見出し画像

【#下書き再生工場】参加作品3:夫が買ってきた食材を腐らせまい

下書き再生工場の工員の方々は本当に優秀で有給を取っている間に沢山の製品が生み出されました。ヒヤヒヤしながらも精魂込めて作業に着手させていただきます。

平工員はそやmが着手したのは「夫が買ってきた食材を腐らせまい」です。すのう工場長!チェックお願いします!

「ありがとう」

そう言った私の頬は引きつっていた。最近夫が家事に協力的になったのだが、それがとにかく苦痛なのだ。きっかけは私が流行り病にかかり隔離期間で買い物に行けなくなったことだった。

「俺が買い物は全部するよ」

優しい夫だ。欲しいと思う食材をLINEするとその通りに買ってきてくれた。幸い、罹患したとはいえ私の症状は軽く家の中で退屈していたため、夫の揃えてくれた食材でいつもよりも手の込んだ食事を喜んで作る。

「買い物をしてくれてありがとう」

夫の気遣いが嬉しく微笑む私にまんざらでもない顔を向ける夫。隔離期間が終わり、私が自由に外出できるようになっても夫の気遣いは続いた。いい人と結婚して良かったと思い幸せをかみしめていたのだが。

「え?なにこれ?」
「料理番組で紹介していた材料だよ。いいなって言っていたじゃん」

冷蔵庫を開け呆然とする私に夫がニコニコと答える。確かに「いいな」とは言った。でもそれは作りたいと言ったわけではなく……モヤモヤとするものをなんとか飲み込み、夫が買ってくれた食材で夕食を作る。

「美味しいね。買っておいてよかったよ」

喜ぶ夫の顔を見るのは嬉しいが慣れない調理にヘトヘトだ。でもせっかくの好意を無にはできないし。笑顔で返しながらもそっとため息をつく。

夫が買ってきた食材を腐らせまい、最近は冷蔵庫を開ける度にそう思う。長期保存ができるものならいいのだが夫の購入するものは全て期間が短いのだ。一度、どうしてなのか聞いたのだが、

「フードロスだよ」

と自慢げに言い放った。またなにか新しい情報を得たらしい。買い物はもういいと伝えたことがあるが「俺の好意を無にするのか!」と目を血走らせて怒られた。買い物をして帰る姿を近所の人に見せたい夫にとって許せない申し出だったのだ。

「余計なことだっていうのかよっ」
「ごめんなさい」

その日以来、私はため息をつきながら冷蔵庫を開ける。本日中の食材を無駄なく使う方法を考え包丁を握る。自分で食材を選ぶ自由が失われた今、私にとってキッチンは地獄となった。最近では使い残しはないかとチェックもされる。

「この野菜の切れ端、出汁が取れるんだよな?」

料理もしないのに知識だけ増える夫に吐き気を覚えた。近所の人に相談をしたこともある。

「あら、いい旦那さんじゃない」

その言葉に絶望をした私は今日も黙ってキッチンに立つ。ああ、今日はどうやって使い切ろう。

夫が買ってきた食材を腐らせまい
夫が買ってきた食材を腐らせまい
夫が買ってきた食材を腐らせまい

包丁を握る手に力が入る。

「ただいまー」

鮮魚の匂いをさせながら夫が帰宅する。冷蔵庫を開ける顔はにこやかだ。

「おお、鍋からいい匂いがしているな。お前が料理上手だから買ってきがいがあるよ」
「そう?」

手を洗ってくると夫がいなくなった後、冷蔵庫を開ける。さっき空にした庫内は生鮮食品でパンパンだ。これは明日の弁当に使って朝食には……

「ど、どうした?」

戻ってきた夫に私は飛び込んだ。

「なんだよ急に抱き着い……え?」

腹に突き立った包丁を呆然と見る夫に私は言った。

「これ以上、食材をロスしないために大本を絶とうと思って」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?