せかいの ちゅうしんには かけがえのない ひとがいる 「でもね、ひとり じゃないのよ」 おんなは いつくしむ おおかみの しらない あたたかさ 「……わからない」 ふふ、とわらった おんなは けつやのいい おおかみを なでた
くろいおおかみの ことばに おんなは めを おおきくして おどろいた 「……へんなひとね」 あかい うつくしい ひとみが ふしぎそうにまたたいた 「あんたは ずっと ひとりだった のか? 」 「えぇ、もちろん」 ひとりでいる でも ひとりじゃない
むかーしむかし あるところに くろいおおかみがおりました おおかみは あかいひとみが とてもきれいでした
「わからないわよね」 ころり ころり とわらうおんな 「……あんたのそばは なぜか ここちいい」 ぶっきらぼうな ことば でも、すこしだけ ひとみが やさしい 「そう、こうえい だわ」 ひとりと いっぴきは ひとのいないもりで おだやかに すごした。
だれよりも じゆうで だれよりも さみしそうな おんなは いつも ほほえんでいる 「くろいおおかみさん きみは じゆうだ どこへいっても いいんだよ」 すこし こまったように わらう おんな 「すきに していいのだから おれは ここにいる」 ともに いたいと おもった
いてついた こころの おおかみは すこし まぶしそうに おんなをみた 「……あんた ふしぎだな」 「あら わたしはふしぎではないわ」 ただ いきているのと どうじに しんでいるだけ だもの と ほほえんだ
「とても しずかだな」 めをほそめた おおかみは つぶやいた 「そうね でも わたしのまわりには きもちがあるのよ」 きぎのさえずり どうぶつたちのしせん くうきのこえ しぜんの きもち がそこにはあった
おんなのいるせかいは とてもしずかだった きぎが ある かわが ながれる かぜが ふく それだけでも おと はする なのに、おんなのまわりは おと がしなかった
くろいおおかみの けいやくを うわがきして くろいおおかみに じゆう をあたえた 「……じゆうというのは わたしにひっついていることではないわよ?」
ないはずの 「こころ」というものが うごいた 「おや、わたしとおなじ ひとみ なんだね」 おんなは とても つよかった
「のろいをはこぶ くろいおおかみ わたしに なにかごようかしら?」 ばらのように つきのように ほほえむおんな くろいおおかみの しょうたいを しっていても おそれず ほほえむ きじょうで つよいおんな
くろいおおかみとは すこしちがう あかいひとみ こきゅうをわすれるほど みいっていた
「はじめまして」 すずのなるような こえ 「なにか ごよう? しっこくの おおかみさん」 ほほえんだおんなに くろいおおかみは おとこの めいれいをわすれた
くろいおおかみを めのまえにして さけんだり おびえたり おこったり にんげんは とてもさわがしい でも いま めのまえにいる くろかみのおんなは ちがっていた おびえも いかりも なにもない ただ しずかに くろいおおかみに ほほえんだ
もりのなか ひとり すんでいる くろかみのうつくしいおんなは とてもしずかだった
とあるひ くろいおおかみは くろかみのうつくしいおんなを きずつけろ とめいれいされました
おとこは くろいおおかみに なんども なんども ひとをきずつけさせました なにも かんじずに くろいおおかみは おとこに したがいます
とあるおとこに つくられた くろいおおかみ だれかを きずつけるために うまれたことを しっていました それでも くろいおおかみは なにも かんじずに そんざいしていたのです