北部では気候的にも産業的にも奴隷を必要としなかったので、北部の街に黒人奴隷は少なかった。北部のアメリカ人は奴隷問題に殆ど無関心だったという。しかし、南部のアメリカ人にとっては、経済問題・国政選挙の有権者数を決める人口問題・良心の問題として、黒人奴隷の扱いについては敏感であった
生活の中で、彼は理性を除くあらゆるものに服することを身につけており、いざ理性が唯一の導き手となると、その声を聴き分けられないからである。たくさんの新しい欲求に囚われるが、彼はこれに抗するに必要な知識も活力もない。欲求こそは戦うべき主人であるのに、黒人は服従するしか安定を得られない
アフリカ系の人々に対する抑圧は、彼らから人間に本来備わる権利をほとんどすべて一挙に奪ってしまった。合衆国の黒人は自分の国の記憶さえ失った。祖父の話した言葉も分からず、その宗教を放棄し、その習俗を忘れた黒人にとって不十分ながらも祖国の思いをいだけるものは主人の館のほかにはない
戦後、父祖の記憶を強制的に消された日本人は、ここに描かれた「自己を見失った黒人解放奴隷」に似てはいないだろうか。占領期間に自分たちから父祖の記憶を取り上げた者たちに服従し、彼らを真似ることで仲間入りしようと努めている これこそが戦闘の結果以上の真の敗北ではないのだろうか