかあんなことになるなんて思いもしなかった。


――あのさあ、君らさぁ……。

――や、こんくらい普通ッスよ。

――そうそう。

――ああ、そうなのか……って騙されないからな!? 



 ――これは、タダの根暗な大学生こと俺、湯上 壱輝(ゆかみ いつき)が生意気な後輩共に振り回される、ただそれだけの話。オチもない、ミステリもない……ただの日常の話。




続かない。

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