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ネバーエンディング ピース&ラブ(ネパール旅行記)①

今日1月17日は阪神淡路大震災から27年の日であり、2018年のこの日は奇しくも30年間も勤めてきたIT企業を「辞める」と上司に伝える日だった。

年末からモヤモヤと考え続けていたがなかなか踏ん切りがつかない中で、1つの区切りとして誰もが忘れがたいこの日にケジメを付けようと決めて出社した。モノゴトは上手く運ばないもので、生憎その日は上司が休暇を取得していた。「もうちょっと待て」って天の声かも知れない。一瞬は翻意する事も頭をよぎったが、やり残した事はないし別の策は捻りだせなかった。

あれからもう4年経ったのだ。本日から4回に分けて2011年のネパール旅行記を書いていく。お付き合い頂けると幸いです。

 (1)ポカラ発、旅のゴールは3000m峰のブーンヒル 

ネパールは言わずと知れた山岳地帯だ。有名どころだとエベレスト、アンナプルナ、K2など7000~8000m級の山々がこれでもかと控えている。

まさかサラリーマンの短期休暇でそんな名峰に登るのは無茶だ。ガイドブックをあれこれ読んでここなら登れるんじゃないか、と安易に目標を定めた。ポカラから3泊4日でブーンヒル(標高3200m)を目指す事にした。とは言え、自分に人並みの体力が無いのは判っている。特に下りは苦手だ。膝関節を犠牲にして跳ねるようにしてサッサと下山していく強者もいるけど、そんなポップに動けない。元々スポーツが苦手な私はコースタイムが登り60分、下り45分と書かれていたら、登りは60分弱で登れるけど、下りがトロトロ、よく言えば慎重に歩を進めていくので大凡60分を要している。そんな軟弱なハイカーにも拘わらず、世界中の登山者が集まるポカラに飛んだ。

カトマンズ・スワヤンブナート寺院にて

 (2)なぜ海外で登山するのか、そのきっかけは開腹手術だった 

国内でヤマの魅力を知ったのは2009年であり、ネパールに向かったのは僅か2年後の事だった。魅力を知ったと言うほど甘いものではなく、半ば強制力を伴ってそこに引き寄せられるように向かっていったというのが正しい。

私は2009年に腹腔鏡手術を受けていた。ちょっとお腹に穴を開けるだけと説明を受けてそのつもりで手術の承諾書にサインした。その後の経緯を綴っていくと長くなるので結果だけ書くと、麻酔から醒めると開腹手術に切り替わっていたのだ。まだ意識がボンヤリしている状態で、主治医が「お腹が脂肪だらけで見えないので開腹しました」とアッサリのたまう。内科の医師とは長年の付き合いがあったけど、外科は縁遠かった。ただ、余りにも医師のキャラがかけ離れており、呆気にとられてしまった。「うん?」と疑問に思いながらまた麻酔の効果で眠りこけた。意識がハッキリ戻ると、今度は全身の痛みが堪らない。傷口が痛むのだろうけど、そんな区別すらできなかった。

何日も痛くてうなされている中、気持ちはつい江戸時代にワープして武士の切腹ってこんなに苦しいものかと妙に共感してしまった。その中で「緑の中に行きたい」って気持ちが自然と湧きあがってきた。

で、傷の痛みも癒えぬうち、オペから1ケ月経つか経たないくらいで、傘を杖代わりに突きながらヨボヨボ爺さんみたいな前屈みの恰好で入笠山(長野県・山頂まで1時間くらい)に登った。傍目にはトホホなほろ苦い登山デビューだった。ただ、身体的なダメージが自らの想像をはるかに超えており、このままベッドの上から起き上がれなくなるんじゃないかとリアルな恐怖を感じていた。だから、突き動かされるようにスッとヤマに入っていけたのだろう。

その翌月は飯盛山(長野県・JR野辺山駅から2時間くらい)に登って、ようやく「ヤマっていいな」って気持ちが心に沁みてきた。痛みは完全に癒えていたのだ。まだあの頃は八ヶ岳の存在すら知らなかった。赤岳(南八ツ)も北横岳(北八ツ)もその違いを知る由もなかった。でも夏山も冬山も歩いてみると気分爽快。そのノリのままニュージーランドでトレッキングしてみるとなかなか快適だった。そうなれば次はネパールかスイスだと、次の旅先は定まってきた。

このネパール旅を決行したのはゴールデンウィークだったので短期勝負になる。いつも出たとこ勝負の旅を繰り返しているけど、ネパール登山は登山ガイドと一緒に登るルールになっており、時間のロスを避けるため稀有な例だけど日本でヤマ旅のパーツを予約していった。

普通、国内で3200m峰に登るのならスタート地点は1800~2000mくらいじゃないか。富士山五合目だって標高2300mくらいあって山頂まで1000数百m、国内登山の感覚は大抵そんなものだろう。それでも十分にハードだ。

ところが、電子メールで貰った行程表を見て焦る。出発地点の標高は僅か800mと書かれていたのだ。軟弱な登山者に大丈夫なのか、一瞬にして不安になりメールで質問した。カトマンズにあるツアー会社の日本人スタッフから届いた回答は「子供でも普通に登っています」とアッサリしたものだった。これでは泣き言も言えない。

トレッキング中に食べたダルバート


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